オレとアイツの関係に名前なんていらない

こうらい ゆあ

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「って、は……?」
 いつの間にか顎を掴まれ、気付けば唇に柔らかいモノが押し当てられていた。
 驚いて口を開けた瞬間、ニュルッと湿った生暖かいモノが口内に入ってきて、オレの舌に絡み付く。
「んんっ!?」
 抵抗しようとすると後頭部を大きな手で押さえられて逃げることもできない。
 上顎を舐められるとゾワッとした何かが背筋を走り、力が抜けていく。
 濡れた音をワザと立てるように舌を吸われ、甘噛みされると腰が砕けそうになり何も考えられない。
 飲み込みきれなかった唾液が口の端から溢れ、酸欠で頭がボーっとしだしたころ、チュパッと音を立てて唇が離れる。
「顔真っ赤で目もウルウルになっちゃってか~わいい」
 指の腹で唾液を拭われ、チュッと触れるだけのキスを再度されてしまう。
「キスも慣れてないって感じ、めっちゃ可愛い」

 嬉しそうに笑みを浮かべ、オレの耳朶を撫でる彼にまた流されそうになるも、唇の裏側を噛み締めて意識を保つ。
「い、いきなり何すんだよ!変態っ!!」
 彼の両肩を強く押して距離を作り、慌てて手の甲で唇をゴシゴシと拭う。
 虚勢を張って、いきなりキスをしてきた変態野郎をキッと睨み付けるも、さっきの快楽から足腰に力が入らない。
 「……あ、あんな……いきなり……なんで……」
 言いたいことは色々あるのに、言葉が出てこない。
 今すぐこの場から立ち去りたいのに、さっきからズボンの前が苦しくて立つことすら出来ない。
 そんなオレの下事情を知ってか知らずか、彼は満面の笑顔で意味のわからないことを口にする。

「あはははっ、うん、予想以上に可愛い反応するじゃん♪なぁ、俺アンタのこと気に入ったから、今日から付き合おっか?」
 オレが逃げられないようにガッシリ手首を掴まれ、見下ろすように顔を近付けてくる。
「俺、ちょうど今、アレに振られて意気消沈って感じだからさ~。ねぇ、可哀想な俺をアンタが慰めて♡」
 悪怯れる様子は一切なく、さっきまでお付き合いをしていたはずの彼女さんに向かって、親指で指差す。
「俺が浮気したって言ってるけど、そもそも付き合ってすらいないのに付きまとってきてさ~。本当、迷惑してたんだよね~」
 『アレ』と言われた彼女は口をワナワナと震わせ、真っ赤だった顔が更に赤くなったように見える。
海斗カイト!アンタの方が浮気ばっかするからでしょ!しかも、付き合ってなかったとかなに?」
 ヒステリックな声が中庭に響く。
 誰も来ない場所とはいえ、こんな金切り声で喚かれたら誰かが来てしまうかもしれない。
「しかも、なに?次はその男が浮気相手なの?サイッテー!アンタも男相手に勃起してるとかキモ過ぎ!死ねっ!!」
 散々オレのことも貶し、最後には生理現象とはいえ反応してしまったムスコのことバカにされてしまう。
 彼女の持っていたコンビニ袋が勢いよく何故かオレに向かって投げつけられ、中に入っていたプリンが見事にヒットする。
「…………えっ?」
 ポタポタとオレの頭から滴り落ちる甘いクリーム色の物体。
 カラメルソースがオレの頬を伝い落ち、白色のパーカーを茶色のシミが模様を描いていく。
 頭からプリンを被ってしまったオレは、いきなりの展開に頭が追い付かず、怒ってヒールを鳴らしながら去って行く彼女を呆然と見送るしかできなかった。
「…………は?え……?」

◇ ◇ ◇

「あ~ぁ、めちゃくちゃ汚れちゃったね~。いやぁ~、ホントにごめんなぁ~」
 プリンを頭から被らされ、カラメルソースで服を汚され、楽しみにしていたサンドイッチはいつの間にか地面に転がっていた。
 そんな散々な目に遭わされたオレに向かって、元凶であるコイツはヘラヘラと笑みを浮かべている。
「なぁ、アンタの家ここから近かったりする?」
 自分の頬にも飛んでしまっていたプリンを手で拭いながら勝手なことを聞いてくる。
「俺の家こっから結構遠いんだよね~。近いならアンタの家に急いで行こ?あ、コンビニにもちょっと寄ってさ」
 何故かオレの手をギュッと握り、逃げられないようにされながら当たり前のように歩いて行く。
「え?……歩いて15分、くらいだけど……って、ちょっ」
 オレの腕を握っているアイツの手を振り解こうとするも、いくら手を引いても離しては貰えない。
 それどころか、ずんずんと先を歩かれ、オレの家に向かおうとしている。

「ねぇ、次どっち?真っ直ぐ?あ、コンビニ寄って必要な物買っちゃおう。そいや、名前なんてーの?」
 一方的なコイツの会話に頭が追い付かない。
 オレの家に来てどうするんだって文句を言いたいのに、なぜか問われたことに逐一丁寧に答えてしまっているオレがいた。

「次、右に曲がって真っ直ぐ行ったところ。薄紫色のマンション。コンビニは、ここ曲がったらすぐにある……って、なんで答えてんだよ!」
 自分がなんでこんなに素直に答えてしまっているのか理解できない。
 
「なぁ、名前なんてーの?何回か授業一緒だったよな?あ、俺は渡貫わたぬき海斗カイト。これでも日本人。まぁ、ひいじいちゃん当たりにどっかの血が入ってるらしいけど、知らね。アンタなら海斗カイトって呼んでもいいよ」
 ニカっと笑うその顔が太陽みたいで、つい魅入ってしまう。
 こんな自己中心野郎と仲良くなるなんてまっぴらごめんなのに、なぜか拒絶することができない。
 
「オレは……安西あんざい安西あんざい千鶴ちづる。……って、さっきのは一体なんなんだよ!なんで!いきなり……キ、キ、キス……とか……」
 焦ってどもってしまうものの、海斗カイトは気にした様子は一切なく、オレの手をニギニギと嬉しそうに握ってくる。
「ふ~ん、千鶴ちづる、ねぇ~。なぁ、『ちぃ』って呼んでいい?ちぃ、めっちゃ可愛い」
 お昼時ということもあり、人通りが少ないとはいえ男同士が往来でこんな恥ずかしいことを堂々と言ってくるのはどうかと思う。

「あ、コンビニみっけ。じゃあ、俺はゴムとジェル買ってくんね。あ、ちぃも一緒に行く?俺のサイズ確認しとく?」
 耳元で囁かれる言葉に頭が追い付かなくて呆然としてしまう。

 ……は?
 ゴムとジェル?
 海斗カイトサイズって、なんの?

「ちぃ、顔真っ赤で可愛い~♪ねぇ、家まで我慢するから、今はもうちょっと味見させて」
 いきなり腕を引かれ、コンビニ横の路地に連れ込まれる。
 逃げられないように壁に押し付けられ、プリンの甘い匂いに包まれながらまたキスをされてしまった。
 逃げたいのに、抵抗したいのに、なぜか力が入らない。
「はぁ……ちぃ、口……開けて」
 吐息交じりの海斗カイトの声に、なぜか素直に従ってしまい、海斗カイトの舌を受け入れる。
「んっ、ぁ……」
 上顎を舌先で舐められると、さっきされたキスの時のように背中をゾクゾクとした何かが駆け巡り、身体の力が抜けていく。
「んぁっ……や、めっ……」
 文句を言おうと顔を背けると、後頭部を手で固定されてしまい逃げられなくされてしまった。
 お互いの舌が絡み合う濡れた音と熱い吐息が混じり合い、頭がおかしくなりそうだ。
「ちぃ、可愛い。一見クールそうなのに、快楽に弱い所めっちゃ可愛い」
 何度も何度も可愛いと連呼され、頭がボーッとするくらい深いキスをされた。
 ズボンの前が苦しくて、腰が砕けて立てなくなるまで口付けをされた。

「ちぃ、続きは家に帰ってからね。必要なの買ってくるから、ここで待ってて。俺以外にこんな可愛い顔、見せちゃダメだよ」
 耳元で囁かれる海斗カイトの言葉を拒否なんてできない。
 急いで逃げなきゃってわかってるのに、海斗カイトがコンビニから戻ってくるのを大人しく待っていてしまった。
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