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【一欠片の淡い花は、遠くにいる貴方を想う】
9.
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あの日から、天河とは本当に友だちになれた。
お店で会った時だけの友だちだと思っていたのに、翌日から天河は遊びに誘ってくれるようになった。
いつもひとりで遊んでいたオレにとって、天河の行動は驚きの連続で、戸惑ってばかりだった。
当たり前のようにオレを誘ってくれる声に、ドキドキして、まるで夢の中にいるみたいだった。
天河と友だちになってから、同い年だということを知った。
同じ小学校に入学して、行くのも帰るのも一緒。
天河はオレ以外にもたくさんの友だちがいたのに、オレを一番に優先してくれた。
貧乏で、他の子よりも小さかったせいでいつもイジメられていたオレのたったひとりの友だち。
中学に上がっても、新しい友だちができないオレを心配して、天河はいつも側にいてくれた。
その存在が、オレの暗い世界に小さな光を灯してくれた。
学校の廊下でひとりでいると、いつも天河が笑顔で駆け寄ってきて、まるでオレが特別な存在みたいに扱ってくれた。
天河も、國士と一緒でモテるから、実はイジメられる原因のひとつではあったんだけど……
二人とも、そのことは知らない。
「紫苑が可愛いからって、かまって欲しいんだろ!」って、いつも怒っていた。
オレが可愛いわけないじゃん。
自分たちがモテるって自覚がないから、なんでオレがイジメられるのか理解できないみたいだった。
天河がそうやってオレを庇うたびに、胸が温かくなるけど、同時に申し訳なさが募った。
彼らの優しさが、オレを余計に目立たせてしまっていたんだ。
「織田兄弟にまとわりつくな」
「二人が優しいからって調子に乗るな」
「天河君も、國士先輩も、迷惑に思っているのを自覚しろよ!」
二人がいない時を見計らって浴びせられる罵声。
二人に気付かれないように、校舎裏に呼び出されて何度も言われた。
殴られたり、蹴られたりとかの暴力はなかったけど、何度か水をかけられたことはあったな……
そのたび、体操服に急いで着替えて、濡れた制服を隠して持って帰った。
家に帰っても、母さんに心配をかけたくなくて、黙って洗濯機に制服を突っ込んだ。
濡れた服の重さが、心の重さと一緒だった。
二人が優しいのは、一番オレが知っている。
オレみたいな奴がそばにいていいわけないってこと、オレが一番わかってる。
それでも、オレは天河と國士から離れるなんてできなかった。
だって、彼らの笑顔が、オレの孤独な世界を照らす唯一の光だったから。
離れるなんて、考えただけで胸が締め付けられる。
國士は二歳年上の憧れの人。
天河と友だちになったあの日から、國士がオレも仲間に入れてくれた。
最初はオレのことを警戒していたのか、色々イジワルをされたけど、すぐに優しくしてくれた。
そのイジワルすら、どこか温かくて、まるで本当の弟をからかうような優しさがあった。
どこに行くのも三人一緒。
母さんが仕事で夜中に帰って来る日は、天河と國士の家で夕飯を食べるようになった。
母さんは「迷惑がかかるから、食べずに帰ってきなさい」って言ってたけど、断ることができなかった。
おばさんが温かいご飯を用意してくれて、二人が一緒に食べようって言ってくれるから……
オレも、二人と一緒にご飯が食べたかったから……
その食卓の温かさが、まるで本当の家族のようで、初めて「家」にいるような安心感を味わった。
勉強が苦手なオレの宿題を見てくれて、怖い犬からも守ってくれた國士。
ひとりっ子のオレにとって、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかった。
國士がオレの手を引いて、吠える犬から守ってくれた時の強さが、今でも心に焼き付いている。
その大きな背中が、オレの全てだった。
憧れが片想いに変わったのは、國士が高校にあがる時。
遠くの高校に進学するって聞いて、初めて自分の気持ちを自覚した。
離れ離れになるのが寂しくて、一緒にいられないのが悲しかった。
オレ以外の人にやさしくする姿を想像するだけで、胸が締め付けられるみたいに痛かった。
國士に恋人ができたらどうしよう……
國士を取られたらどうしよう……
オレのこんな気持ち、國士に知られたら……嫌われる。
國士の笑顔を独り占めしたいなんて、こんな自分勝手な気持ちを抱いてる自分が、恥ずかしくてたまらなかった。
オレは、初めて自覚した恋心を胸の奥にしまい込んだ。
誰にも知られちゃいけない、伝えちゃいけない気持ち。
その気持ちを押し殺すたびに、心がズキズキと痛んだ。
でも、國士のそばにいられるなら、それだけで十分だと思おうとした。
そんなオレの気持ちを余所に、國士は長期休みになるたびに帰って来てくれた。
学校の友だちとか合宿とかがあるはずなのに、オレのことを優先してくれた。
國士が帰って来てくれた時は、ほとんど毎日三人で遊んだ。
図書館の静かな空気の中で、國士が宿題を教えてくれる声や、天河がゲームで笑い合う姿が、オレの心を満たしてくれた。
毎日が楽しくて、ずっと休みが続けばいいなって願ってしまった。
それが、オレにとって唯一の楽しみだったから……
國士と天河と一緒にいる時だけが、オレにとって唯一笑っていられる時間だったから……
あの時間が、まるで永遠に続くような気がしていた。
でも、心のどこかで、いつか終わるかもしれないと怖れていた。
お店で会った時だけの友だちだと思っていたのに、翌日から天河は遊びに誘ってくれるようになった。
いつもひとりで遊んでいたオレにとって、天河の行動は驚きの連続で、戸惑ってばかりだった。
当たり前のようにオレを誘ってくれる声に、ドキドキして、まるで夢の中にいるみたいだった。
天河と友だちになってから、同い年だということを知った。
同じ小学校に入学して、行くのも帰るのも一緒。
天河はオレ以外にもたくさんの友だちがいたのに、オレを一番に優先してくれた。
貧乏で、他の子よりも小さかったせいでいつもイジメられていたオレのたったひとりの友だち。
中学に上がっても、新しい友だちができないオレを心配して、天河はいつも側にいてくれた。
その存在が、オレの暗い世界に小さな光を灯してくれた。
学校の廊下でひとりでいると、いつも天河が笑顔で駆け寄ってきて、まるでオレが特別な存在みたいに扱ってくれた。
天河も、國士と一緒でモテるから、実はイジメられる原因のひとつではあったんだけど……
二人とも、そのことは知らない。
「紫苑が可愛いからって、かまって欲しいんだろ!」って、いつも怒っていた。
オレが可愛いわけないじゃん。
自分たちがモテるって自覚がないから、なんでオレがイジメられるのか理解できないみたいだった。
天河がそうやってオレを庇うたびに、胸が温かくなるけど、同時に申し訳なさが募った。
彼らの優しさが、オレを余計に目立たせてしまっていたんだ。
「織田兄弟にまとわりつくな」
「二人が優しいからって調子に乗るな」
「天河君も、國士先輩も、迷惑に思っているのを自覚しろよ!」
二人がいない時を見計らって浴びせられる罵声。
二人に気付かれないように、校舎裏に呼び出されて何度も言われた。
殴られたり、蹴られたりとかの暴力はなかったけど、何度か水をかけられたことはあったな……
そのたび、体操服に急いで着替えて、濡れた制服を隠して持って帰った。
家に帰っても、母さんに心配をかけたくなくて、黙って洗濯機に制服を突っ込んだ。
濡れた服の重さが、心の重さと一緒だった。
二人が優しいのは、一番オレが知っている。
オレみたいな奴がそばにいていいわけないってこと、オレが一番わかってる。
それでも、オレは天河と國士から離れるなんてできなかった。
だって、彼らの笑顔が、オレの孤独な世界を照らす唯一の光だったから。
離れるなんて、考えただけで胸が締め付けられる。
國士は二歳年上の憧れの人。
天河と友だちになったあの日から、國士がオレも仲間に入れてくれた。
最初はオレのことを警戒していたのか、色々イジワルをされたけど、すぐに優しくしてくれた。
そのイジワルすら、どこか温かくて、まるで本当の弟をからかうような優しさがあった。
どこに行くのも三人一緒。
母さんが仕事で夜中に帰って来る日は、天河と國士の家で夕飯を食べるようになった。
母さんは「迷惑がかかるから、食べずに帰ってきなさい」って言ってたけど、断ることができなかった。
おばさんが温かいご飯を用意してくれて、二人が一緒に食べようって言ってくれるから……
オレも、二人と一緒にご飯が食べたかったから……
その食卓の温かさが、まるで本当の家族のようで、初めて「家」にいるような安心感を味わった。
勉強が苦手なオレの宿題を見てくれて、怖い犬からも守ってくれた國士。
ひとりっ子のオレにとって、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかった。
國士がオレの手を引いて、吠える犬から守ってくれた時の強さが、今でも心に焼き付いている。
その大きな背中が、オレの全てだった。
憧れが片想いに変わったのは、國士が高校にあがる時。
遠くの高校に進学するって聞いて、初めて自分の気持ちを自覚した。
離れ離れになるのが寂しくて、一緒にいられないのが悲しかった。
オレ以外の人にやさしくする姿を想像するだけで、胸が締め付けられるみたいに痛かった。
國士に恋人ができたらどうしよう……
國士を取られたらどうしよう……
オレのこんな気持ち、國士に知られたら……嫌われる。
國士の笑顔を独り占めしたいなんて、こんな自分勝手な気持ちを抱いてる自分が、恥ずかしくてたまらなかった。
オレは、初めて自覚した恋心を胸の奥にしまい込んだ。
誰にも知られちゃいけない、伝えちゃいけない気持ち。
その気持ちを押し殺すたびに、心がズキズキと痛んだ。
でも、國士のそばにいられるなら、それだけで十分だと思おうとした。
そんなオレの気持ちを余所に、國士は長期休みになるたびに帰って来てくれた。
学校の友だちとか合宿とかがあるはずなのに、オレのことを優先してくれた。
國士が帰って来てくれた時は、ほとんど毎日三人で遊んだ。
図書館の静かな空気の中で、國士が宿題を教えてくれる声や、天河がゲームで笑い合う姿が、オレの心を満たしてくれた。
毎日が楽しくて、ずっと休みが続けばいいなって願ってしまった。
それが、オレにとって唯一の楽しみだったから……
國士と天河と一緒にいる時だけが、オレにとって唯一笑っていられる時間だったから……
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でも、心のどこかで、いつか終わるかもしれないと怖れていた。
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