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第1章

しばらく

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 掲示板にその花嫁探しの情報が載った後も、この村は穏やかだった。


 何人かの女の子たちが、

「ベネット公の花嫁に選ばれてくるわ」

 と、貯めていたお小遣いを使って王都に行こうとしていた。


 が、当然家族から、王都に行かないでくれと止められる。


 王都に行ったところで、彼の「番」である可能性は低い。

 せっかく貯めたお金も無駄になるし、万が一そうであれば、村から1人分の労働力が失われることになる。


 この村じゃ、若者は宝だ。

 畑や養鶏場を受け継いでくれる者がいなくなれば、こんな小さな村、すぐに廃村になってしまうだろう。


 大人たちは、それを危惧していたのだ。


 しかし、当然それに反発する女子もいた。


 私の友人の1人は、家族の反対を押し切って王都へと旅立った。


 夜、彼女は私に挨拶しにきた。

 家族には内緒で、家を飛び出してきたのだと言う。


「私、どうしてもこのチャンスを手離したくないの」

 彼女は、キラキラとした目でそう言った。

「正直、ベネット公の花嫁に選ばれる確率は低い。それは十分わかっている。でも私、王都へ行きたい。王都へ行って、ベネット公に会いたい」


 彼女の気持ちは、よくわかった。


 前世の私も、かつてはこんな気持ちを抱いていたから。


 ローレンを手に入れることは不可能に近いと、頭の中ではわかっていた私。

 だけど、それでも諦められなかった。


 あの恋を手放すことが、出来なかった。


 友人であれば、彼女を止めるべきだろうというのは、よくわかっていた。


 彼女は、自分の脳内で作り上げたベネット公に恋をしていたから。


 一度も会ったことのない男性に、彼女は心を奪われてしまっていた。


 だけど、私は止めなかった。


 もしここで止めて、彼女の家族を呼びつけたら。

 彼女はきっと、村から出られなくなる。

 あの辛い気持ちを味わわずに済む。


 だが、私は彼女の友人じゃなくなってしまうだろう。

 私は一生、彼女に恨まれて暮らさなければならなくなる。


 ――それに。

 彼女にしたって、あのころの私にしたって。


 彼に会わなければ、そうしなければ、ずっとそのことを後悔し続けるのだろうと思う。

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