23 / 63
斑点
しおりを挟む
「うっ、ぐぅ……っ」
パトリックは呻いている。
息も荒く、両手で身体を掻きむしっていた。
「これ、 風邪じゃないじゃないの!」
「すぐに誰か呼んでこないと!」
マーサはパトリックの様子を、私はパトリックの母親を呼んでくることにした。
「奥様、奥様!」
「あら、どうかなされました? ウェンディさん」
パトリックの母親は、優雅に紅茶を飲んでいた。
息子が大変なときに、この人は一体何をやっているんだ?
「パトリックがっ」
「まあ、パトリックがどうかしたの?」
「パトリックの様子がおかしいんです! 肌に紫色の斑点がいくつもあって、それでとても苦しんでいるんです」
「斑点? どういうことかしら? あの子は風邪なのよ?」
駄目だ。
話していても、埒が明かない。
「とりあえず、私についてきてください!」
「えっ、ええ」
私は彼女の腕を掴み、引っ張ってパトリック部屋まで連れていった。
そこから先は、凄かった。
まず、パトリックの姿を見た母親は悲鳴をあげ、後ろに倒れ込んでしまう。
私たちで必死にそれを支えつつ、なんとかかかりつけの医師の連絡先を聞いて、連絡を取るように使用人へ頼む。
医者が来る間、氷水を痒いところに当てたり濡れた布で身体を拭いたりと看病を続けた。
一息つく間もなく、私たちは屋敷中を駆けずり回る。
ようやくやって来た医者は、パトリックの診るなりこう言った。
「毒ですな」
「毒?」
私たちは顔を見合わせる。
「ええ。毒です。それもかなり強力なものですね。危ないところでした。一足遅ければ、もう」
「まあ」
パトリックの母親は両手で顔を覆った。
「私が風邪だと思ってしまったばかりに……っ」
「奥様が悪いわけではないですよ」
医者は優しい声で、彼女を慰める。
「この毒は暗殺によく使われていた類のものでして、初期症状は熱と怠さという風邪と同じものなのです。ここで勘違いしてしまえば、早期治療が行われず死に至る。平和な世の中になった今、まさかこのような毒が使われるとは思ってもいませんでした――これを飲ませてください」
医者はそう言って、ポケットから小さな瓶を取り出す。
「これは解毒剤です。電話で聞いた症状でもしやと思ったのですが、当たっていて良かった」
「ありがとうございます!」
母親は使用人に瓶を渡し、彼らはその蓋を開け、パトリックに飲ませた。
「これで落ち着きます。ご安心ください」
「良かった……っ」
母親は安心のあまり、ぽろぽろと涙を流した。
「それにしても」
医者は言う。
「こんな古代の毒が偶然パトリック様の身体に入るとは考えられない。まさか、こんな時代に暗殺でしょうか?」
「もしかすると、恨みを持つ誰かの犯行かもしれません」
と、使用人の1人。
「どなたか、心当たりはございませんか?」
母親の言葉を聞き、私とマーサは顔を見合わせた。
まさか。
嫌な予感が、脳裏によぎる。
ユーリとヒメナ……!
パトリックは呻いている。
息も荒く、両手で身体を掻きむしっていた。
「これ、 風邪じゃないじゃないの!」
「すぐに誰か呼んでこないと!」
マーサはパトリックの様子を、私はパトリックの母親を呼んでくることにした。
「奥様、奥様!」
「あら、どうかなされました? ウェンディさん」
パトリックの母親は、優雅に紅茶を飲んでいた。
息子が大変なときに、この人は一体何をやっているんだ?
「パトリックがっ」
「まあ、パトリックがどうかしたの?」
「パトリックの様子がおかしいんです! 肌に紫色の斑点がいくつもあって、それでとても苦しんでいるんです」
「斑点? どういうことかしら? あの子は風邪なのよ?」
駄目だ。
話していても、埒が明かない。
「とりあえず、私についてきてください!」
「えっ、ええ」
私は彼女の腕を掴み、引っ張ってパトリック部屋まで連れていった。
そこから先は、凄かった。
まず、パトリックの姿を見た母親は悲鳴をあげ、後ろに倒れ込んでしまう。
私たちで必死にそれを支えつつ、なんとかかかりつけの医師の連絡先を聞いて、連絡を取るように使用人へ頼む。
医者が来る間、氷水を痒いところに当てたり濡れた布で身体を拭いたりと看病を続けた。
一息つく間もなく、私たちは屋敷中を駆けずり回る。
ようやくやって来た医者は、パトリックの診るなりこう言った。
「毒ですな」
「毒?」
私たちは顔を見合わせる。
「ええ。毒です。それもかなり強力なものですね。危ないところでした。一足遅ければ、もう」
「まあ」
パトリックの母親は両手で顔を覆った。
「私が風邪だと思ってしまったばかりに……っ」
「奥様が悪いわけではないですよ」
医者は優しい声で、彼女を慰める。
「この毒は暗殺によく使われていた類のものでして、初期症状は熱と怠さという風邪と同じものなのです。ここで勘違いしてしまえば、早期治療が行われず死に至る。平和な世の中になった今、まさかこのような毒が使われるとは思ってもいませんでした――これを飲ませてください」
医者はそう言って、ポケットから小さな瓶を取り出す。
「これは解毒剤です。電話で聞いた症状でもしやと思ったのですが、当たっていて良かった」
「ありがとうございます!」
母親は使用人に瓶を渡し、彼らはその蓋を開け、パトリックに飲ませた。
「これで落ち着きます。ご安心ください」
「良かった……っ」
母親は安心のあまり、ぽろぽろと涙を流した。
「それにしても」
医者は言う。
「こんな古代の毒が偶然パトリック様の身体に入るとは考えられない。まさか、こんな時代に暗殺でしょうか?」
「もしかすると、恨みを持つ誰かの犯行かもしれません」
と、使用人の1人。
「どなたか、心当たりはございませんか?」
母親の言葉を聞き、私とマーサは顔を見合わせた。
まさか。
嫌な予感が、脳裏によぎる。
ユーリとヒメナ……!
14
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
元婚約者が愛おしい
碧井 汐桜香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる