短編まとめ(闇)

こうらい ゆあ

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誰が駒鳥壊したの…?

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「ずっと側にいるから…」
誰よりもずっと近くに居た
誰よりも彼のことは知ってるつもりだった

生まれた時からずっと一緒に居た
幼いながらに、運命だと信じていた

だから……だから、この証は必然だった
誰よりも近くに居たから
誰よりも、ずっと側に居たから…

彼も、同じだと思っていた
彼も、同じ気持ちだと思っていた

だから、番になるのは必然で、それは幸せなことだと信じていた

「お前のことは、俺が必ず守るから…。絶対に、お前だけは傷付けさせない」
強く抱き締めてくれた腕が苦しくて、でも、彼の気持ちを表しているようで嬉しかった


目を覚ますと、そこは見慣れた殺風景な部屋でしかない
鉄パイプで出来た簡易ベッドには、固くて寝心地の悪いマットが敷かれているだけ
自分が出したモノで、所々シミが出来てしまっている汚らしいベッドでしかない

「……薬、また…買わなきゃ…」
誰かに言ったわけじゃない
ただ、口から溢れてしまった言葉
ベッド横のチェストの引き出しに残っている抑制剤のシートはもう残り僅かしかない
通常のモノじゃない、違法に作られた薬
通常の発情期ヒート抑制剤よりも、ずっと強くて虚脱感を伴うモノ

僕は、もうコレがないと生きていけない
コレしか…頼ることができないから…

首全体を覆うようなチョーカーを指でなぞり、外れていないことを確認する
頸を誰にも見られないように、誰にも噛まれないように…
コルセットのように紐で巻かれた、赤い革で出来たチョーカー

「また、あの夢か……ホント、未練がましい、な……」
窓のガラスを伝って流れる雨粒
外が暗いから、ガラスに僕の姿が映し出されてしまう

痩せ細り、殴られたアザの残る身体
片目はガラス玉のように動かない
涙なんて、ただの生理現象だ
悲しいなんて、苦しいなんて、痛いなんて…なんでも我慢できる
寂しいなんて、2度と思わない
思いたくない

◇ ◇ ◇

薄暗い室内に、鎖が床を擦れるジャラジャラという耳障り音が響く
黒と赤を基調とした室内には、立派なベッド以外なんの家具も置かれていない
この部屋が何をするため部屋なのか、それはこの部屋に訪れた瞬間に理解した

普通なら、絶対に来ることも、来ようとも思わなかった場所

ただ、ある噂を耳にした
その真相を確かめるべく、持てるコネをすべて使ってこの場所に来た
ここは、会員制のVIPのみが使用できる部屋
上位αのみが使用を許され、その中でも特別な人間のみが使うことの出来る部屋

鎖の音が徐々に近づいて来る
ジャラジャラと床を擦れる音と共に、白いワイシャツのみを羽織った人物が、ここのオーナーに連れられて入ってきた
彼の目元に黒い布が巻き付けてあり、視界を奪われていた

「お客様、本当にこちらの商品でよろしかったのでしょうか?これは、頸に番の形跡がある傷物になりますが…」
オーナーは汚らしいものを見るように、目隠しをさせられた彼を一瞥し
「おい、さっさと跪け」
脚を蹴られた衝撃で、倒れるように俺の前に跪く

跪いた先に何があるのかと探るように、手を床に這わせて探っている
俺の靴先に手が触れた瞬間、見えない癖に顔を上げ

「ご…、ご主人様、ぼくは、何をすればいいですか?」
微かに怯えが滲む声を出しているくせに、唇が震えているくせに…
口角を上げて必死に笑みを作っていた

誰かに殴られたのか、唇の端は切れており、頬に赤黒い痣ができている
よく見ると、手足には包帯が巻かれ、薄っすらと血が滲んでいる
それでも、笑みを作って縋り付いてくる

嫌なくせに…
怖がっているくせに…

「……なんでもするから、なんでも…」
差し出した俺の手に、頬を摺り寄せながら弱々しい声で囁いてくる
「だから、首だけは、嚙まないでください。痛いのも、苦しいのも、何でもするから…」

本当に、こいつは俺の知っているアイツなんだろうか…?
無邪気に笑い掛けてきたアイツ
いつも一緒にいた
ずっと、大切に思っていた

「頸だけは…噛まないでください。汚れたぼくを、番にしてもただの荷物になるだけだから……」
震える声で哀願してくる
今縋り付いている相手が誰なのかも理解していないくせに…

幼い頃からずっと大切にしてきたはずなのに…
たった2年。2年、離れていただけなのに、こんなに変わり果てるものなのか…?
俺自身から離れたくせに…

カチャカチャと慣れた様子でズボンのベルトを外してくる
目隠しをしているくせに、その手付きは慣れているのか正確で速い

何人の男を相手にした?
何人に男に抱かれた?


首を覆うように巻かれたチョーカーを見て、苛立ちが募っていく
この下に、どれだけの証を刻み込んだ…?

彼の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせ、そのままベッドに放り投げる
上から被さるように押し倒しても、一切抵抗する様子もない

「答えろ。お前はどうやってここに来た?誰に騙された?」
怒りを押し殺し、低く唸るような声で尋ねる

一瞬、ビクッと肩を振るわせたように見えるも、口元は笑みを作ったまま
「自分で…来ました。行くところなんて、どこにもないから…」

嘘を付いているようには見えなかった
今までにも同じように聞かれたことがあるのか、力なくベッドに横たえ
「此処なら、発情期ヒートの相手を探さなくて済むから…」
俺の方に伸ばされた手を乱雑に払い退ける
「答えろ。何が目的だ?」

一瞬戸惑っているように息を詰まらせる様子に、苛立ちが募る
昔はあんなにハキハキと自分の意見を口にしていたくせに…
コイツは本当に俺の知るアイツなんだろうか?

面影はあるものの、自分の記憶にある人物とは全く異なる反応に苛立ってしまう
目隠しをしている彼の腹に馬乗りになり、息が掛るほど耳の近くで囁く
「もう一度聞く、何が目的だ?」

息を飲み込む音が聞こえた後、弱々しい声の返事が聞こえてきた
「……薬、が欲しいから…。ただ、それだけ。番に捨てられた僕なんて、こういう生き方しかないから……」
どこか諦めたような笑みを浮かべ、ボソボソと話す言葉に腹が立つ


『番に捨てられた』

捨てた、わけじゃない……
だが、俺は逃げた。逃げ出して、しまった……


力ずくで幼馴染だと思われる彼をうつ伏せに押さえつけ、無理矢理チョーカーの紐を外す
「やめっ!?やだっ!!やめて!」
さっきまで全てを諦めたように、力無く、無抵抗だったくせに…
チョーカーに手を掛けた瞬間、悲痛な声を上げて必死にチョーカーを外されまいと抵抗してきた

「動くな。どうせ他のαにも噛まれてるんだろ!」
「―――ッ!?」
苛立ちをぶつけるように、目隠しをした彼の頭を押さえ、コルセットのように首に巻き付いているチョーカーを外した
俺が過去に送ったチョーカーと同じ色の赤い革で出来たチョーカー

誰にも噛まれないように…
誰にも取られないように…
俺自身から、守る為に送ったチョーカー


チョーカーを外すと白い肌が現れる
襟足の伸びた髪を掻き分け、俺以外にも沢山のαに噛まれたであろう頸を見る
「誰彼構わず噛んで貰ったんだろ?」
嫉妬で狂いそうな心を抑え、低い声で問い掛ける

だが、頸には大量の爪痕の他に、たった1つの歯形が残されているだけだった
強く引っ掻いたのか、肉が抉れ、痛々しい痕が残っている
よく見ると、指先の爪が半分剥がれている箇所もいくつもある

何度も、何度も、同じように抵抗したのだろう…
2度と噛まれないように…
誰の番にもならないように…

俺が付けた、俺だけの番の証
それだけが、彼の白く綺麗な頸にくっきりと痕を残していた


「……ごめんない。お願いだから、噛まないで……。腕でも、指でも、足でも…折っていいから。殴られるのも、我慢するから……。なんでも、するからっ…お願い、します」
震えながらも必死に哀願してくるマヒロの姿に胸が苦しい
「もう、番になんて…なりたく、ない……捨てられるの、嫌だから…
お願い、します……。首だけは、噛まないで…」

目隠しの布越しでも、泣いているのが分かった
震える声で、何度も哀願の言葉を口にする
「やめろよ!もう、そんなこと…やめてくれ……」

胸が締め付けられるように痛い
強く幼馴染の身体を抱きしめるも、震えは止まらなかった
むしろ、さっきよりも震えは強くなり唇を嚙み締めているのがわかる

「カズヤくん……たす、けて……」
消え入りそうな声で、無意識に俺の名前を呟くマヒロをみて、自身も強く唇を噛んだ



マヒロを壊したのは俺だ
あの日、発情期ヒートのマヒロのフェロモンに耐えることが出来なかった
ずっと守ると約束していたのに、俺が傷付けた

気付けば、意識を失ってグッタリしているマヒロの姿が目に入ってきた
真っ白な綺麗な肌には、たくさんの歯型とキスマーク、押さえ付けた手の痕がありありと残っていた

グチュブチュと濡れた音と肌を打ち付ける音が室内に響いている
音と共にマヒロの細い身体が揺れているのがわかる
意識はないのに、口から漏れ出る甘い声
ぷっくりと腫れた胸の突起が、赤く熟れた果実のようで、夢中になってむしゃぶりつくしかなかった

何度目かの精を中に注ぎ込む
意識がなくても感じているのか、微かに震えながら緩く立ち上がっていたペニスから半透明の液体が垂れ流されている

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
荒い呼吸を肩を上下しながら落ち着かせる
赤く腫れたアナルから、自身を抜き取ると同時に、ゴポッと音と共に白濁が溢れ出した

グッタリと力無く倒れているマヒロの姿に血の気が引いていくのがわかる

ずっと、ずっと…大切にしていたのに…

恐る恐る、マヒロの首に掛かる髪を梳いて、頸を確認する

何も無ければいい
傷など、一切なければいい

噛み跡なんて……


自らの手で隠されていた頸が露わになり、そこにクッキリと刻まれた歯型を見て、絶望感が募っていく

コレを付けたのは…俺だ……
泣いて、縋り付いてきたマヒロを押さえ付けた
悲鳴を上げるマヒロの口を塞ぎ、何度も口付けをした
「痛いっ!痛いっ!痛いっ!」
マヒロの悲痛な叫び声を聞いていたはずなのに…


床には俺がマヒロにあげたチョーカーが、ボロボロになって転がっていた
マヒロの頬には、泣いた跡が残っている


「な、んで……うそ、だ…嘘だ。嘘だ。嘘だっ!」
俺の叫び声だけが室内に響き渡る


だから、逃げた
これ以上、マヒロを傷付けない為に…
俺から、マヒロを守る為に……


俺が、あの日コイツを見捨てて出て行ったから……
後悔だけが募っていく

『番』を得てしまったΩがどうなるのかを知らなかった
『番』に捨てられたΩがどうなるのかを知らなかった

マヒロを壊したのは、紛れもなくこの俺だ…
目隠しを外してやりたいのに、俺を見た時のマヒロの顔を、俺は見たくないのだから……

◇ ◇ ◇

シトシトと窓の外は今日も雨のようだ
昨晩来られたご主人様は、どこか懐かしい声の人だった

ゆっくりと起き上がり、痛む場所を探す
いつもだったら、起き上がれないくらい殴られたり、蹴られることもある
犯され過ぎて、熱が出ることもよくある
発情期ヒートをワザと起こす為に、誘発剤を飲まされたことも…

でも、昨晩のご主人様は、何もしなかった
チョーカーは、無理矢理取られたけれど、その後は何もしてこなかった
ただ、ぎゅっと抱き締めてくれて、泣いているようだった


「もう、会いには来てくれないのかな……カズヤくん」
チョーカー越しに、頸に残る証の痕を撫で

「……ぼくが、まだ死なないから…確認しに来たのかな…」
溜息と共に自嘲的な笑みが溢れる
昨晩着ていたワイシャツを抱き締め、顔を埋める
自分のフェロモンの匂いに混じって、彼の残り香を胸いっぱいに吸い込む

「カズヤくん……愛してる…今も、愛してる…」
誰にも聞かれないように、ワイシャツに顔を埋めたまま何度も愛の言葉を呟く

昨晩のご主人様と愛しい彼の面影を重ねる
また今宵も誰かに抱かれるだろう
殴られたり、蹴られたり…骨を折られるかもしれない…

でも、数日は耐えられる気がする
彼が、匂いを残してくれたから…
この匂いがあれば、まだ正気で居られる気がするから…

シトシトと降る雨の中、微かな歌声が廊下にも聴こえる
昔懐かしい子守歌
誰かの為の子守歌



誰が駒鳥を壊したの?
私……と、誰かが囁いた…
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