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妹の様子がおかしい
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私は公爵令嬢、セシリア。
本日は屋敷で家庭教師の先生から裁縫を習っていたけど、急に義姉のマリアンヌが部屋に飛び込んできたのには驚いた。
「ちょっとマリアンヌ、どうしたの?」
私は刺繍枠と針を机に置き、ため息をつく。
最近入ったばかりの家庭教師は、マリアンヌの奇行に驚いて声も出ないようだ。
「お姉様、もう終わりよ!」
「なにがよ」
わけがわからない。彼女の話には昔から脈絡がなかった。
「私はヒロインだったのよ!」
ーーしかし、今日ほど意味のわからない言葉はなかった。
「ヒ、ヒロイン?」
私は怖くなり、家庭教師に目線をやる。
「なんですかそれ?」
家庭教師は静かに首を横に振った。有識者として選ばれた彼女でさえ、その「ヒロイン」という職業は知らないらしい。
「とぼけないで、この悪役令嬢」
「あ、悪役令嬢?」
「そうよ、私はヒロインで、セシリアお姉様は悪役令嬢。それがこの世界の摂理なの」
勉強しすぎたせいかしら。
彼女の言動がとても心配になってきた。
非常に勉強嫌いのマリアンヌは、両親が無理やり雇ったスパルタ家庭教師に悲鳴をあげていた。
勉強させられすぎて爆発しちゃったのよ、きっと。
お父様、お母様にマリアンヌのことはもう諦めてもらおうかしら。
人ってそれぞれ器の大きさが違うと進言したのに、あの人たちは過剰にマリアンヌに期待するのよ。
そんなんじゃ、マリアンヌものびのび暮らせないわ。
「すごいわね」
それにしても、なんて声をかければいいのかわからず、私はとりあえず褒めることにした。
「『摂理』って言葉を覚えるなんて」
「ちょっと馬鹿にしないでよ! ……って待って? もしかして、私が思っている以上に、この問題は深刻?」
マリアンヌはボソボソ呟いている。
駄目だわ。このままだと、こっちまで頭がおかしくなりそう。
「落ち着きなさい、マリアンヌ」
私は言った。
「まだ眠っているの? よくわからないこと言わないで、早く目を覚ましなさい」
「もう起きてるわよ! この雌猫!」
「ひっ……!」
家庭教師が軽く悲鳴をあげた。
私もあげたい。
仮にも公爵令嬢が「雌猫」などという下品な言葉遣いを。
「すみません、先生。両親呼んできますわ」
私は立ち上がり、部屋を発とうとすると、その腕を思い切り強い力で掴まれた。
「痛っ」
「まだ話は終わっていないわ!」
「もう、何よ!」
さっさと言ってちょうだい、私はあなたを診てくれる病院を探すから、と振り返る。
自分の思い通りに動いたのがそんなに嬉しいのか、満面の笑みで彼女は言い放った。
「ここは乙女ゲームの世界なの。私は転生者で、ヒロイン。お姉様は悪役令嬢よ。だから、お姉様の婚約者を私に頂戴!」
ーーーーーーーーーーーーーーは?
本日は屋敷で家庭教師の先生から裁縫を習っていたけど、急に義姉のマリアンヌが部屋に飛び込んできたのには驚いた。
「ちょっとマリアンヌ、どうしたの?」
私は刺繍枠と針を机に置き、ため息をつく。
最近入ったばかりの家庭教師は、マリアンヌの奇行に驚いて声も出ないようだ。
「お姉様、もう終わりよ!」
「なにがよ」
わけがわからない。彼女の話には昔から脈絡がなかった。
「私はヒロインだったのよ!」
ーーしかし、今日ほど意味のわからない言葉はなかった。
「ヒ、ヒロイン?」
私は怖くなり、家庭教師に目線をやる。
「なんですかそれ?」
家庭教師は静かに首を横に振った。有識者として選ばれた彼女でさえ、その「ヒロイン」という職業は知らないらしい。
「とぼけないで、この悪役令嬢」
「あ、悪役令嬢?」
「そうよ、私はヒロインで、セシリアお姉様は悪役令嬢。それがこの世界の摂理なの」
勉強しすぎたせいかしら。
彼女の言動がとても心配になってきた。
非常に勉強嫌いのマリアンヌは、両親が無理やり雇ったスパルタ家庭教師に悲鳴をあげていた。
勉強させられすぎて爆発しちゃったのよ、きっと。
お父様、お母様にマリアンヌのことはもう諦めてもらおうかしら。
人ってそれぞれ器の大きさが違うと進言したのに、あの人たちは過剰にマリアンヌに期待するのよ。
そんなんじゃ、マリアンヌものびのび暮らせないわ。
「すごいわね」
それにしても、なんて声をかければいいのかわからず、私はとりあえず褒めることにした。
「『摂理』って言葉を覚えるなんて」
「ちょっと馬鹿にしないでよ! ……って待って? もしかして、私が思っている以上に、この問題は深刻?」
マリアンヌはボソボソ呟いている。
駄目だわ。このままだと、こっちまで頭がおかしくなりそう。
「落ち着きなさい、マリアンヌ」
私は言った。
「まだ眠っているの? よくわからないこと言わないで、早く目を覚ましなさい」
「もう起きてるわよ! この雌猫!」
「ひっ……!」
家庭教師が軽く悲鳴をあげた。
私もあげたい。
仮にも公爵令嬢が「雌猫」などという下品な言葉遣いを。
「すみません、先生。両親呼んできますわ」
私は立ち上がり、部屋を発とうとすると、その腕を思い切り強い力で掴まれた。
「痛っ」
「まだ話は終わっていないわ!」
「もう、何よ!」
さっさと言ってちょうだい、私はあなたを診てくれる病院を探すから、と振り返る。
自分の思い通りに動いたのがそんなに嬉しいのか、満面の笑みで彼女は言い放った。
「ここは乙女ゲームの世界なの。私は転生者で、ヒロイン。お姉様は悪役令嬢よ。だから、お姉様の婚約者を私に頂戴!」
ーーーーーーーーーーーーーーは?
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