本当に愛しているのは彼女だと、旦那様が愛人を屋敷に連れてきました

小倉みち

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第1章

数ヵ月間

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「……」


 すると突然、ダニエルは呆けたような表情を浮かべた。

「アンリ、お前……」


「……?」

 
 意味がわからず、私は顔をしかめる。

「なんです?」

「いや、なんでもない」


 何に引っかかったのだろうか。

 しかしなんでもないというのなら、深くは詮索しない。


 ダニエルの持ってきた話は凄く嬉しかったが、かと言ってそれがこの男と長話をわざわざする理由にはならないのだ。


「とりあえず、数ヵ月先なんですのね?」

「ああ」

「王子に合っていただく前に、ビリーにはきちんと我が家で教育を施さなければいけませんわ」


 当然、第四王子の前にビリーを現状のまま出すわけにはいかない。

 作法や基礎知識など、様々なものをたった数ヵ月間でビリーに叩き込む必要があるのだ。


 王家がビリーに求めているのは、ただ単なる「友人」ではない。

 第四王子を支え、彼のお手本となる存在。


 つまり、今まで以上にビリーを厳しくしつけなければならない。


 年端も行かない子どもにそのようなことをするのは心苦しいが、すべてはビリーの今後のためだ。


「その辺に関しては問題ない」

 ダニエルが言った。

「王家がビリーの家庭教師を用意しているそうだ。多少の補助金も出してくれる」

「王家が用意してくださったのですね。それは安心ですわ」


 私は頷く。

「ここ数ヵ月間、ビリーには頑張ってもらいましょう」

「ああ」




 それから数ヵ月間、私とダニエルはビリーの教育に勤しんだ。

 ビリーも最初の方は嫌がっていたが、彼は生まれながらにして地頭が良いらしい。

 好奇心も旺盛で素直な性格だからか、余り苦もなくスポンジのように吸収していった。


 ビリーの様子も気にかけてはいたが、一番驚いたのはダニエルの様子だ。


 よほど自分の息子が第四王子の友人に選ばれたのが嬉しかったのだろう、今まで見向きもしなかったビリーに剣術を教えたり、話しかけたりなど父親らしい行動をするようになったのだ。

 さらに、ビリーの教育に悪いからか、離れに住んでいる愛人にあまり顔を見せなくなっていた。


 正直今更感甚だしいが、ダニエルはどうにかして世間体を保つためにビリーと距離を縮めることに躍起になっていた。


 ――そう。

 この数ヵ月間は、この歪な家族が「普通」なものになろうとしていた。

 実に滑稽ではあったが、私とダニエルは必死だった。


 私はビリーの将来のために。

 ダニエルは自分の出世のために。


 動機はかなり不純だったが、それでも充実な時間だったことは確かだ。

 多少なりとも、ダニエルと世間話をするようになったくらいには。
 
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