そんなに別れたいとおっしゃるなら、承知いたしました

小倉みち

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案の定

 案の定というか、予想通りなんだけど。


 男爵家は夜逃げしたらしい。

 
 男爵家と言っても、離婚して実家に帰った妻と家出して行方不明の娘ではなく、男爵ただ1人だが。


 使用人がすべていなくなったもぬけの殻の屋敷が発見されたのは、我が家で雇った使用人たちが荷物を引き取りに戻った頃だった。


 空っぽになった屋敷のことを報告された父は、

「やっぱりか」

 と、笑った。


 しかし私は若干腑に落ちない。

 ようは全員、自分がやるべき罪の償いから逃げたということだ。


 反省の様子も全く見えないし、第一私たちにはメリットがない。


「本当にあれで良かったのですか?」

 私が尋ねると、

「あのまま放置する気はもちろんない。だが、彼らがこれから死ぬほど苦労するのは確定した」

 と、お父様が言った。

「もともと金を湯水のように使う連中だった。嫌な意味で『貴族的』だとも言える。そんな連中が、外へ出て平民として生活出来るわけがない」

「まあ、それは……」


 私だってそれは難しいだろう。

 幼いころから培われてきた常識や価値観は、ちょっとやそっとじゃ抜けきれない。

 ましてやあんな頑固な人たちには無理だろう。


「連中が音を上げて貴族社会に戻ろうとするのが楽しみだ」


 そうやって楽しそうに笑うお父様は、まるで狩りを楽しんでいるようにも思えた。

「あなた」

 お母様がお父様に声をかける。

「そろそろお仕事に行かないと」

「ああ、そうだったな」


 父はよっこらせとソファから立ち上がる。

「行ってくる――たくさんの使用人たちを雇ってしまったからな。彼らの給料を払うためにも、しっかりと仕事をしてくるよ」

「「行ってらっしゃいませ」」


 そう、お父様は男爵家の使用人をすべて引き受けたのだ。

 男爵家を潰すのが目的なら、そこで働く者たちの新しい職場を用意してやらねばならないと父は考えたそうだ。


 そこで、一気にたくさんの使用人たちが屋敷に入ってきた。
 
 部屋数も足りないようなので、また使用人用の住む場所を建てるらしい。


 我が家は基本的に少数精鋭だったので、仕事が減って使用人たちもさぞかし気が楽になっていることだろう。

 
 ――ただ。

 私には少し、不愉快な気持ちになる部分はあった。


 フィルと、その新しい使用人たちの関係についてである。

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