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第1章
会話
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ダニエルの部屋にて。
数年ぶりに訪れたその部屋で、私とダニエルは黙ったまま対峙していた。
「……」
「……」
互いに、無言を貫く。
物凄く気まずい空気だ。
私はその圧に吐き気を催しながらも、ただ、
「ビリーの母親」
という意地だけでその場に立っていた。
「その、久しぶりだな。アンリ」
ダニエルは、強張った顔でそう言った。
「とりあえず、座ってくれ」
「いえ、結構ですわ。ダニエル様」
私はその申し出を断る。
「えっ」
座ることを拒絶されたのがそんなにおかしいのか、ダニエルは目を丸くする。
「ソファは、君の目の前にあるぞ」
「ええ、そうですわね」
私はソファを一瞥する。
「目はあるので、きちんと見えておりますわ」
「……」
「……」
またしばしの無言。
「そうか」
座りたくない意思は伝わったようで、ダニエルは自分だけソファに腰かけた。
「それで」
私は尋ねる。
「ご用件はなんでしょうか?」
しかし、ダニエルはその問いに答えることはなかった。
「ビリーは元気か?」
と、私の質問を無視して聞いてくる。
「ビリー」という言葉がこの男の口から出てきたときは、さすがの私もゾッとした。
「元気ですわ。おかげさまで」
嫌悪感をおくびにも出さず、私は答える。
「そうか」
「……」
「……」
成り立たない会話。
かつてはそれなりに愛していた相手ではあったが、今ではただの同居人だ。
だからこそ、この会話が苦痛で苦痛で仕方がない。
「ご用件がないなら、私は戻ります」
無駄な時間を過ごすのが嫌で、私はそう言って踵を返す。
「これから、ビリーに絵本を読んであげるので」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
慌てたように私を足止めするダニエル。
「話はまだ終わっていない――ビリーの教育の件で、君と話がしたいんだ」
私は足を止めた。
数年ぶりに訪れたその部屋で、私とダニエルは黙ったまま対峙していた。
「……」
「……」
互いに、無言を貫く。
物凄く気まずい空気だ。
私はその圧に吐き気を催しながらも、ただ、
「ビリーの母親」
という意地だけでその場に立っていた。
「その、久しぶりだな。アンリ」
ダニエルは、強張った顔でそう言った。
「とりあえず、座ってくれ」
「いえ、結構ですわ。ダニエル様」
私はその申し出を断る。
「えっ」
座ることを拒絶されたのがそんなにおかしいのか、ダニエルは目を丸くする。
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「ええ、そうですわね」
私はソファを一瞥する。
「目はあるので、きちんと見えておりますわ」
「……」
「……」
またしばしの無言。
「そうか」
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「それで」
私は尋ねる。
「ご用件はなんでしょうか?」
しかし、ダニエルはその問いに答えることはなかった。
「ビリーは元気か?」
と、私の質問を無視して聞いてくる。
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嫌悪感をおくびにも出さず、私は答える。
「そうか」
「……」
「……」
成り立たない会話。
かつてはそれなりに愛していた相手ではあったが、今ではただの同居人だ。
だからこそ、この会話が苦痛で苦痛で仕方がない。
「ご用件がないなら、私は戻ります」
無駄な時間を過ごすのが嫌で、私はそう言って踵を返す。
「これから、ビリーに絵本を読んであげるので」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
慌てたように私を足止めするダニエル。
「話はまだ終わっていない――ビリーの教育の件で、君と話がしたいんだ」
私は足を止めた。
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