望まぬ運命に、元βは白いフリージアを捧げる。

こうらい ゆあ

文字の大きさ
15 / 15

14.僕と由良だけの楽園

しおりを挟む
「あ、雨辻先輩!」
 オフィスで、僕を見つけた宮田が元気よく近づいてくる。
 明るい蛍光灯の下、彼の軽やかな足音が室内に響き、賑やかなオフィスの喧騒に溶け込む。 
 彼の恋人と三人で話し合ったあの日から、半年の月日が流れていた。

 宮田のニュータリングは順調に進んでいるようで、僕がそばにいても、彼のフェロモンはほとんど感じられない。
 スズランの甘い匂いが消え、代わりに無臭の空気が彼を取り巻いている。
「宮田か。営業の成績も伸びているし、色々と順調みたいだな」
 僕がポンッと彼の頭を撫でると、宮田は少し照れたような笑いを浮かべつつ、自然な様子で一歩後ろに下がって距離を作る。
 その仕草に、彼の恋人への忠誠心が垣間見え、胸がチリッと痛む。
「えぇ、おかげさまで。先輩に教えてもらったことをコツコツ実践してますよ」
 宮田は、転属してきた頃より顔つきが精悍になった気がする。
 頬に浮かぶわずかな赤みが、若々しい自信を物語っている。
 彼の言う通り、社内でも宮田の評価は悪くない。
 まだたどたどしいところはあるが、頑張っている姿は好印象を与え、他の営業メンバーからも可愛がられているようだ。

 それに、βへの転換も、順調そうだ。
 
「そういえば、先輩のところは無事に『番』になれたんですよね?」
 クンクンと鼻をヒクつかせながら無邪気に聞いてくる姿は、どこか柴犬を連想させられる。
「あぁ……僕のパートナーは、僕以上に僕を想っていてくれたからね」
 キラリと光る薬指のリングに軽く口付けを落とし、家で待つ由良の柔らかな黒髪と透明な肌を思い出し、胸が熱くなる。
 イタズラ好きなところは変わりないから、時々お仕置きはしなくちゃいけないけど、素直で可愛いことに変わりはない。
 今日も早く帰って、由良を愛してあげたい。

「はぁ……先輩がそんな惚気る人なんて思ってもいませんでしたよ」
 宮田が呆れたように言うが、その声にはどこか温かみがある。
 彼の笑顔が、彼の恋人との幸せを映し出し、僕の心に由良への愛を重ねる。
「先輩の番さんは、βだったのにどれだけ美人さんなんだろ?先輩みたいなαが骨抜きになる相手だから相当なんでしょ?あ、いつか会わせてくださいね。四人でWデートとかしましょう!」
 無邪気な笑みを浮かべながら楽しそうに話をする宮田の言葉に、内心冷たい感情が湧き上がる。

 由良を……?
 誰かに見せる?
 ありえない。
 由良は、俺だけのものだ。
「あぁ……機会が、あれば……な」
 軽く笑って誤魔化すが、胸の奥で暗い炎が揺れる。
 
 その瞬間、スマホが微かに震えると同時に、着信音が鳴る。
 一昔前に流行った曲で、オルゴールにアレンジされたモノだ。
 その音色が、静かなオフィスに響き、僕の心を一瞬で由良に引き寄せる。 
 このメロディを設定しているのは、たったひとりだけ。
 スマホの画面に表示された名前を見て、自然と笑みが零れる。
 どこか必死な音に聞こえるメロディをゆっくりと聞いて、ワザと焦らす。
 多分、電話の向こう側ではなかなか繋がらないことに焦り、「早く出て」と呟く様子が目に浮かぶ。
 涙を溜めて、小さく震えながら電話が繋がるのを今か今かと待つ彼。
 そんな愛らしい姿を想像するだけで、愛しさが込み上げ、身体が熱くなる。 
 
「……由良?……うん、そっか。我慢できないんだね、わかった。ちゃんと連絡してきて偉いね。すぐ帰るから、待ってて……」
 熱のこもった泣き出しそうな彼の声に、つい口元が緩んでしまう。
 誰にも聞かせたくない、愛しい彼の甘い声。

 宮田がそばにいるから、絶対に聞かれないように小さく囁くように話しかけ、電話を切る。
「……悪いんだけど、パートナーが発情期になってしまったようなんだ。まだまだ不安定な子だから、僕がそばにいてあげないと……」
 宮田に早退する旨を伝え、昨晩制作しておいた資料を手渡す。
「後は任せた。大丈夫、宮田ならしっかりやってくれると信じてるよ」
 張り付けたような笑顔を彼に向け、あとのことを任せる。
 一瞬、宮田の表情が引き攣ったように見えたが、そんなことはどうでもいい。
 今は、一刻も早く由良のそばにいたい。
 由良が僕を呼んでいる。
 僕のΩが、僕を求めている。

 マンションの一室。
 由良と僕の家。
 扉を開いた瞬間、柔らかく繊細な、春の夜に咲く花のような甘い匂いがふわりと広がった。
 白いフリージアに、ほのかにバニラが混じった、由良のフェロモン。
 汗と愛液の匂いが混ざり合った匂いに、僕のαの本能がガツンと叩き起こされる。

「たつ……ひこぉ……」
 熱のこもった声で僕の名前を呼ぶ、愛しいΩ。
 僕の白色のワイシャツを羽織っただけの由良が、廊下の端に立って待っていた。
 由良の白い脚には、我慢できずに溢れた愛液がアナルから滴り、太ももを伝って廊下に点々と水滴を落としている。
 細い足首には、僕が先日付けてあげた黒い革製のベルトが巻かれており、そこに付けられた細い鎖は、僕と由良が愛し合うためのベッドに繋がっている。
 この鎖はベッドを中心にこの家の中を自由に動ける長さにしてある。
 由良が生活するのに不便にならない長さにちゃんと調節してあげた。
 どの部屋に行くのも問題ないけれど、ただ、玄関までは届かない。
 由良が今立っている廊下のところが、鎖の最長部分だ。
 だから、由良は僕に手を伸ばし、抱っこをねだる。

「辰彦……早く、抱いて……。今日も、いっぱい、噛んで……」
 由良のうなじには、数えきれない歯形が刻まれている。
 通常のΩなら、一度番の証を付ければ、一生消えることはないはずだったのに……由良は、違った。
 βだった由良のうなじには、何度痕を付けても、数日で僕の噛み跡は消えしまう。
 それでも、由良は僕だけのΩになってくれた。
 僕は由良の白い首筋に、僕だけの歯形を何度も付け、由良の身体に僕の愛を刻み込む。

 僕は由良を抱き上げ、ベッドに運ぶ。
 彼の小さな身体が、僕の腕の中で震え、汗で湿ったワイシャツが肌に張り付く。
「辰彦……辰彦……愛してる」
 うわ言のように、何度も愛を囁く由良が愛しくてしかたない。
 ワイシャツの隙間から覗く、赤く腫れた乳首をそっと舐めると、小さな嬌声があがる。
「ぁっ……た、つひこ……!」
 僕の頭にしがみ付き、離れないように縋る由良の姿に僕の心が震える。
 由良の敏感な乳首を舌で転がし、軽く歯を立てるだけで、由良はビクッと腰を跳ね上げ射精してしまった。
「んぁっ……や、だ……そこ、意地悪……しないで……」
 熱に浮かされた涙目で僕を見つめ、もっとして欲しそうにしがみ付いてくる由良。
 由良の反応に、僕の身体が熱くなり、ズボンの中で硬くなる。
 
  
 この箱庭の中で、由良は僕だけを見て、僕だけを求めてくれる。
 外の世界も、陽翔も、湊も、誰も由良を奪えない。
 この甘いフリージアの匂いは、僕のためだけに漂う。
「由良、愛してる。ずっと、ずっと、僕のそばにいて……」
 
 今夜も、由良の身体を隅々まで犯し、うなじに何度も歯を立てる。
 由良が啼くたび、僕の心は満たされる。
 ベッドに押し倒した由良の脚を開き、愛液で濡れたアナルに舌を這わせ、熱い中を掻き混ぜる。
「ァッ……たつ、ひこ……辰彦……」
 か細い声で 由良が啼くたび、僕の心は満たされる。
 ナカを解しながら、赤く腫れた前立腺を指で撫でてあげると、由良が声にならない絶頂を迎えた。
 小さく震えながら快楽を享受する姿が愛おしくてしかたない。
「ひぅっ……た、つひこ……も、とぉ……」
 紅潮してうっとりした顔でもっととねだる愛しくて艶めかしい僕の番。
 熱いペニスで奥を抉るように突き、由良の甘い声を聞きながら、結腸に精を注ぎ込む。
 由良がイクたびにフェロモンの匂いが強くなり、僕も発情ラットになってしまう。

 ベッドに縫い付けるように手を絡め、飲み込みきれない量の唾液を由良の口に送る。
 開き切った奥に何度も亀頭を出し挿れし、出した精液を塗り込んでいく。
 二度と、由良がβなんかに戻らないように……
 僕のαの精をたくさん注いで、僕だけのΩにしていく。
 イキ過ぎて何も出なくなった由良のペニスに、突起のついたブジーを挿入して可愛がる。
 さっきよりも少し高い由良の啼き声が室内に響き、さらに匂いが強くなっていく。


 この家は、僕と由良だけの楽園。
 由良を閉じ込め、僕だけが由良を永遠に愛する。 
 由良の甘いフリージアの匂いは、僕のためだけに溢れ出し、僕を求め続ける。
 由良の全ては、僕のものだ。
 
 ≪ おわり ≫
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

SHIGE
2025.08.16 SHIGE
ネタバレ含む
2025.08.16 こうらい ゆあ

SHIGE様
最後まで読んでくださったうえ、感想をくださり本当にありがとうございます。

今回、青春モノを書いたストレスの反動で、趣味全開のお話になってしまったのに、こんなに喜んでいただけてすっごく嬉しいです。(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)テレッ

由良は無事にないないされて、多分幸せなので ꜆⌯᷄ ̫⌯᷅ ♡
でも、余裕があればまた続きを書けたらなぁと思っておりますので、もし機会がありましたら、読んで頂けると嬉しいです。

解除
金浦桃多
2025.08.15 金浦桃多

ちゃんとないないされてるね✨
まだ安定してないしね。心配だものね(それだけか?)ハピエン⸜(*˙꒳˙*)⸝✨

2025.08.16 こうらい ゆあ

ももたん、ありがとう。
そう、ちゃんとないないしなきゃね(੭ु´ ᐜ ` )੭ु⁾⁾

続きもこっそり書きたいなぁ〜

解除
チッチ
2025.08.11 チッチ

初めまして♪
いつも楽しみに拝見させて頂いてます😊
由良の気持ちを考えるとこっちの気持ちまで苦しくなります😭
これからどうなるのか更新をドキドキしながら待っています🥹✨

2025.08.12 こうらい ゆあ

チッチ様、いても読んでくださった上、感想までくださりありがとうございます!
本当に嬉しいです。

私自身の好きなの詰め込んで書いた作品なので、最後、お好みに合えばいいのですが……
読んでいただけると嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】運命じゃない香りの、恋

麻田夏与/Kayo Asada
BL
オメガ性のリュカ・レバノンは、王国の第一王子ダイセルが見初めた、彼の運命の番だ。だが、ダイセル王子に無体な真似を働かれ、リュカは婚約の王命を断ろうとする。当然、王宮からの追っ手が来たところで──「そなた、何やら素晴らしい香りをしているな」。その声は、国一番の魔術師兼調香師のマシレ・グラースのものだった。調香師アルファ×不幸めオメガのラブストーリー。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

さかなのみるゆめ

ruki
BL
発情期時の事故で子供を産むことが出来なくなったオメガの佐奈はその時のアルファの相手、智明と一緒に暮らすことになった。常に優しくて穏やかな智明のことを好きになってしまった佐奈は、その時初めて智明が自分を好きではないことに気づく。佐奈の身体を傷つけてしまった責任を取るために一緒にいる智明の優しさに佐奈はいつしか苦しみを覚えていく。

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

クローゼットは宝箱

織緒こん
BL
てんつぶさん主催、オメガの巣作りアンソロジー参加作品です。 初めてのオメガバースです。 前後編8000文字強のSS。  ◇ ◇ ◇  番であるオメガの穣太郎のヒートに合わせて休暇をもぎ取ったアルファの将臣。ほんの少し帰宅が遅れた彼を出迎えたのは、溢れかえるフェロモンの香気とクローゼットに籠城する番だった。狭いクローゼットに隠れるように巣作りする穣太郎を見つけて、出会ってから想いを通じ合わせるまでの数年間を思い出す。  美しく有能で、努力によってアルファと同等の能力を得た穣太郎。正気のときは決して甘えない彼が、ヒート期間中は将臣だけにぐずぐずに溺れる……。  年下わんこアルファ×年上美人オメガ。

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。 なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。 お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。 発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。 ※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。 同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。