異世界転移者の日常生活風−−戦乱を添えて

おたべ ひとり

文字の大きさ
32 / 32
二章

閑話

しおりを挟む
「わあ、やっぱりふっさふさ……!」

 セレナお姉さんのお屋敷の広い裏庭には、ミーナの新しいお友達がいたの。それは、とーっても大きくて、黄金色の毛並みが太陽みたいにキラキラしてる、魔獣のポチ!

 大人はみんな「強力な魔獣だ!」って言うけれど、ポチは街の子供たちみんなの人気者。

 ミーナは迷わず、そのもふもふの毛の中にダイブ!

 あったかくて、お日様の匂いがして、まるで雲みたいに柔らかい。ポチが大きな鼻先でミーナの背中を「ツン!」ってしたら、ミーナは「くすぐったーい!」って笑っちゃった。

 大きな尻尾に巻かれて、ブランコみたいに「ふわふわ」って宙に浮かせてもらったり、草むらで追いかけっこをしたり。

 たくさん遊んで、ミーナが遊び疲れてウトウトしているうちに、ポチの首元の毛の中にすっかり埋もれて、ぐっすり眠っちゃったの。

「んん……」

 目が覚めたら、空がオレンジ色に染まってた。

「もう夕方?」

 ミーナが目をこすりながら起き上がると、ポチが「グルルッ」って低く鳴いたの。

「帰る時間だって? うん、送ってくれるの? ありがとう、ポチ!」

 ミーナは手慣れた様子で、ポチの広い背中に「ひょい」ってまたがる。

 大きな体が「ドスッドスッ」ってゆっくり動き出して、夕闇が迫る森の中を進んでいく。木々の葉っぱの間から差し込むオレンジ色の光が、ポチの毛並みをいっそうキラキラさせてて、とっても綺麗だったんだ。

 でもね、その静かな帰り道は、急に大きな声で破られたの。

「待て! その子を放せ、卑劣な魔獣め!」

 茂みから「ザザザッ」って飛び出してきたのは、白銀の鎧を着たエドワードおじさん!

 今日の歩く音は「パカパカ」じゃなくて、「カツッ、カツッ」ってとっても静か。どうやらブーツを新しくしたみたいで、なんだかいつもより誇らしげな顔をしてる。

「えっ、エドワードおじさん!?」

「心配ない、ミーナ嬢! 今すぐその化け物から救い出してやる! ……そしておじさんではない!」

 エドワードおじさんは、ミーナがポチに「食べられちゃう!」って勘違いしてるみたい。剣を構えて「シュッ!」って一気に近づくと、ポチに向かって「えいっ!」って剣を振り下ろしたの。

「キィィィィィィィン!」

 金属音が響く。でもね、ミーナは「あれ?」って思ったの。エドワードおじさんの剣は、ポチの分厚い毛皮に弾かれて、まるで何事もなかったみたいだったんだ。

「な、なにっ……!? 刃が通らないだと!?」

 ポチは「ふぁあ~」って大きなあくびをした。ミーナには「邪魔だなあ」って言ってるみたいに聞こえたよ。焦ったエドワードおじさんは、剣を引き抜くと「ぴょん!」って大きく飛び退いたの。

「ならば、これならどうだ!
 "Justice is with me! Let the judgment of God be engraved upon your body!" ……Eat this, "閃光"!!」

 エドワードおじさんの全身が、「ピカーッ!」って、太陽を地上に引きずり下ろしたみたいに眩しい光を放ったの!

「うわっ、まぶしいー!」

 ミーナは思わず目を覆ったよ。近くでこれを見ちゃったポチも、さすがに「むむむ」って顔をして、ちょっとだけ「イラッ」としたみたい。

「グルルッ!」

 ポチは反射的に、右の鋭い爪を「ビュン!」って振るったの。
「シュンッ!」っていう風を切る音。

 エドワードおじさんは辛うじて首を「ヒュン!」ってすくめて、ギリギリで避けたように見えたんだけど……。

「……はぁ、はぁ。どうだ、ひるんだか!」

 エドワードおじさんは「ドヤッ」って顔で剣を構え直したけど、ミーナは思わず「ああっ!」って声を上げそうになっちゃった。

「ミーナ嬢、どうした? どこか怪我を……?」

 心配そうに顔を覗き込んでくるエドワードおじさん。でも、ミーナはレディ。ここは気づかないふりをしてあげるのが優しさだよね。

「ううん、なんでもないの! ポチは私の友達なの、仲良くして!」

 ミーナが一生懸命説明して、ようやくエドワードおじさんは剣を「カチャッ」って鞘に収めたの。

「……なるほど。高位の魔獣には知性があると聞く。失礼した、魔獣殿」

 こうして、先頭をエドワードおじさんが「カツッ、カツッ」って新しいブーツで歩いて、その後ろをミーナを乗せたポチが続く、みんなで仲良く街へ向かうことになったんだ。

 街に入ると、子供たちが「あ、ポチだー!」って駆け寄ってきたの。でもね、先頭を歩くおじさんの姿を見た途端、みんな「ひゃあ!」って顔を引きつらせて、蜘蛛の子を散らすみたいに逃げ出しちゃった。

 そんな街の子供たちの様子を見たエドワードおじさんは、眉間にシワを寄せて「うむ」って頷いているよ。

「魔獣殿が警戒されているようだな。ミーナ嬢を襲っていると勘違いされては敵わんな」

 おじさんはポチの背からミーナを降ろすと、その手を「ぎゅっ」ってしっかりと握って、守るみたいに歩き出したんだ。

 おじさんと白銀の鎧は、歩くたびに夕日に反射してキラキラ輝いてる。

 その時、逃げていた子供たちが一斉にミーナたちを指さして叫んだの。

「魔獣が追ってきたー!」

「河童の魔獣だ! ミーナちゃんが誘拐されるぞー!」

「……河童?」

 エドワードおじさんは「何のことだ?」って顔をしている。

 そこへ、騒ぎを聞きつけてケインおじさんとミケお姉ちゃんが来てくれたんだ。でも二人とも、エドワードおじさんを見た途端、顔を真っ赤にして凄く苦しそうにしてるの。

「ケイン! 待て! この魔獣は危険な魔獣ではないのだ」

 エドワードおじさんは必死にポチを庇って、ケインおじさんを押し止めようとした。

「くっ……大丈夫だ……俺たちが倒すべきは、そのふっさふさじゃない。……ふっさふさじゃない奴だ」

 ケインおじさんは、肩を震わせて苦しそうに、エドワードおじさんの顔をまともに見られないでいる。

「ぷっ……アタシたちが倒すべきは、少女を誘拐しようとしてる変態魔獣ニャ」

 ミケお姉ちゃんも、地面にうずくまって何とか喋ってる。

 二人があんまり苦しそうだから、ミーナが心配でオロオロしていると、急に手に「ひんやり」した手鏡が手渡されたんだ。ビックリして後ろを向くと、いつの間にかスミレお姉ちゃんが立ってた。全然気づかなかった。

 スミレお姉ちゃんは無表情のまま、黙って頷いた。
 ミーナは勇気を出して、手鏡をエドワードおじさんに向けたんだ。

「おじさん、どうぞ……」

「どうしたミーナ嬢、突然鏡など……なにー!! ない! ない! 髪が無い! 髪がないじゃないか!」

 鏡の中に映っていたのは、ポチの爪で頂点を見事な円形に、つるーんって刈り取られた、お皿みたいな頭だったの!

「おじさんだけどね」

 ミーナ、心の中で呟いたつもりだったけど、つい口に出ちゃったみたい。

「おじさんじゃないって! ……いや、それどころじゃない!」

 エドワードおじさんは必死に両手で自分の頭を押さえて叫んだの。

「うわぁはぁはぁぁ! エドワードお前、Bランク冒険者になる前にBランク魔獣になっちまってどうする!」
 もう堪えられなくなったケインおじさんは、お腹を抱えて指を差して笑い出した。

「Bランク魔獣『河童』ニャ。危険ニャ、誘拐されるニャ」

「ん。通報案件。猥褻物陳列罪」

 ミケお姉ちゃんもスミレお姉ちゃんも、とっても楽しそう。

「ワンワン!」

 ポチも尻尾をフリフリして、なんだか楽しそう。

 周りのみんなも、さっきまでの怖がってた顔を忘れて、大声で笑ってる。

 エドワードおじさんが街のみんなを明るく照らしてくれているんだ。そう思ったらミーナも嬉しくなっちゃって、みんなと一緒に「あはは!」って笑っちゃうのでした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...