そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

小倉みち

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フィルの部屋②

 意外かもしれないが、フィルの部屋には今回初めて入った。


 まあそれは当然のことだ。

 主人である私が用もない限り使用人の部屋に遊びに行くことはないし、用があったとしても基本的にフィルは本館の方にいる。


 したがって、私がわざわざ使用人の住まう別館に足を運んだことはなかった。


 私は物珍しさから全体を見渡す。


 彼の住みかは、彼なりに整理整頓された部屋だった。

 使用人としての必要最低限の道具の他に、お父様からいただいたのだろう褒美の品々が飾られている。

 
 棚を良く見ると、幼いころ私が上げた絵なんかも飾られてあった。


 フィルが物凄くマメであるのが良くわかる部屋だった。


 フィルは簡素なテーブルにパウンドケーキを置き、

「紅茶淹れてくるから、あんたはここで待ってて」

 と言った。

「いえ、あの。お構いなく。気にしないで。仕事じゃないんだし」

「別に俺のを淹れてくるだけだよ。パウンドケーキだけだと口の中パサパサになるだろ。あんたのはついで」

「そ、そう……。それなら」


 実を言うと、私は少し変な気分だった。


 いつも見るフィルは、執事服と制服姿だけ。

 きちんとした服装をして、私の後ろに控えてくれていた。


 しかし今の彼は、着心地の良さそうな部屋着に包まれている。


 普段のきっちりした姿と、今のプライベートな姿のギャップにどぎまぎした。



 しばらくして、フィルがティーポットとカップ2つを持ってくる。

「安物だけど。どうぞ」

「あ、ありがとう」


 私はカップを受け取り、紅茶を口に含む。


 味は薄いが、独特な風味でなかなか嫌いじゃない。

 癖になりそうな味だった。


「……」

「……」

「……」


 しばしの無言。


 どうしてだろうか。


 私は疑問に思う。


 いつもなら、私たちの間の話は尽きることがない。

 たいていはどちらからともなく話題を振っては、楽しくおしゃべりをする。

 基本的にはどうでも良い話だけれど。


 だが今はどうだろう。

 私は彼になんて話しかければ良いのか、全くわからない。

 
 おかしい。

 一体どうして?

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