異世界転移者の日常生活風−−戦乱を添えて

おたべ ひとり

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二章

第十三話

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 先頭でセレナが暴れ、背後をヴィクターとケインが固める。

 汚れ仕事を請け負う闇ギルド。警戒はしていたが、その多くは訓練を受けた兵ではなく「喧嘩屋」の寄せ集めだ。人数は多いが、三人でも十分に対処は可能だった。

 ケインは戦場を俯瞰する。セレナの動きは素人そのものだが、フィジカルが圧倒的だ。彼女の拳を受けた相手は、冗談のように吹き飛んでいく。対してヴィクターの動きには無駄がなく、基礎が完成されていた。伯爵家の執事という立場、おそらくは貴族の出なのだろう、危なげなく相手の攻撃を捌いている。

 敵味方入り乱れて争う中、ケインは一人、肌を刺すような危険な気配を感じていた。こちらの動きを冷静に観察し、背後を窺っている影。ケインが位置取りを変えてそれを阻止し続けているが、間違いなく戦い慣れた人間の動きだ。

(……おそらく、ネビラはコイツだ)

「おい、執事さん。あんたのところのお嬢様は、戦闘訓練を受けたことはあるのか?」

 ケインが剣を振るいながら問うと、ヴィクターは心底呆れたような顔で答えた。

「受けるわけがないでしょう。伯爵令嬢を何だと思っているんです。喧嘩だってこれが初めてですよ」

「その割には放任主義だな」

「才能の塊のような方ですからね。心配するだけ無駄というものです」

 とはいえ、ネビラの放つ殺気は尋常ではない。ネビラは間違いなく、最初に「与しやすい」セレナを狙うだろう。できれば自分が相手をすべきだが、セレナの狙いもまたネビラだ。

(いざとなったら俺が盾になるしかないか)

 ケインは腹を括った。雑魚をいち早く一掃すべく、深く踏み込み、祈りの言葉を口にする。

「"Oh, Great God of Justice, Tyr. I am Your faithful servant, a sword in Your hand. I swear to overcome every ordeal before me. Grant me Your divine miracle to punish the wicked! ―― [威圧]"」

 ケインを中心に不可視の波動が広がり、周囲の男たちの動きが途端にぎこちなく、精彩を欠いたものに変わる。

 だが、その余波はセレナにも及んだ。『威圧』は強力な範囲魔法だが、敵味方の区別がつかない。セレナはケインを味方と認識しているため、敵のように恐怖で硬直することこそないが、戦い慣れていない彼女はその重圧に即座に適応できず、動きが鈍ってしまっていた。

 その刹那、戦闘経験豊富なネビラだけがいち早く『威圧』の波を抜けた。セレナの硬直を見逃さず、仲間の構成員たちの間を縫うようにして一気に距離を詰めた。

「シッ!」

 ネビラの短剣がセレナの喉元を突く。

「!?」

 セレナは反射的に身体を投げ出し、かろうじて回避した。しかし、床に倒れ伏したその姿は、あまりにも無防備な隙を晒してしまっていた。

 ネビラがその絶好の機を逃すはずがない。流れるような連撃で、トドメの刺突を繰り出す。

「ガキンッ!」

 鋭い金属音が響いた。セレナの眼前で、ネビラの短剣がケインの刃によって弾き飛ばされる。ケインはそのまま剣を押し込もうとするが、ネビラはその反動を利用して後方へ飛び退くと、空中で不気味な詠唱を開始した。

「"Oh, Fallen God of Shadows, Erebus. I am Your devoted apostle, a shadow in the night. I embrace the darkness to endure this trial. Grant me Your dark miracle to bind my prey! ―― [影縫い]!"」

 ネビラが懐から取り出したナイフをケインへ投擲した。ケインは難なくそれを回避したが――。

「なにっ!?」

 避けたはずのナイフが、ケインの「影」を床に縫い付けていた。影を固定されたことで、本体であるケインの身体が物理法則を無視して地面に張り付く。体勢がガクンと崩れた。
「しまった」と心中で叫んだ時には、すでにネビラの二投目が目前に迫っていた。

「くっ!」

 反射的に剣をかざして急所を守ったものの、防ぎきれなかったナイフがケインの腕と脚に深々と突き刺さった。

 ネビラが冷酷に追撃を狙ったが、それをヴィクターが阻んだ。滑り込むようにして鮮やかな足技で、ケインの影に刺さっていたナイフを蹴り飛ばし、拘束を解く。

「影を縫い付けて自由を奪う魔法ですか。暗殺者らしい卑劣な魔法ですね」

「卑怯だと……? 負け犬共はどいつもそのセリフを吐いて死んでいったぜ。おい、そいつらを狙え!」

 ネビラの号令により、闇ギルドの構成員たちが手負いのケインとヴィクターに殺到する。

「くっ……」

 負傷したケインを庇いながらの戦いを強いられ、ヴィクターたちは防戦一方に追い込まれていく。もはやセレナをフォローする余裕はどこにもなかった。

 静まり返ったフロアの中央。その隙を突き、ネビラがゆっくりとセレナの前に立ちふさがった。

「さて、お嬢様。邪魔者は消えた。……じっくりと可愛がってやるよ」
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