【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ

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ずっと、しあわせでいたい

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「キミ、ひとり?」


背後から急に声をかけられ、慌てて振り返る
「ぇっ…?」
見たこともない知らない男性が2人、笑顔で僕に声を掛けてきた

誰かと間違っているのかと、キョロキョロと辺りを見渡すも、いつの間にか周りには誰も居らず、足湯に浸かっているのは僕ひとりだけだった

「男の子?でも、可愛い系の美人だし、全然アリじゃん」
「ひとりならこの辺り案内してあげるよ~。俺ら何回も来たことあるから、穴場とか美味しいお店も知ってるし」

いきなりの出来事に思考が追いつかず、拒絶しようにも声が出ない
まだ知らない人との会話が苦手な僕にとって、今の状況は怖くて堪まらない

「ぁ、あの…えっと…つ、連れが…いるので…」
やっと絞り出すように言った声も小さ過ぎて彼らの耳には届かず

「ん?何か言った?脚キレイだね~。温泉入らなくてもスベスベじゃん」
急に脚を撫でられ、気持ち悪さから鳥肌が立ってしまう
「やっ…やめっ…」

「いきなりはセクハラだろ~」
ケタケタ笑いながら脚を触ってきた人を揶揄するもうひとりの男性
「でも、ホント嫌がり方も可愛すぎだろ。もしかしてΩだったり?」

Ωという単語にビクッと反応してしまう
普段、士郎さんが優しくしてくれるから、Ωの立ち位置を忘れてしまう

「もしかして、マジでΩなのか?ラッキー♪Ωってエロいこと好きなんだろ?フェロモンがβの俺らでも感じれるのか試そうぜ?
大丈夫、怖いことはしないって。ただ、いっぱい気持ちよくしてやるだけだから」

両脇から腕を掴まれ、無理矢理立ち上がらされる
ニヤニヤ笑う笑顔が怖くて、掴まれた腕が気持ち悪くて
逃げたくても怖くて身体に力が入らない

声を出したいのに、恐怖で言葉も出なくて、ただ、拒絶したい一心で俯きながらもイヤイヤと言うように首を左右に振る
「…しろ、さ…たすけ…て…」
絞り出すようにやっと出た声は掠れてちゃんと出なかった



「俺の番に何か用ですか?」



真後ろから大好きな人の声が聞こえ、勢いよく顔を上げて振り返る
いつもよりずっと低く、怒気の孕んだ声で、殺気を放っていたが、顔を見た瞬間に安堵してしまう
慌てて彼らの腕を振り払い、足元が汚れるのも気にせずに裸足のまま士郎さんに駆け寄って抱き着く

「…ぁ…ふっ…」
何か言いたいのに、言葉に出来ない
士郎さんの胸に顔を埋め、胸いっぱいに彼の匂いを吸い込むとやっと張り詰めていた緊張の糸が切れた

「士郎、さん…士郎さん…」
彼の名前を何度も呼びながらギュッと抱き着き、涙が溢れ落ちてしまうのを止めることが出来なかった

「雪兎、怖かったね。ひとりにして、ごめんね。」
抱き締めてくれる腕の暖かさに安堵する
耳元で囁かれる士郎さんの声に安心してしまう

「つ、番…の方が、居たんですね…す、すみませんでしたっ!!?」
男性らは士郎さんに向かって90度のお辞儀をして謝り、逃げるように走り去って行った


「士郎、さん…ごめ、なさい…」
落ち着いてくると、自分の不甲斐なさに落ち込んでしまい俯く
足元を見ると、夢中で駆け寄ったこともあり、濡れた裸足のままだったコトを思い出す
雪は降ってないものの、冬の石畳の冷たさと水で濡れた足はどんどん体温を奪っていき、カタカタと寒さから小さく震えてしまう

「ごめん、なさい…。足、洗って来るね」
少しだけ顔を上げ、なんとか笑顔を作るも上手には笑えなかった

「雪兎、謝らなくていいよ。足、怪我しちゃうからじっとしてて」
ふわりっと軽々と抱き上げられ、近くの手洗い場に連れて行かれる

出てくる水も温泉なのか、冷たくない
士郎さんの肩に凭れるように座らされ、汚れた脚を洗ってくれる
じんわりと冷え切った足先が温められていく

さっきの人に脚を触られた時は、気持ち悪くて嫌で仕方なかったのに、士郎さんだと身体が熱くなってしまう

「雪兎、フェロモンが溢れてる。俺が触るのは嬉しい?」
無意識にフェロモンが漏れ出てしまっていることが恥ずかしいのに、士郎さんの嬉しそうな顔を見ると、つい素直に頷いてしまう

「士郎さん、だから…。士郎さんには、いっぱい触って欲しいから…」

綺麗になった脚を拭いて貰い、靴を履き直す
「雪兎、ごめんね。そろそろ旅館に戻ろうか…
雪兎に触れたくて、俺が我慢できなくなってしまったから」

悪戯っぽく小さく舌を出す士郎さんの仕草にお腹の辺りがキュンッてしてしまう
恥ずかしくて、小さくコクンと頷くことしか出来なくて、手を引かれるように観光地を後にした
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