そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

小倉みち

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怒り ~レナ視点~

 なんなんだ、あの女は。


 私はイライラして、思いきり教室のゴミ箱を蹴飛ばす。


 それを見た生徒たちがビクッと身体を強張らせるが、そんな細かいことを気にしている余裕はなかった。


 何様なんだ、あの女は。


 私の目の前は、ふつふつと湧き上がってくる怒りで真っ赤になってしまっている。


 私は確かに、庶民だ。

 全くもって信じがたいことだが。


 私は男爵の父と、庶民の母の間に生まれた。

 もともと母は男爵家の使用人として働いていたが、そこで父に見初められて私を妊娠したという。


 しかし父は婚約者がおり、その人との結婚が決まるや否や、あっさりと母を捨てた。


 あなたの子どもがいるのですよと母は食い下がったらしいが、その女の嫌がらせにより、屋敷を離れるしかなくなってしまう。


 結局母は市井に戻ったが、子1人母1人で生きて行かねばならず、昼夜問わず働いたせいで早死にした。


 私はそれからずっと、1人だったのだ。


 だからこそ、あのクソ父親に引き取られたときはチャンスだと思った。

 あの義母との子どもが望めず、私を男爵家の跡取りにしようと企んでいたのだ。


 あんな2人を両親とも思えないが、それでも私にとって、男爵家という立場はかなりアドバンテージになる。

 市井でひっそりと生きてきたあの不遇な日々を変える、またとない機会なのだ。


 しかも、私は殿下に選ばれた。

 この庶民である私が、殿下の恋人になったのだ。


 しかし、あの人たちのせいで、その夢が一気に現実に引き戻される。


 あの連中は、私をあくまで「庶民」だと言いやがった。


 腹立つ。

 めちゃくちゃ腹が立つ。


 いつまで経っても、庶民から貴族になれない感覚。

 それをあの人たちに突きつけられたような気がした。


 それに、あの女――。

 スカーレットとかいう、殿下の元婚約者。


 男に捨てられたのに、私の母とは違って不幸にならず、のうのうと生きているその神経。


 貴族として生まれ、貴族として育ったあの女の裕福さを見ると、どんどんと心が荒んでいった。




 

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