崖っぷちOL、定食屋に居候する

小倉みち

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第2章

仕事

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 したいこと、したいことねぇ。


 私は、冬馬さんの言葉を心の中で反芻する。

「高木さんが、今一番したいことはなんだ?」

 という質問。


 今したいこと?

 それはもう、仕事を辞めてさっさと家に帰ることだ。

 そして、冬馬さんの作ってくれた美味しい料理を食べること。


 だけど、彼が聞きたかったのはそういうことじゃないはずだ。


 やりたいこと、やりたいこと……。

 何かあるだろうか?

「ちょっと高木さん!」

 
 ……うーん。

 思いつかない。

「おーい!」


 例えば、仕事場をもっと明るくするために頑張ってみるとか?


 いや、でもなぁ。

 自分の夢に設定してまで、私は会社を改革したいわけじゃないし。


 と言うか第一、会社は会社、私は私だ。

 私はそこまで会社に人生を捧げるつもりがない。


「おい、高木! 聞いてんのか!?」
  

 冬馬さんみたいに、定食屋でミシュランなんていう壮大な夢を作ることなんて出来ないし。

「……高木さん?」
  

 あれ? 

 そもそも、定食屋ってミシュランに入れたっけ?

  あれって、レストランしか無理なんじゃ。


 いや、お寿司屋さんだってミシュランガイドに入ってるし。

 行ける……のか?


「高木さん? 高木さん、ねぇ、聞いてる?」
  

 自分のしたいことか……。


 うーん。

 空を飛ぶとか? 

 いや、それはなんかちょっと違う気がする。


 ライト兄弟かよ。


「ねぇ、マコ」

 肩を揺さぶられ、はっと気づくと、隣の席の雛子が険しい表情をしていた。

「呼んでるよ」

「えっ、誰が?」
  
 勇者を見るような目の雛子が顎をしゃくって指し示したのは、動揺した様子の松井さんだった。

「あっ」


 ヤバっ。

 サーッと血の気が引く。

「……あんた、本当に凄いよ」
  

 本当にそう思っているのかどうか知らないが、そう呆れ返った雛子。

 彼女へろくにお礼も言わないまま、私は慌てて松井さんの方へ向かった。


「すみません! 気づきませんでした!」
  
 怒られる、そう思って身を縮こませる。

「あ、うん……」

 一瞬呆けた松井さんは、直ぐに元に戻ると、

「呼ばれたらすぐ来ること。これ、営業でもなんでも、仕事の鉄則だから」

 と言って、席を立ち上がった。


 もっと嫌味なのなんだの言われると思ったので、拍子抜けする。


「今から、お得意様が来ているからあなたも同行してね」
  
 先週渡した資料、ちゃんと全部目を通してきたでしょうねと圧をかけられ、私は高速で頷いた。

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