【完結】恋がしたい? どうぞご勝手に

小倉みち

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容態

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 不穏なことをいうマーサのせいでさらに不安を煽られ、私たちはお茶を素早く飲み干し、パトリックの部屋を訪れることにした。


「婚約者でもないのに男子の部屋に行くなんて」

「それは2人きりの場合よ。パトリックのお母様も許してくれているし、別に気にする必要ないんじゃない?」

「そうだけど……」

「それに、私たちは婚約者がいないわ。あんたはあんたでいろいろあるし。問題はないでしょ」

「え、ええ。それはそうなんだけど」


 こういうとき、マーサの活動的な言葉が目に眩しい。

 感情一直線で、リスクを考えない。


 聞こえは悪いけれど、要は思い切りが良いということだ。


 私には到底無理な話。


 マーサは、パトリックの部屋のドアをコンコンとノックする。

「……」

 
 部屋の向こうからは何も聞こえない。

「パトリック?」


 マーサは扉越しに声をかける。

「私よ、パトリック。マーサよ。ウェンディもいるわ。お見舞いに来たの」


 お見舞いに来たわりに何も持ってきていないのだけれど、学校の帰りに直接来たから買ってくる暇もなかったと言い訳出来るな、とどうでも良いことを考えているうちに、マーサは扉を勝手に開けた。

「ちょっと」


 私は慌てて制止する。

「返事もないのに勝手に開けるなんて」

「返事出来ない身体なのかもしれないじゃないのーーパトリック? 大丈夫?」


 マーサはぬけぬけとそう言い、部屋の中に堂々と入っていった。

 私も彼女に追随する。


 彼の部屋はなんというか、凄かった。

 「貴族新聞」なんていう貴族からすればニッチな情報誌を知っているだけあるなという感じ。


 部屋の壁が見えなくなるくらいの本棚が立ち並び、中には専門書やサブカル系の書籍がみっちり隙間なく差し込まれている。

 机の上にはごちゃごちゃとスクラップブックや新聞紙などが積み重なっており、チェストや窓の外枠には、よく分からない模型やジオラマ、唯一空いている壁には世界地図が貼られている。


 パトリックは、その部屋の端に設置されたベッドで眠っているらしい。


 しかし、何かおかしいな。

 臭いというか、なんというか。


 ちょっと鼻に来るような刺激臭がする。


「パトリック? 元気?」


 元気じゃないと思うけど、そう声をかけつつ彼に近づく。

「ぅ……ぐぅ……っ」


 明らかに苦しんでいる声。


「ごめんなさい。ちょっと失礼するわね」


 マーサは上からすっぽり被せられていた羽毛布団を力いっぱい引き剥がした。


 布団の中から、丸まったパトリックが現れる。


「きゃっ」

「な、何よこれ……?」


 私たちは思わず大声を上げる。
 

 彼はシルクの寝間着を身につけ、ベッドに寝転がっていた。

 しかしその袖口や襟から見える彼の肌は、真紫だったのだ。


 紫色の丸い湿疹が、彼の身体にいくつも発生していた。
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