【本編完結】期限つきの恋

こうらい ゆあ

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~another~ 期限のない恋

2.新しい約束

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 新人俳優のオレが、こんな大役をもらえるなんて夢にも思わなかった。
 ドラマや舞台で少しずつ役をもらえるようになってきたけど、映画の出演は初めてだったし、何より主演を演じるのはこれが初めてだったから……
 最初は緊張でガチガチだったけど、佐藤さんのリードのお陰で、オレは葵の気持ちにどっぷり浸ることができた。
 というか、浸かりすぎちゃった気がする。
 台本に書かれたシーンのはずなのに、悠真さんの反応に一喜一憂して、好きだって気持ちが溢れ出してくる。
 最後の結末がどうなるのかを知っているくせに、心から生きたい。生きていたい。と……願ってしまった。
 特に、悠真さんが葵の手を握るシーンでは、佐藤さんの指がオレの手を包み込む感触がリアルすぎて、役を超えて心が震えた。
 指先が絡まる瞬間、熱いものが全身を駆け巡り、息が詰まるような感覚に襲われた。
 
 撮影初日の夜、別れる間際に佐藤さんが「青葉、葵の気持ち、ちゃんと掴めてるよ」って言ってくれた。
 お世辞だってわかってるのに、嬉しくて、でも照れくさくて……
 オレは顔を真っ赤にしながら「ありがとうございます!」って叫んじゃった。
 佐藤さんはクスクス笑ってたけど、その笑顔が優しくて、葵が悠真さんに惹かれる理由が痛いほどわかった。
 
 最後の海のシーンなんて、何度NGを出してしまったのかわからない。
 夕陽に染まる海で、葵が悠真さんに抱かれて最期を迎えるシーン。
 撮影前なのに、オレは葵の感情と同調し過ぎちゃって、昂りすぎて大号泣してしまった。
 葵の気持ちも、自分の気持ちも抑えることができなくて、無意識に涙が零れ落ちてしまった。
 感情を抑えるのが大変だったし、撮影前なのに泣きすぎて目が赤く腫れてしまって、監督に「青葉、泣きすぎ!」って怒られちゃった。
 でも、佐藤さんが撮影の合間に「青葉の涙、葵そのものだったよ」って言ってくれて、めっちゃ救われた。
 海のシーンのリハーサルで、佐藤さんがオレを抱き締めて「俺を、ひとりにしないでくれ……」って囁く演技。
 葵はもう息絶えてるはずなのに、「ずっと一緒にいたい!」って言い返しそうになるのを必死に堪えた。
 佐藤さんの胸の鼓動が背中に伝わり、吐息が耳元をかすめて、心臓がバクバクした。
 彼の腕の中で、汗と体温が混じり合う距離感に、頭がクラクラした。
 演技だってわかってても、首筋に触れる彼の唇の感触がリアルすぎて、身体の奥が熱くなるのを抑えきれなかった。

 佐藤さんの演技が本物すぎて、台詞のひとつひとつが、役か本気かわからなくて……心臓が壊れそうだった。
 佐藤さんの唇が首筋をかすめるたび、ゾクゾクするような感覚が背筋を走り、思わず身体が小さく震えた。

「青葉の髪、潮風でちょっとパサパサになっちまったな……」
 海辺での撮影が終わって、佐藤さんがオレの髪をそっと撫でてきたとき、その指先がオレの耳の裏に触れて、身体の奥が疼くような熱さに襲われた。
 偶然当たっただけのはずなのに、オレは過剰に反応してしまって、佐藤さんに笑われたっけ。
 あんなの、ドキドキしない方がムリだと思う。
 挙動ひとつひとつが悠真さんそのものだったし、台詞のひとつひとつに、葵への愛が詰まっていた。
 どのシーンを思い出しても、楽しかった思い出と切なくて苦しくなった思い出がいっぱい詰まっていて、今でも泣きそうになる。

「青葉、お疲れ。青葉の撮影シーンは一昨日で終わったのに、わざわざ来てくれたんだな」
 佐藤さんが笑顔で近づいてきて、優しくオレの肩をポンッと叩いた。
 その笑顔が、映画の悠真さんみたいで胸の奥がじんわりと熱くなった気がする。
「佐藤さん、お疲れ様です。このたびは本当にありがとうございました!」
 オレは深く頭を下げ、改めてお礼を口にする。
「今日は偶然お仕事がお休みだったんで、最後の悠真さんのシーンを見に来ちゃいました」
 エヘッと人懐っこい笑みを浮かべて言ってみたけど、ウソだ。
 本当は、今日が映画のクランクアップだって聞いて、マネージャーさんにめちゃくちゃお願いして無理矢理休みを作ってもらっちゃった。

「へぇ~、休みの日にわざわざ撮影現場に顔を出すなんて、青葉はエラいな」
 佐藤さんがどこか嬉しそうに笑いながらオレの頭を髪がくちゃくちゃになるくらい撫でてくれる。 
「もぉ~、やめてくださいよぉ~」
 文句を口にしつつも、佐藤さんに触れてもらえるのが嬉しくって、無意識に口元が緩んでしまう。
「もぉ~、髪、くちゃくちゃになっちゃったじゃないですかぁ……。でも、もう撮影終わっちゃったんですよねぇ……」
 クランクアップということは、全ての撮影が終わってしまったことを示す。
 オレのシーンはもう撮り終わっていたから今更だけど、寂しさが募ってくる。
「佐藤さん、めちゃくちゃ悠真さんだったから、感情のジェットコースターがすごかった~。あの海のシーン!オレ、すっごく泣きそうだったんですよ?」
 オレが笑いながら言うと、佐藤さんはクスクスと笑ってくれた。
「いやいや。青葉、あのシーンは始まる前から号泣だっただろ?OKもらったのも結局涙が零れてたし」
 口元に手を当てて思い出し笑いをする佐藤さんを見て、顔が赤くなってしまう。
「ちょっ!言わないでくださいよ!だってしかたないじゃないですか。あんなシーン……あれ、泣かない方が無理ですから!」
 オレは拗ねたようにぷくっと頬を膨らませ、少し恨みがましそうに佐藤さんを睨み付けながら文句を言う。

 佐藤さんの無邪気に笑う姿に、オレの胸がキュンと締め付けられる。
 オレの声、ちょっと震えてたの、バレちゃったかな?
 佐藤さん、結構目ざといから……
 でも、佐藤さんはただ優しく笑ってくれるだけで、それ以上ツッコんではこなかった。
 
「もぉ~!あ、オレ監督に挨拶行ってきますね。佐藤さん、またあとで!」
 ぺこりと頭を下げてから去ろうとした瞬間、佐藤さんがそっと寄ってきて、耳元で囁く。
「なあ、青葉。映画の試写会のあと、時間を作って欲しい。俺と、ほんとに海行ってみないか?」
 佐藤さんの言葉が、映画の中の約束と重なり、オレの心をぎゅっと鷲掴みにされる。
 驚きすぎて目を真ん丸に見開いたまま、佐藤さんの顔を見つめる。
 佐藤さんが、何を考えているのかわからない。
 いつもと変わらない、悪戯っぽい笑みを浮かべているように見えるけど……
 でも、よく見ると佐藤さんの耳が微かに赤くなっているのがわかった。
「ぇっ……あ、えっと……」
 佐藤さんがなんかちょっと照れてるのはわかったけど、でも、それ以上にオレの方が落ち着かなくて、言葉が出てこなかった。
 なんか返事をしなきゃって思えば思うほど、なんて答えていいのかわからなくて……
 でも、この機会を逃したくなくて、オレは何度も大きく首を縦に振って了承することしかできなった。
 すると、佐藤さんがニッと笑みを浮かべ「約束な」って言ってくれた。

 その笑顔が、映画の悠真さんみたいで、でも佐藤さんそのもので、胸がドキドキして止まらない。
 この気持ちは、役である葵の気持ちのはずなのに……止めることができない。
 きっと、試写会で映画を見たら、オレはまた、葵の気持ちが溢れてきちゃうと思う。
 悠真さんを好きで、大好きでしかたない気持ち。
 そんなオレが、佐藤さんと海に行くなんて……オレ、ほんとに大丈夫なのかな?

 あの日、佐藤さんがオレの演技を褒めてくれた日。
「青葉、葵の気持ち、ちゃんと掴めてるよ」って言ってくれた言葉を、何度も思い出した。
 そのたびに胸が熱くなって、眠れなかった。
 試写会が終わって、オレと佐藤さんの休みが合う日。
 オレは、佐藤さんと海に行く。
 悠真さんと葵が行ったあの最期の海を、オレたちは一緒に見に行こうと約束した。
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