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王子

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 嫌なことが起こると、それと同等なことが何度も起こるとはよく言ったものだ。


 ユージーンのせいでイライラしながら廊下を歩いていると、よく見知った、嫌な意味でよくご存じの人物に声をかけられた。


「おい、ローゼリア」


 その尊大な声。

 ……間違いない。
 

 私は奴に聞こえぬよう、軽く舌打ちをして笑顔で振り返った。

「これはこれは、気づきませんで。失礼いたしました――フレデリック殿下」


 私は大袈裟にそう言って、丁寧に頭を下げる。


 顔だけ男。

 顔以外はただのクソ野郎。


 私の婚約者である。

「ふん」


 フレデリック王子は、偉そうにふんぞり返っている。


「随分と偉そうだな。公爵家の分際で」

「……」


 公爵家の分際。

 「分際」の意味をご存じなのだろうか、殿下は。

 確かに第三王子よりも身分は下だが、公爵家は、貴族の中の最上位の存在だ。


 彼にそんなことを言われる筋合いはない。


「それは失礼しました」


 私は出来るだけ苛立ちを込めて謝罪した。

「それでは、私は忙しいので。失礼いたします」

「まあ、待て」


 フレデリック殿下は、かなり機嫌が良いらしい。

 ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべている。

「我々は婚約している身だ。世間話ぐらいしていこうじゃないか」


 ああ……。


 私は思いっきりため息をつく。


 こういうとき、私にとって最悪の事態が起こる。

 毎回そうだ。


 殿下が私にわざわざ話を振るのは、私に何か命令したいからだ。

「……で、なんのお話ですか?」


 そうは言っても、王子との会話を無下にするわけにもいかず、私は観念してそう尋ねた。


 フレデリック王子は、待ってましたとばかりにベラベラと口を動かす。

「それがな、良い案を思いついたんだ」

「良い案?」

「先日、友人からセンスが良いと褒められたのだが。俺自身そうは思わないが、まあ友人が言うならそうなんだろうな――で、そのセンスを生かして、俺がデザインを務めるアパレルブランドを作ろうと思うんだ」

「は?」


 相変わらず発想が斜め上過ぎる。


 友人の誉め言葉から、一体どうやってアパレルブランド立ち上げにまで話が膨らむのだろう。

「そこでだ」


 フレデリック殿下は私の肩にポンと手を置いた。


 私は思わず顔をしかめる。

「お前の家、身分は低い割に金はあるからな――ぜひ、出資してほしい」

「は?」

「断ろうとは考えるなよ。なんてったって、お前は俺の婚約者なんだからな」


 ……最悪。

 なんで私、こいつの婚約者なんだろう。


 ていうか、将来この男と2人でやっていけるのか?
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