崖っぷちOL、定食屋に居候する

第4章

大掃除

　大晦日。
  

　かつての私なら、ビールとツマミを購入し、ただひたすらテレビにかじりついていたことだ。
  

　今年もそうしようと思っていた。


「お疲れ様でした、私！　いやもう本当、よく頑張ったね。 さあ、年末年始は思いっきり楽しみましょう！」
  
　なんて言って、慎ましやかな年末を送る予定であった。
  

　さらに、今年は冬馬さんもいるのだ。

　一人暮らし特有の虚しさを、ふと感じることもないだろう。

　彼も優しいから、私の茶番に付き合ってくれるはずだ。
  

　そう思っていたら、

「高木さん！　ここにまだ埃あるだろ！」
  
　野太い男の怒鳴り声が、店に響き渡る。

「そんなの、冬馬さんが気づいたなら冬馬さんが取ってくれればいいじゃないですか！」

「俺を頼るな！　あんたの全部チェックしてたら、非効率だろうが！」

「非効率だろうがなんだろうが、する人と確認する人に分けた方が、もっと綺麗になるじゃないですか！」

「俺の領域が掃除できないだろ！」
  
　二人の言い争いを見て、三人は爆笑している。

「仲良くて羨ましいわぁ」
  
　と、お母様は仰った。
　

　私たちは何も楽しくない。
  

　一年溜めに溜め込んだ汚れを今年中に消化すべく、家族総出＋私で定食屋の大掃除をしているのだ。
  

　別に毎日やってんだから、しなくても良くねというのは一般人の考え方。

　食品を扱う場所はそんなこと言ってられない。 
  

　掃除が大の苦手という私と、必然的に掃除をしまくっていた、いわゆる掃除職人とでは所詮住む世界が違ったのだ。


「高木さん！　ここまだ掃「はいはいはいはい！　今やりますよ！」
  

　投げやりな大声を出して、冬馬さんの元まで走って向かう。


　わざと音を立てて走っているのは、少しでも苛立ちをアピールするためだ。
  

　窓、その木枠、テーブルの隙間、空間の角をちまちまちまちま爪楊枝で擦っては、埃をゴミ袋に捨てていく。
  

　こんな調子じゃ、一体いつ終わるのよ。
  

　掃除は必要なこととはいえ、つい毒づく。
  

　腰にもくるし、背中も痛い。

　私はまだ二十代なのよ！


「ねぇ、ひな……」
  
　さすがに腰がキツいので、掃除場所を変わってもらおうと、雛子の方を見る。
  

　彼女は一心不乱に厨房を磨いていた。

  

　……。

  

　さあ、仕方がない。

　自分の分は自分でさっさと終わらせようか。