そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

小倉みち

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助け ~レナ視点~

 その人は、食堂に現れた。


 いつものように、私と殿下とその他もろもろが食事を取っていたときのこと。

 教室の近くにある食堂とカフェは不味いという殿下の我がままで、私たちはもともと使っていた場所で昼休みを過ごすようになった。


 移動が面倒なのは難点だが、向こうよりもこっちの方が人が多いので、激しく暴力を振るわれる心配はない。


 しかしあの日、殿下は私を殴り飛ばした。


「お前……!」


 と、何かを言おうとした殿下だったが、結局理由も言わずに私に暴力を振るう。


 私は横に吹っ飛び、汚い食堂の床に転がった。

 少し抵抗して受け身を取ったのが気に食わなかったのか、私に馬乗りになるセシル殿下。


 二発目を受けるために顔を腕で覆った私。


「お前のせいで! お前のせいでこんな――」


 しかし、その拳が届くことはなかった。


 ドゴンッ。


 私の頭上で鈍い音が聞こえ、身体が不意に楽になった。

 殿下が私の身体から離れたようだ。


「マジでさぁ。あんた、キモいよ」


 冷ややかな声が、上から振ってくる。


 恐る恐る腕を退けると、そこには信じられない光景が待ち構えていた。


 殿下が頬を押さえて転がっている。

 それを見下ろすようにして、1人の男子生徒が仁王立ちしていた。


 ざわつく生徒たち。


 数秒経って、なんとなく事態を飲み込み始める。


 殴ったのだ。

 この生徒は、この学園で最も地位が高い男を思い切り殴り飛ばしたのだ。


「フィ、フィル……」

 彼に声をかける友人と思しき生徒。

 だがそれを無視し、この男子生徒――フィルは真向から殿下を睨みつけていた。


「なっ……! き、貴様何を――」


 口をパクパクさせる殿下。


「だから、マジでキモいっての」

 と、フィル。

「自分に反抗しない女殴って、何気持ち良くなっちゃってんの?」

「……」

「頭おかしいんじゃねぇの、あんた」


「あ、あの!」

 私はフィルに声をかける。

「この人は第一王子で」


「そんなもん知ってるっつーの」

 ゴミを見るような目で、殿下を見据えるフィル。


「第一王子つっても、あまりにもお子ちゃま過ぎねぇか? 思い通りに行かないからって全部人のせいにして。初等部で習わなかったのか? そんな当たり前のこと」

「……」


 何も言わず、ただ震えている殿下。

 絶句しているのだろうか。


「今のあんたの行動、なんて言うと思う?」


 フィルは殿下に何かを耳打ちする。

 カッと、セシル殿下の顔が赤くなった。


「――それがやりたいなら、自分の部屋でヤッてろよ。人にそんな気持ちの悪いもん見せてんじゃねぇよ、この性的倒錯者がよ」


 そう吐き捨てて、周囲の視線を一心に浴びながら1人食堂を出て行く男子生徒。


 この人は――。

 もしかしてこの人は、私を助けてくれたの?


 なぜ?


 私は1つの結論に至った。



 もしかしてあの人、私を好きなのかしら――?

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