崖っぷちOL、定食屋に居候する

小倉みち

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第1章

お風呂

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「すみませんでした!」
  

 数分後、私は土下座した。


 もちろん寝巻きは既に着ている。


 私の数段上の立ち位置にいるのは、顔を赤く腫らして不機嫌そうな冬馬さんだった。

 その周りでにやにやと楽しそうに笑う、その他の老若男女の面々。
  

 その意味深な笑みはものすごく腹が立つが、そんなことより私の心は恥ずかしさが支配していた。
  
 どうにもこうにも私は一人暮らし歴が長いせいで、人を認知しなさ過ぎる。

 
「俺にそんな粗末なもん見せといて、裏拳噛ますとかまじで有り得ねぇよ」

 そう言ってそっぽを向く冬馬さんに、私は逆ギレする。

「はぁ? そもそも私がお風呂にいるのに、勝手に冬馬さんが入ってきたんじゃないですか!」

「そうだけど、それでも変なことしてたのはお前だろ?」

「へ、変なことって言わないでくださいよ! あれはボディチェックで!」


 自分の体型を確認しているだけで。

 そんなの、よ、よくやることだし。


「だいたい粗末なものって何? なんのことですか!?」

「粗末って、そりゃあ」

 声を出す代わりに、冬馬さんは私の胴体を凝視する。
  

 しばいてやろうか。

 本当に。


「最っ低。だいたい、世の中の女性の平均値はこれくらいなんですよ!」

「平均値がそれならとっくの昔に世界は滅亡してるぞ」

「失礼よ! ちょっと雛子。これ、あんたのお兄様でしょ! なんとか言ってやってよ!」

「まあまあまあまあ二人とも落ち着いて」

 喧嘩を止めに入られたのは、丸く優しい男性と品のある女性だった。

 何となくこの兄妹に似ていることから、ここの主人と奥さんなのだろう。
  

 彼らは雛子と同じように意味深な笑みを浮かべて、さらに続ける。

「喧嘩両成敗よ。そうでしょう? 冬馬」

 と、奥さん。

「お前も謝りなさい。意図せずだが、女性のお風呂場を覗いてしまったんだから」

 と、旦那さん。

  
 両親に窘められた冬馬さんは、渋々といった感じで私に、

「……すまない」

 と、謝罪した。
  

 すると、今度はその怒りが萎んで逆に申し訳なくなる。

 その前にも謝ってもらったし、別に悪気はなかったのだから。


 それをまあ、わざと見たみたいに怒る自分も悪い気がした。


「……いや、いいですよ。お互い嫌な思いしたんですし」

 そう答えると、なぜか周りは目に見えてにやにやしだしたので、また腹が立つ。


 なんなのよ。

 さっきから。


「じゃあ揉め事も解決したところで、さっさと始めちゃいましょうか」

 奥さんが口火を切って、すぐさま厨房へ向かう。
  

 え? 何々?

 なんのこと?


 私の不思議そうな顔に気づいた雛子が教えてくれた。

「ほら、あんたも上に行って今日買った服に着替えてきなさいよ。今からマコの歓迎会するんだから」

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