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第7話 ボウリングのチーム分け
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たわいのない話をしながら、俺たちはボウリング場に到着した。
受付を済ませ、シューズに履き替え、レーンへ向かう。機械的なピンの音と、どこか甘い油の匂いが混ざった空気が、否応なく「遊びに来た」実感を高めてくる。
俺のボウリングの腕前は、決して自慢できるほどではないが、致命的に下手というわけでもない。
平均すればスコアはだいたい120前後。調子がいいときには、何度か150を超えたこともある。
だから――少なくとも、一ノ瀬さんよりスコアが下になる、という最悪の事態は避けられるはずだ。
三間坂さんには……なぜか、それ以上に負けたくないと思ってしまう。
理由は自分でもよくわからない。ただ、負けたくない。
「投げる順番、どうする? とりあえず男女交互にする?」
下林君が当然のように提案する。
こいつ、こういう場面では妙に仕切りたがるな。いろんな意味で。
「あー、待って待って」
そこへ、三間坂さんが手を挙げた。
「せっかくだし、親睦深めるためにチーム戦にしない?」
……チーム戦?
「三間坂さん、チーム戦ってどういうこと?」
一ノ瀬さんが首を傾げる。その仕草すら可愛い。
……いや、今はそれどころじゃない。俺も同じ疑問だ。
「男女でペアになってさ。一投目を女子が投げたら、二投目は男子。次のフレームは逆。二人で一フレームを完成させる感じ」
「私、あんまり上手じゃないから……迷惑かけちゃいそう」
一ノ瀬さんが控えめに言うと、
「大丈夫大丈夫! 俺がカバーするから!」
下林君が即座に被せる。
……いや、そこは俺が言いたかった。
だが、正直――このルール、悪くない。
むしろ、かなりいい。
同じペアになれば、必然的に会話も増える。
一ノ瀬さんと組めたら、今まで教室ではほとんど話せなかった距離を、一気に縮められるかもしれない。
「高居君も、もちろん賛成だよね?」
三間坂さんが、意味ありげにウィンクしてくる。
……ん?
このタイミングで、俺に確認?
もしかして――いや、考えすぎか?
「僕もいいと思うよ」
真意はわからないが、ここで反対する理由はない。
俺は素直に頷いた。
「じゃあ、組み分けどうする?」
「男女それぞれでグーパーしよ」
「それが公平ですね」
話はあっという間にまとまった。
確率は二分の一。
あとは――運を信じるしかない。
……と、そのとき。
視界の端で、三間坂さんがちらちらとこちらを窺っている。
そして、さりげなく――握った拳を俺のほうへ向けた。
――――!
俺は、はっと気づいた。
これは、合図だ。
グーを出せ、ということだ。
ズル?
……かもしれない。だが、そんなことは今はどうでもいい。
三間坂さんは、俺が一ノ瀬さんと同じペアになれるよう、わざわざ気を利かせてくれているんだ。
俺は今まで、彼女をずいぶん誤解していたのかもしれない。
「おい、高居。何してんだよ、早く決めようぜ」
空気を一切読まない下林君の声に、現実へ引き戻される。
「あ、うん」
「じゃあいくぞ。グーパーでわかれましょ!」
下林君の掛け声と同時に、俺は迷わずグーを出した。
下林君はパー。
――よし。
もしさっきの視線のやりとりに気づかれていたら、同じ手を出される可能性もあったが、そんなことはなかった。
男子の組み分けは、あっさり一発で決定だ。
「男子のほう、決まった?」
三間坂さんが、何食わぬ顔で声をかけてくる。
「おう、決まったぞ」
「こっちも決まったよ。……せーのっ」
その掛け声と同時に、俺たち四人は、それぞれの手を前に出した。
――ふふふ。
悪いな、下林君。
グー同士、一ノ瀬さんとペアになるのは――俺だ。
俺は、すでに勝利を確信しながら、一ノ瀬さんの手に視線を向ける。
細くて、指がすっと伸びた、綺麗な手だな……。
……ん?
……待て。
一ノ瀬さんが出しているのは――どう見ても、パーじゃないか。
嫌な予感に背筋が冷え、慌てて三間坂さんのほうを見る。
そこにあったのは――固く握られた手。
どう見てもグーだ。
……ちょっと待ってくれ。
あ、ありのまま、今起こったことを話すぞ。
俺はグーを出して一ノ瀬さんとペアになるはずだった。
だが、気づいたら――三間坂さんとペアになっていた。
な、何を言っているのかわからないと思うが、俺にも何が起こったのかわからない。
頭がどうにかなりそうだ。
催眠術だとか、後出しだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だ。
「おー、一ノ瀬、同じチームだな。よろしくな!」
「うん、迷惑かけるかもだけど、よろしくね」
――くっ!
下林君が一ノ瀬さんの隣に立ち、当たり前みたいに会話を始めている。
本来、あそこに立っているのは――俺のはずだったのに!
悔しさで歯を噛みしめていると、三間坂さんがこちらへ近づいてきた。
……近い。
いや、ちょっと近すぎないか?
向こうのペアより、明らかに距離が近い。
顔が、近い。
「ちょっと。合図したのに、なんでグー出してるのよ」
小声だが、確実に苛立ちを含んだ声。
……なぜ俺が怒られている?
「いや、待ってくれ。三間坂さんがグー出せって合図したから、僕はグーを出したんだけど……」
「違うって! あれは『私はグーを出すよ』って意味!」
……わかるか、そんなもん!
これはさすがに、俺は悪くないと思う。
どう考えても誤解するだろ、それ。
「まあ、でも……もうチーム決まっちゃったしね」
三間坂さんは、少しだけ肩をすくめて続ける。
「一緒にやってれば、一ノ瀬さんと仲良くなるチャンスもあるでしょ。せっかくだし、楽しも?」
……確かに、一理ある。
今回のルールだと、下手に同じペアになって足を引っ張るより、少し距離を置いたほうが好印象な可能性だってある。
そう考えれば――完全な失敗、というわけでもないのかもしれない。
「……そうだな。せっかくみんなで来たんだし、楽しむのが一番だよな」
「そうそう!」
三間坂さんは、にこっと笑った。
俺の勘違いで、せっかくのお膳立てを台無しにしたはずなのに――それでも、こんなふうに笑ってくれる。
……うん。
やっぱり、三間坂さんって、ちょっと苦手なところもあるけど――いい人、なんだよな。
受付を済ませ、シューズに履き替え、レーンへ向かう。機械的なピンの音と、どこか甘い油の匂いが混ざった空気が、否応なく「遊びに来た」実感を高めてくる。
俺のボウリングの腕前は、決して自慢できるほどではないが、致命的に下手というわけでもない。
平均すればスコアはだいたい120前後。調子がいいときには、何度か150を超えたこともある。
だから――少なくとも、一ノ瀬さんよりスコアが下になる、という最悪の事態は避けられるはずだ。
三間坂さんには……なぜか、それ以上に負けたくないと思ってしまう。
理由は自分でもよくわからない。ただ、負けたくない。
「投げる順番、どうする? とりあえず男女交互にする?」
下林君が当然のように提案する。
こいつ、こういう場面では妙に仕切りたがるな。いろんな意味で。
「あー、待って待って」
そこへ、三間坂さんが手を挙げた。
「せっかくだし、親睦深めるためにチーム戦にしない?」
……チーム戦?
「三間坂さん、チーム戦ってどういうこと?」
一ノ瀬さんが首を傾げる。その仕草すら可愛い。
……いや、今はそれどころじゃない。俺も同じ疑問だ。
「男女でペアになってさ。一投目を女子が投げたら、二投目は男子。次のフレームは逆。二人で一フレームを完成させる感じ」
「私、あんまり上手じゃないから……迷惑かけちゃいそう」
一ノ瀬さんが控えめに言うと、
「大丈夫大丈夫! 俺がカバーするから!」
下林君が即座に被せる。
……いや、そこは俺が言いたかった。
だが、正直――このルール、悪くない。
むしろ、かなりいい。
同じペアになれば、必然的に会話も増える。
一ノ瀬さんと組めたら、今まで教室ではほとんど話せなかった距離を、一気に縮められるかもしれない。
「高居君も、もちろん賛成だよね?」
三間坂さんが、意味ありげにウィンクしてくる。
……ん?
このタイミングで、俺に確認?
もしかして――いや、考えすぎか?
「僕もいいと思うよ」
真意はわからないが、ここで反対する理由はない。
俺は素直に頷いた。
「じゃあ、組み分けどうする?」
「男女それぞれでグーパーしよ」
「それが公平ですね」
話はあっという間にまとまった。
確率は二分の一。
あとは――運を信じるしかない。
……と、そのとき。
視界の端で、三間坂さんがちらちらとこちらを窺っている。
そして、さりげなく――握った拳を俺のほうへ向けた。
――――!
俺は、はっと気づいた。
これは、合図だ。
グーを出せ、ということだ。
ズル?
……かもしれない。だが、そんなことは今はどうでもいい。
三間坂さんは、俺が一ノ瀬さんと同じペアになれるよう、わざわざ気を利かせてくれているんだ。
俺は今まで、彼女をずいぶん誤解していたのかもしれない。
「おい、高居。何してんだよ、早く決めようぜ」
空気を一切読まない下林君の声に、現実へ引き戻される。
「あ、うん」
「じゃあいくぞ。グーパーでわかれましょ!」
下林君の掛け声と同時に、俺は迷わずグーを出した。
下林君はパー。
――よし。
もしさっきの視線のやりとりに気づかれていたら、同じ手を出される可能性もあったが、そんなことはなかった。
男子の組み分けは、あっさり一発で決定だ。
「男子のほう、決まった?」
三間坂さんが、何食わぬ顔で声をかけてくる。
「おう、決まったぞ」
「こっちも決まったよ。……せーのっ」
その掛け声と同時に、俺たち四人は、それぞれの手を前に出した。
――ふふふ。
悪いな、下林君。
グー同士、一ノ瀬さんとペアになるのは――俺だ。
俺は、すでに勝利を確信しながら、一ノ瀬さんの手に視線を向ける。
細くて、指がすっと伸びた、綺麗な手だな……。
……ん?
……待て。
一ノ瀬さんが出しているのは――どう見ても、パーじゃないか。
嫌な予感に背筋が冷え、慌てて三間坂さんのほうを見る。
そこにあったのは――固く握られた手。
どう見てもグーだ。
……ちょっと待ってくれ。
あ、ありのまま、今起こったことを話すぞ。
俺はグーを出して一ノ瀬さんとペアになるはずだった。
だが、気づいたら――三間坂さんとペアになっていた。
な、何を言っているのかわからないと思うが、俺にも何が起こったのかわからない。
頭がどうにかなりそうだ。
催眠術だとか、後出しだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だ。
「おー、一ノ瀬、同じチームだな。よろしくな!」
「うん、迷惑かけるかもだけど、よろしくね」
――くっ!
下林君が一ノ瀬さんの隣に立ち、当たり前みたいに会話を始めている。
本来、あそこに立っているのは――俺のはずだったのに!
悔しさで歯を噛みしめていると、三間坂さんがこちらへ近づいてきた。
……近い。
いや、ちょっと近すぎないか?
向こうのペアより、明らかに距離が近い。
顔が、近い。
「ちょっと。合図したのに、なんでグー出してるのよ」
小声だが、確実に苛立ちを含んだ声。
……なぜ俺が怒られている?
「いや、待ってくれ。三間坂さんがグー出せって合図したから、僕はグーを出したんだけど……」
「違うって! あれは『私はグーを出すよ』って意味!」
……わかるか、そんなもん!
これはさすがに、俺は悪くないと思う。
どう考えても誤解するだろ、それ。
「まあ、でも……もうチーム決まっちゃったしね」
三間坂さんは、少しだけ肩をすくめて続ける。
「一緒にやってれば、一ノ瀬さんと仲良くなるチャンスもあるでしょ。せっかくだし、楽しも?」
……確かに、一理ある。
今回のルールだと、下手に同じペアになって足を引っ張るより、少し距離を置いたほうが好印象な可能性だってある。
そう考えれば――完全な失敗、というわけでもないのかもしれない。
「……そうだな。せっかくみんなで来たんだし、楽しむのが一番だよな」
「そうそう!」
三間坂さんは、にこっと笑った。
俺の勘違いで、せっかくのお膳立てを台無しにしたはずなのに――それでも、こんなふうに笑ってくれる。
……うん。
やっぱり、三間坂さんって、ちょっと苦手なところもあるけど――いい人、なんだよな。
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