上 下
26 / 74

証拠

しおりを挟む
「彼が従兄弟です」


 次の日、私とカトリーヌ王女の前に現れたピートは、意気揚々と同じ顔の男を差し出した。

「どうも」


 顔も背格好も似た彼は、私たちに向かって軽く頭を下げた。


 確かにそっくりだった。

 瓜2つだ。


 私も、その辺であったらピートなのかその従兄弟なのかわからないくらいの出来栄えである。


 オスカーとノアの懸念が当たってしまった。


 王女のこめかみがピクリと動く。

 例の従兄弟の言動に苛ついているのだ。


 ピートの説明によれば、その従兄弟は庶民のはずだ。

 その庶民から、軽口を叩かれることが我慢出来ないのだと思う。


「ほら、そっくりでしょう!」

「で」

 王女はぶっきらぼうに尋ねる。


「その彼が、あなたの制服を勝手に着て学園に侵入し、そして女子生徒たちに手を出したと言いたいわけ?」

「え、ええ。もちろんそうです――だよな?」

「ええ、まあ」


 不愛想な従兄弟は、小さく頭を上下に振った。


「へえ」


 カトリーヌ王女の声はどこまでも冷たい。

「だから、あの写真に写った男は俺じゃない。ミア、信じてくれ」


 ピートは私に視線を向けた。


 私は何も言わずに後ずさる。


「ノア」

「はーい」


 王女の一声で、ノアが現れた。


 ピートの顔が強張る。


 この揉め事に隣国の王子が介入するとは思っていなかったのだろうか。


「初めまして。ノアと申します」


 爽やかな笑みを浮かべる。


 中世的な美形に微笑まれて、なぜか2人は顔を赤らめた。

「早速ですが、これをどうぞ」


 ノアは2本のペットボトルを渡す。

 中は透明な液体だった。


 多分、水。


「飲んでください」

「えっ」


 ノアはピートと従兄弟の2人に、無理やりペットボトルを押し付ける。


 2人は少し警戒しているようだった。


 もしかして、その中に毒でも入れたのではないか。


 私は心配になってノアに目配せするが、彼は、

「心配しなくても、すぐそこの自動販売機で買った水ですよ。どうぞ」


「あ、はい」

 ありがとうございますと、ノアの圧によってピートと従兄弟は水を飲み干す。


「ごみは預かります」

「えっ」


 ノアは強引にその殻のペットボトルを奪った。

「はい、じゃあこれ。聖女様」


 今度は、ノアは私にカメラを手渡す。

「これで僕と2人のスリーショットを取って」

「う、うん」


 なんとなく察したのは、このペットボトルと写真を使ってDNA鑑定と顔分析をしたいということだと思うんだけど。


 まさかの直球で行くとは思わなかった。


「はい、チーズ!」

 満面の笑みのノアと、その両脇で困惑しているピートとその従兄弟。


 シュールな被写体たちだわ。
しおりを挟む

処理中です...