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第55話 パーティ競争型クエスト
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メイが口にした「パーティ競争型クエスト」というのは、聞いたことのないものだった。
普通、パーティを組むのは、一人では攻略困難なクエストやモンスター討伐を、他のプレイヤーと協力してクリアするためだ。そのため、競争という言葉に違和感を覚える。
競争と言われて一番に思いつくのは、パーティ同士で対決するPvP――Player versus playerの略で、要は人対人の戦いだ。
このアナザーワールド・オンラインでは、PK――プレイヤーがプレイヤーを殺す「プレイヤーキル」機能は実装されていない。本当に殺すのではなく、ゲームとして楽しむ、たとえば闘技場のようにプレイヤー同士で戦うPvPは、一部のプレイヤーからは求められていた。
だが、PvPに関しては、それを嫌うプレイヤーも一定数存在するため、導入の兆しはこれまでなかった。しかし、今回のアップデートでついにその機能が実装されたということだろうか?
「それって、パーティ同士で争うってことですか? 私はそういうのはあんまり好きじゃないんですけど……」
ミコトさんが少し困ったような顔をして口を開いた。どうやら彼女はPvPには乗り気でないらしい。
俺も、PKに関しては否定派だし、PvPに関しても積極的に導入を求めてはいない。以前の俺なら、ミコトさんと同じ反応をしていただろう。でも、今や俺は最強アタッカーの一角、もしPvPが導入されたのならやってみたいという気持ちが湧いてきてしまう。
しかし、ミコトさんに拒否の声を上げられたメイは、なぜか余裕の顔で首を横に振っていた。
「違う、違う。パーティ同士で争うわけじゃない。パーティ内で競い合うんだ」
「パーティ内で?」
ミコトさんは首をかしげているが、俺はピンときた。
なるほど、パーティ同士の規模の大きい対人戦ではなく、パーティ内という小さなコミュニティ内での対人戦というわけだ。
PvPはその性質上、プレイヤー同士のトラブルを引き起こしやすい。卑怯な戦法で倒されたとか、執拗に狙われたとか、不満はつきものだ。いきなり大規模なPvPを導入してしまえば、このゲームの平和な雰囲気は一変してしまう可能性が高い。そこで、まずはパーティを組むような気心の知れたプレイヤー同士で小規模に戦う場を提供して、プレイヤー達がPvPに慣れるためのステップを踏ませようという運営の配慮かもしれない。同じやられるにしても、それが見ず知らずの人間と、よく知った人間とでは反応も変わってくるというものだ。知らない奴なら腹が立つことも、仲の良い人間なら笑ってすませられる。
「なるほど、わかったぞ。要はこのパーティ内でバトルロイヤルをやって、誰が一番強いかを決めるクエストってことだろ? ふふふ、いいじゃないか。最強アタッカーと呼ばれる俺の力、みんな、その身をもって知るがいい」
俺は不敵な笑みを浮かべて、周囲を見回した。
クマサンは、耐久力はずば抜けているが、攻撃力は低い。とりあえず放置しておいて、最後に倒せばいい。
ミコトさんは自己回復が厄介だが、クマサン以上に攻撃力はない。彼女も後回しでいいだろう。
問題は、豊富なアイテム攻撃を有するメイ。とはいえ、速攻でまずメイを倒してしまえば、俺の勝利は揺るがない。
そんなふうに戦略プランを練り、勝利を確信した笑みを浮かべていた俺だったが――
「違うぞ、ショウ。パーティ内で殺し合うような野蛮なクエストが実装されるわけないだろ。ネットで『最強』とか言われて、調子に乗ってるんじゃないのか? だいたい、呼ばれているのは『最強アタッカー』じゃなく、『最強の料理人アタッカー』だろ? まったく……昔のショウはもっと謙虚で可愛げがあったのになぁ」
メイは大袈裟に頭を抱え、ため息交じりに言い放つ。
心の中でこっそり戦略を練っていたのが見透かされていたようで、少し恥ずかしくなる。
「だいたい、プレイヤー同士で戦うことになっても、ショウさんの料理スキルは、人相手には使えないんじゃないですか?」
うっ……。
ミコトさんの指摘に、俺は思わずぐらりとよろけた。
そうだ……。俺の料理スキルは、相手が料理に使える素材であることが前提だ。つまり、普通に考えれば人間相手に使えるとは思えない。人間を料理の材料にするなんて、確かにありえないし、想像もしたくない。
そう思いながらも、ふと俺の視線はクマサンへと向かっていた。
……熊型獣人か。見た目はほとんど熊だよなぁ。……もしかして、クマサンになら料理スキルが効くんじゃないだろうか?
そうやってクマサンを見つめていると、俺の思考が伝わってしまったのか、クマサンがじろりとこちらを睨みつけてきた。
「……ショウ、今、何か失礼なこと考えてなかったか?」
「そ、そんなことないよ!」
俺は慌てて否定した。
今日のみんなはやけに勘が鋭い。
特にクマサンの目つきはちょっと怖い。逆に、俺の方が料理されてしまいそうな気がして、背中に冷たい汗が滲んだ。
しかし、パーティ内のバトルロイヤルじゃないとすると、一体何をするというのだろうか?
疑問を抱きつつ、俺は再びメイの方へ視線を向けた。すると、彼女はニヤリと笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「パーティ内で競い合うってところまでは正解だが、それは戦闘じゃないんだ。今回は、それぞれのプロデュース力やマネージメント力を競い合うのさ」
「プロデュース力?」
「マネージメント力?」
ミコトさんとクマサンが疑問の言葉を口にし、首を捻っている。それは俺も同じだった。MMORPGでは馴染みのない言葉に、俺の頭にも疑問符が浮かぶ。
「新しく実装されたクエスト『微笑みのディーヴァ』では、プレイヤーがそれぞれ吟遊詩人の女の子のプロデューサー兼マネージャーとなって、誰が一番の歌姫を育てられるかを競い合うんだよ」
「――――!?」
メイの発言に、俺もクマサンもミコトさんも言葉を失う。
おいおい、いつからアナザーワールド・オンラインはアイドルマスターもどきになったんだ?
とはいえ、女の子の育成SLGは、一時は一世を風靡したジャンルだ。俺だって嫌いじゃない。
それに、俺達はクマーヤをVチューバーとしてこれからもっと大きく育てようとしている。だったら、その勝負は、それぞれのセンスを測る良い機会かもしれない。
自然と握った拳に力が入る。
「ショウ、どうやらやる気になってきたみたいだな」
「これでも育成SLGのプレイ数なら俺が一番のはずだ。ついに、俺の育成力を見せる時が来たようだな」
挑発気味に言ってきたメイに、負けじと俺も言い返す。
「私の手で歌姫を……なんだか楽しみになってきました」
対人戦をいやがっていたミコトさんだが、こういう勝負には忌避感はないようで、意外にも闘志を見せていた。
残るクマサンは、と視線を移すと――
「……まるでアイドルみたいだな」
何やら難しそうな顔をして小さく呟いていた。
そこで俺はハッとする。
そうだった。クマサンが声優を辞めることになった経緯は、俺だけが知っている。
その彼女の気持ちを考えれば、アイドルプロデュースみたいなこのクエストは、俺達のようにただのゲームとして楽しむことはできないのかもしれない。
「メイ、そのクエストだけど――」
「やってみるのもいいかもしれないな」
俺が辞めようと言いかけた横で、クマサンはそう言っていた。
「よし、なら全員賛成だな! 普段は頼りになる仲間だが、時に競い合うのもいいものさ!」
全員が同意したことが嬉しいのか、メイは満面の笑みを浮かべていた。
俺はクマサンが無理して付き合おうとしているんじゃないかと思って、横目でその様子を窺う――が、クマサンはしっかり顔を上げ、前を向いていた。
きっとクマサンも前に進もうとしているんだ。
そんなふうに思えて心が少し軽くなった。
普通、パーティを組むのは、一人では攻略困難なクエストやモンスター討伐を、他のプレイヤーと協力してクリアするためだ。そのため、競争という言葉に違和感を覚える。
競争と言われて一番に思いつくのは、パーティ同士で対決するPvP――Player versus playerの略で、要は人対人の戦いだ。
このアナザーワールド・オンラインでは、PK――プレイヤーがプレイヤーを殺す「プレイヤーキル」機能は実装されていない。本当に殺すのではなく、ゲームとして楽しむ、たとえば闘技場のようにプレイヤー同士で戦うPvPは、一部のプレイヤーからは求められていた。
だが、PvPに関しては、それを嫌うプレイヤーも一定数存在するため、導入の兆しはこれまでなかった。しかし、今回のアップデートでついにその機能が実装されたということだろうか?
「それって、パーティ同士で争うってことですか? 私はそういうのはあんまり好きじゃないんですけど……」
ミコトさんが少し困ったような顔をして口を開いた。どうやら彼女はPvPには乗り気でないらしい。
俺も、PKに関しては否定派だし、PvPに関しても積極的に導入を求めてはいない。以前の俺なら、ミコトさんと同じ反応をしていただろう。でも、今や俺は最強アタッカーの一角、もしPvPが導入されたのならやってみたいという気持ちが湧いてきてしまう。
しかし、ミコトさんに拒否の声を上げられたメイは、なぜか余裕の顔で首を横に振っていた。
「違う、違う。パーティ同士で争うわけじゃない。パーティ内で競い合うんだ」
「パーティ内で?」
ミコトさんは首をかしげているが、俺はピンときた。
なるほど、パーティ同士の規模の大きい対人戦ではなく、パーティ内という小さなコミュニティ内での対人戦というわけだ。
PvPはその性質上、プレイヤー同士のトラブルを引き起こしやすい。卑怯な戦法で倒されたとか、執拗に狙われたとか、不満はつきものだ。いきなり大規模なPvPを導入してしまえば、このゲームの平和な雰囲気は一変してしまう可能性が高い。そこで、まずはパーティを組むような気心の知れたプレイヤー同士で小規模に戦う場を提供して、プレイヤー達がPvPに慣れるためのステップを踏ませようという運営の配慮かもしれない。同じやられるにしても、それが見ず知らずの人間と、よく知った人間とでは反応も変わってくるというものだ。知らない奴なら腹が立つことも、仲の良い人間なら笑ってすませられる。
「なるほど、わかったぞ。要はこのパーティ内でバトルロイヤルをやって、誰が一番強いかを決めるクエストってことだろ? ふふふ、いいじゃないか。最強アタッカーと呼ばれる俺の力、みんな、その身をもって知るがいい」
俺は不敵な笑みを浮かべて、周囲を見回した。
クマサンは、耐久力はずば抜けているが、攻撃力は低い。とりあえず放置しておいて、最後に倒せばいい。
ミコトさんは自己回復が厄介だが、クマサン以上に攻撃力はない。彼女も後回しでいいだろう。
問題は、豊富なアイテム攻撃を有するメイ。とはいえ、速攻でまずメイを倒してしまえば、俺の勝利は揺るがない。
そんなふうに戦略プランを練り、勝利を確信した笑みを浮かべていた俺だったが――
「違うぞ、ショウ。パーティ内で殺し合うような野蛮なクエストが実装されるわけないだろ。ネットで『最強』とか言われて、調子に乗ってるんじゃないのか? だいたい、呼ばれているのは『最強アタッカー』じゃなく、『最強の料理人アタッカー』だろ? まったく……昔のショウはもっと謙虚で可愛げがあったのになぁ」
メイは大袈裟に頭を抱え、ため息交じりに言い放つ。
心の中でこっそり戦略を練っていたのが見透かされていたようで、少し恥ずかしくなる。
「だいたい、プレイヤー同士で戦うことになっても、ショウさんの料理スキルは、人相手には使えないんじゃないですか?」
うっ……。
ミコトさんの指摘に、俺は思わずぐらりとよろけた。
そうだ……。俺の料理スキルは、相手が料理に使える素材であることが前提だ。つまり、普通に考えれば人間相手に使えるとは思えない。人間を料理の材料にするなんて、確かにありえないし、想像もしたくない。
そう思いながらも、ふと俺の視線はクマサンへと向かっていた。
……熊型獣人か。見た目はほとんど熊だよなぁ。……もしかして、クマサンになら料理スキルが効くんじゃないだろうか?
そうやってクマサンを見つめていると、俺の思考が伝わってしまったのか、クマサンがじろりとこちらを睨みつけてきた。
「……ショウ、今、何か失礼なこと考えてなかったか?」
「そ、そんなことないよ!」
俺は慌てて否定した。
今日のみんなはやけに勘が鋭い。
特にクマサンの目つきはちょっと怖い。逆に、俺の方が料理されてしまいそうな気がして、背中に冷たい汗が滲んだ。
しかし、パーティ内のバトルロイヤルじゃないとすると、一体何をするというのだろうか?
疑問を抱きつつ、俺は再びメイの方へ視線を向けた。すると、彼女はニヤリと笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「パーティ内で競い合うってところまでは正解だが、それは戦闘じゃないんだ。今回は、それぞれのプロデュース力やマネージメント力を競い合うのさ」
「プロデュース力?」
「マネージメント力?」
ミコトさんとクマサンが疑問の言葉を口にし、首を捻っている。それは俺も同じだった。MMORPGでは馴染みのない言葉に、俺の頭にも疑問符が浮かぶ。
「新しく実装されたクエスト『微笑みのディーヴァ』では、プレイヤーがそれぞれ吟遊詩人の女の子のプロデューサー兼マネージャーとなって、誰が一番の歌姫を育てられるかを競い合うんだよ」
「――――!?」
メイの発言に、俺もクマサンもミコトさんも言葉を失う。
おいおい、いつからアナザーワールド・オンラインはアイドルマスターもどきになったんだ?
とはいえ、女の子の育成SLGは、一時は一世を風靡したジャンルだ。俺だって嫌いじゃない。
それに、俺達はクマーヤをVチューバーとしてこれからもっと大きく育てようとしている。だったら、その勝負は、それぞれのセンスを測る良い機会かもしれない。
自然と握った拳に力が入る。
「ショウ、どうやらやる気になってきたみたいだな」
「これでも育成SLGのプレイ数なら俺が一番のはずだ。ついに、俺の育成力を見せる時が来たようだな」
挑発気味に言ってきたメイに、負けじと俺も言い返す。
「私の手で歌姫を……なんだか楽しみになってきました」
対人戦をいやがっていたミコトさんだが、こういう勝負には忌避感はないようで、意外にも闘志を見せていた。
残るクマサンは、と視線を移すと――
「……まるでアイドルみたいだな」
何やら難しそうな顔をして小さく呟いていた。
そこで俺はハッとする。
そうだった。クマサンが声優を辞めることになった経緯は、俺だけが知っている。
その彼女の気持ちを考えれば、アイドルプロデュースみたいなこのクエストは、俺達のようにただのゲームとして楽しむことはできないのかもしれない。
「メイ、そのクエストだけど――」
「やってみるのもいいかもしれないな」
俺が辞めようと言いかけた横で、クマサンはそう言っていた。
「よし、なら全員賛成だな! 普段は頼りになる仲間だが、時に競い合うのもいいものさ!」
全員が同意したことが嬉しいのか、メイは満面の笑みを浮かべていた。
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