【完結】恋がしたい? どうぞご勝手に

小倉みち

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斑点

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「うっ、ぐぅ……っ」


 パトリックは呻いている。

 息も荒く、両手で身体を掻きむしっていた。

「これ、 風邪じゃないじゃないの!」

「すぐに誰か呼んでこないと!」


 マーサはパトリックの様子を、私はパトリックの母親を呼んでくることにした。


「奥様、奥様!」

「あら、どうかなされました? ウェンディさん」


 パトリックの母親は、優雅に紅茶を飲んでいた。

 息子が大変なときに、この人は一体何をやっているんだ?


「パトリックがっ」

「まあ、パトリックがどうかしたの?」

「パトリックの様子がおかしいんです! 肌に紫色の斑点がいくつもあって、それでとても苦しんでいるんです」

「斑点? どういうことかしら? あの子は風邪なのよ?」


 駄目だ。

 話していても、埒が明かない。

「とりあえず、私についてきてください!」

「えっ、ええ」


 私は彼女の腕を掴み、引っ張ってパトリック部屋まで連れていった。




 そこから先は、凄かった。

 まず、パトリックの姿を見た母親は悲鳴をあげ、後ろに倒れ込んでしまう。

 私たちで必死にそれを支えつつ、なんとかかかりつけの医師の連絡先を聞いて、連絡を取るように使用人へ頼む。


 医者が来る間、氷水を痒いところに当てたり濡れた布で身体を拭いたりと看病を続けた。


 一息つく間もなく、私たちは屋敷中を駆けずり回る。


 ようやくやって来た医者は、パトリックの診るなりこう言った。


「毒ですな」

「毒?」


 私たちは顔を見合わせる。

「ええ。毒です。それもかなり強力なものですね。危ないところでした。一足遅ければ、もう」

「まあ」


 パトリックの母親は両手で顔を覆った。

「私が風邪だと思ってしまったばかりに……っ」

「奥様が悪いわけではないですよ」


 医者は優しい声で、彼女を慰める。

「この毒は暗殺によく使われていた類のものでして、初期症状は熱と怠さという風邪と同じものなのです。ここで勘違いしてしまえば、早期治療が行われず死に至る。平和な世の中になった今、まさかこのような毒が使われるとは思ってもいませんでした――これを飲ませてください」


 医者はそう言って、ポケットから小さな瓶を取り出す。

「これは解毒剤です。電話で聞いた症状でもしやと思ったのですが、当たっていて良かった」

「ありがとうございます!」


 母親は使用人に瓶を渡し、彼らはその蓋を開け、パトリックに飲ませた。

「これで落ち着きます。ご安心ください」

「良かった……っ」


 母親は安心のあまり、ぽろぽろと涙を流した。

「それにしても」

 医者は言う。

「こんな古代の毒が偶然パトリック様の身体に入るとは考えられない。まさか、こんな時代に暗殺でしょうか?」

「もしかすると、恨みを持つ誰かの犯行かもしれません」

 と、使用人の1人。


「どなたか、心当たりはございませんか?」

 母親の言葉を聞き、私とマーサは顔を見合わせた。


 まさか。


 嫌な予感が、脳裏によぎる。


 ユーリとヒメナ……!

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