17 / 46
第2章
ちらし寿司
しおりを挟む
涙というものは永遠に感情と一緒に溢れ出てくるものだと思い込んでいたが、いくら偉丈夫であっても体力が無尽蔵でないのと同様で、私の身体は涙を出すことに疲れ果てた。
泣き疲れたと同時にすっきりした私の心が次に着目したのは、号泣している姿を一部始終冬馬さんに見られ、あまつさえ彼の優しさに付け込んでしっかり慰めてもらったことだった。
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしい。
大の大人が号泣だなんて。
しかも、まだ知り合って日が浅い男の人の前で。
顔を覆ったままいつまで経っても復活しようとしない私に痺れを切らしたのか、冬馬さんは尋ねる。
「もう良いか?」
「……まだです」
「泣き止んだろ」
「まだですってば」
私は鼻水をすする。
「顔ぐしゃぐしゃなんで」
「いつまでもそのままでいるつもりか?」
冬馬さんは私の腕をしっかり掴んで顔から引き剥がそうとするが、私は梃子でも動かない。
「嫌です! 嫌!」
駄々っ子のように叫ぶ私に向かって、冬馬さんは最終手段を取った。
「じゃあこれ、いらないんだな」
「えっ」
「それなら残念だが、俺が食べるとしよう」
ちらし寿司を自分の方に持っていき、店で使う割り箸をパキッと割った。
「いや、食べます! 食べますから!」
それは嫌だ。
食べたい。
自分の顔とちらし寿司を天秤にかけた私は、迷うことなく後者を選んだ。
「なら、食べろ。今すぐに」
「はい! いただきます!」
勢いよくそう言い、私は待望の一口を中に放り込んだ。
その瞬間、口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。
声にならない悶えを発し、噛み締めるようにゆっくり歯を動かす。
魚の脂、酢のさっぱりした味わい、プチプチと音を立てる食材、甘い錦糸卵、そしてシャキシャキのきゅうり。
まさに極上。
ブロック型に切られた彼らは、様々な食感を楽しませてくれる。
文句なし。
最高。
「どうだ? 店で出せるか?」
冬馬さんの問いに、私は激しく頷いた。
「最高です! 私だったら毎日通います」
私の反応が良かったのか、少し彼は嬉しそうだった。
「そうか、それは良かった。作った甲斐があった」
泣き疲れたと同時にすっきりした私の心が次に着目したのは、号泣している姿を一部始終冬馬さんに見られ、あまつさえ彼の優しさに付け込んでしっかり慰めてもらったことだった。
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしい。
大の大人が号泣だなんて。
しかも、まだ知り合って日が浅い男の人の前で。
顔を覆ったままいつまで経っても復活しようとしない私に痺れを切らしたのか、冬馬さんは尋ねる。
「もう良いか?」
「……まだです」
「泣き止んだろ」
「まだですってば」
私は鼻水をすする。
「顔ぐしゃぐしゃなんで」
「いつまでもそのままでいるつもりか?」
冬馬さんは私の腕をしっかり掴んで顔から引き剥がそうとするが、私は梃子でも動かない。
「嫌です! 嫌!」
駄々っ子のように叫ぶ私に向かって、冬馬さんは最終手段を取った。
「じゃあこれ、いらないんだな」
「えっ」
「それなら残念だが、俺が食べるとしよう」
ちらし寿司を自分の方に持っていき、店で使う割り箸をパキッと割った。
「いや、食べます! 食べますから!」
それは嫌だ。
食べたい。
自分の顔とちらし寿司を天秤にかけた私は、迷うことなく後者を選んだ。
「なら、食べろ。今すぐに」
「はい! いただきます!」
勢いよくそう言い、私は待望の一口を中に放り込んだ。
その瞬間、口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。
声にならない悶えを発し、噛み締めるようにゆっくり歯を動かす。
魚の脂、酢のさっぱりした味わい、プチプチと音を立てる食材、甘い錦糸卵、そしてシャキシャキのきゅうり。
まさに極上。
ブロック型に切られた彼らは、様々な食感を楽しませてくれる。
文句なし。
最高。
「どうだ? 店で出せるか?」
冬馬さんの問いに、私は激しく頷いた。
「最高です! 私だったら毎日通います」
私の反応が良かったのか、少し彼は嬉しそうだった。
「そうか、それは良かった。作った甲斐があった」
10
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる