そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

小倉みち

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暴力 ~レナ視点~

 セシル殿下に殴られたあの日以来。

 あの人は、表面上でさえも私に優しくすることはなくなってしまった。


 と言っても、8対2、9対1くらいの割合で機嫌が悪いときとそうでないときがある。

 普段はとても冷たいが、ふとした瞬間に、


「レナ」

 と、甘い声で私の名前を呼んだり、

「これやるよ」

 と、宝石などの希少な品をくれることがある。


 しかし大半は、私をぞんざいに扱い、暴力を振るうのも日常的になっていた。


 ちょっとしたことで、殿下は私の頬を殴る。

 
 食事が不味いだとか、寝坊したとか、両親に嫌味を言われた。

 その程度のことを、全部彼は私のせいにした。


「お前がスカーレットにあんなことをしたせいで、俺たちはこんな不味い食事をしなきゃいけなくなったんだ!」

「お前が起こさなかったから寝坊したんだろうが!」

「お前みたいなカスと付き合ってるせいで、国王夫妻に嫌味を言われた!」


 そんなの、どう考えても私のせいじゃない。

 だけど、どうしてだろうが。


 暴力が日常になるにつれ、どんどんと自分の思考がおかしくなっていくような気がした。


 なぜ、私はこんなにも殴られているのだろうか。

 罵詈雑言を浴びせられ、手を出され、それでもなお私は殿下と付き合い続けている。


 当然、父親から、

「絶対に殿下と別れるんじゃないぞ」

 と、釘を刺されているからと言うのもあるが。


 私は結局、殿下を愛しているからなのだろう。

 殿下が好きだからこそ、このひどい仕打ちにも耐えられるわけで。


 それに……。

 殿下が言うなら、本当は私が悪いのかもしれない。


 元はと言えば、私がしくじったせいでこんなことになってしまったのだから。


 私が、私のせいで、だから私が――。


 そんなときだった。

 私に救世主が現れたのは。

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