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工藤と近藤 二
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とある休日、工藤からメッセージがきた。
今日たぬきの家に泊まりに行った
何だろう、と思った。
ただコイツからくる変なメッセージは初めてではないので、スルーする技術が身についている。
そうか、とおくっておこう。
たぬきってなんだよ…と少しの間もやもやしたが、中断していた漫画を読み始めるとすぐに忘れた。
週明け聞けばいいだろうと。
○●○
週明け。
教室に入ると、工藤がふさふさした動物と一緒にいた。
後ろ姿しか見えないが、あれは何だ。
目をしばたかせる。
両目を指でおさえては、まぶたを開きそこを見てみる。
…つかれてんのかな………
犬のような犬じゃない何かが椅子に座っている。
なのに、みんな素通りして、誰もツッコまない。
犬が校内にまぎれこんで来た時のあのいっときだけざわつくテンションは何処行った。
近藤が日常に溶け込む何かを目の当たりにして戸惑っていると、工藤が気づいて手招きする。
正直行きたくない…
近藤は思ったが、いつまでも突っ立ってる訳にも行かない。
しぶしぶ工藤の元へ近寄った。
「たぬき、近藤」
人を指さして工藤が言った。
あ、よかった。俺にだけ見えてる幻ではなかったらしい。と、近藤が安堵していると、たぬきと呼ばれた何かが振り向いた。
「こ、こ、こん」
近藤は動物らしきその物体が言葉を発した事に目を見開いた。
ぬいぐるみ…、何か仕掛けがあるのだろうか。
近藤を見て、椅子に座ってるたぬき…が前足(両手)を胸の前に合わせ、もじもじとしながら何か言おうとする。
「ぼ、ぼぼぼ、ぼく…」
たぬきが俯いたまま数十秒。
そして顔を上げ、近藤を見つめると、半開きの口のまま、フリーズした。
静止画のように見つめ合う一匹と一人。
そしてそれを壊すゲラ野郎の笑い声に、たぬきから一瞬気が逸れた近藤はとりあえず工藤の頭をはたいた。
何で!?とか工藤が言ってるけど気にしないで、説明しろ、と近藤は言った。
「考えるな、感じろ」
工藤が真顔で言うので意味がわからずきいた。
「どういうことだ?」
「だから、見たまんまだよ」
何に見える?と工藤に言われ、毛の生えた動物…と近藤はこたえた。
「そう」
なぜか嬉しそうに自慢げに工藤は頷いた。
……………………。
…何の説明にもなっていないが、コイツにそんな期待をしても無駄だという事に今さら気づいた。
「あのっ、ぼく」
声に反応した二人に見られて、また言葉に詰まった様子のたぬき。
しかし、ぎゅっと両手を握り締めて言った。
「こっ近どうさんの、役に立ちたくて、ここに、来ましたっ」
近藤は思ったことをそのまま言った。
「……どういう意味?」
「なにか、困ってること、ありませんか?」
「……困ってること、特に…ない」
と言うとみるみるたぬきが困ったように、そんな…というので、近藤は困った。
◆
なんで誰もたぬきに反応しないのかという疑問は、少しなれてきた頃にわかった。
近藤がたぬきの頭についた落ち葉に気づき、取ろうとした。
すると、たぬきが、これは駄目です。と頭を押さえて焦ったように言うので、なぜ、と訊くと、この葉っぱを乗せている限り、僕はヒトの姿に見えているんです、と言った。
嘘だろ、と思ったが周りのスルー具合に納得をせざる得ない。
化け狸…。きらりと近藤の目が一瞬かがやいた。
「おれらには見えてないのは、なんで?」
「それは、そういうふうに、しているからです」
たぬきが得意げにいった。
「そもそも、何で工藤といるんだ?」
「それは「しっこしてたから」」
「………」
「ま、まだ、ヒトの生活になれてなくて…たまたま変そうを解いて、その、そとで用を足していると、見つかってしまい…」
ああ…想像つく、スゲーとか言いながら、まじまじ見続ける工藤が。
何か知らない所で色々あったんだな。
デリカシーなくてごめんな、と工藤の代わりにコソッとあやまっといた。
◆
授業が始まる前にじゃあ、ぼくは失礼します。と何処かへ行くたぬきを教室の中から見送る。
「また後でなーー」
手を振る工藤に訊く。
「あいつ、タヌキ?」
首を傾げながら数秒考えて工藤は言った。
「アライグマ…?」
「…は?じゃあ、なんで"たぬき"なんだよ」
「名前がたぬき」
「なまえがたぬき…」
◆
「こ、こんにちは」
たぬきがやって来た、近藤は隣から椅子を引いてうながす。
「よお、こっち座れよ」
「ありがとうございます」
どことなく嬉しそうに椅子に飛び乗ってチラチラと近藤を見ている。
なんか…好かれてる?気の所為でなければ。
なんでだ…
「…………、あのさ」
「はいっ…」
俺おまえに何かしたか?と、近藤がたぬきの隠しきれていない好意的な瞳を受けて訊こうとした。
しかし
突如、教室の窓が乱暴に叩かれた。
その音に驚き目をやると
「植えるぞおーーーー!」
出てこいおまえら。と、なぜか小さな緑の葉が生えた苗をカゴいっぱいに持った麦わら帽子をかぶった工藤がいた。
◆
近藤は今、渡された手袋をはめて工藤が持ってきた苗を植えるのを手伝おうとしている。
なんでだよ…
工藤が担任に頼まれた事を、なぜか近藤たちも巻き込まれ、たぬきを連れて校舎前の玄関まできた。
そこに並べられた鉢に花の苗を植えて、そのあと校舎裏の花壇と畑に水やり……ってどんだけ手伝わす気だ。
「まーまー、お菓子お前らにも分けてやるから。なっ?」
エモっちゃんが後で飲み物持ってくるってよ!
とかのんきに工藤は言っている。
お菓子と飲み物か…
やるか。
腕まくりをして工藤の隣に並んでしゃがむ。
やり取りをしばらく傍観していたらしいたぬきを呼び寄せる。
スコップをもたせ、穴掘りをさせようとしたが、道具なんかなくても、素手があった。
豪快に穴を掘るので、さすがだなと褒めると、掘った穴に鼻先を突っ込んでいた。
しばらくして顔を上げたと思ったら、土まみれだったので、手で払い落としてやった。
どういう習性なんだろうか、たぬきの事がもっと知りたくなった。
◆
近藤は自室のベッドで目を覚ました。
「……、あ歯磨いてねーや」
そう言い、起き上がると読みかけの漫画が身体から滑り落ちた。
ついでに風呂も入ろうと思い立ち入る。
シャワーを浴びていると、何か忘れているような気がした。
「………?」
何だっけ、と思うが思い出せない。
まあ、いいか忘れる程度のことなら、と特に気にせずシャワーを浴びた。
浴室から出て髪を乾かしてまたベッドへ戻った。
さっき眠ったばかりだというのに、またとろとろと眠気がやってきて抗うことなく意識をしずめた。
◆
朝
はよー、と挨拶して教室に入る。
自席へ近づいた時、工藤の席で誰か話し込んでいた。
知らないやつだったのでひとまず席について机から漫画を取り出して読む。
「こ、ここ、こここん」
「……」
ページを捲る音が流れる。
「…近藤さん!!」
「うお何」
ひびったと近藤が身体を揺らした。
だれ?と近藤を呼んだ目の前の人物、眼鏡くんを見た。
そいつが何か言う前に、工藤が眼鏡くんの肩に手を置いて言った。
「近藤、たぬき」
「は?」
「わたぬきです」
よろしくお願いします、と両手を握りしめたそいつがペコリと会釈した。
え、デジャヴ?
今日たぬきの家に泊まりに行った
何だろう、と思った。
ただコイツからくる変なメッセージは初めてではないので、スルーする技術が身についている。
そうか、とおくっておこう。
たぬきってなんだよ…と少しの間もやもやしたが、中断していた漫画を読み始めるとすぐに忘れた。
週明け聞けばいいだろうと。
○●○
週明け。
教室に入ると、工藤がふさふさした動物と一緒にいた。
後ろ姿しか見えないが、あれは何だ。
目をしばたかせる。
両目を指でおさえては、まぶたを開きそこを見てみる。
…つかれてんのかな………
犬のような犬じゃない何かが椅子に座っている。
なのに、みんな素通りして、誰もツッコまない。
犬が校内にまぎれこんで来た時のあのいっときだけざわつくテンションは何処行った。
近藤が日常に溶け込む何かを目の当たりにして戸惑っていると、工藤が気づいて手招きする。
正直行きたくない…
近藤は思ったが、いつまでも突っ立ってる訳にも行かない。
しぶしぶ工藤の元へ近寄った。
「たぬき、近藤」
人を指さして工藤が言った。
あ、よかった。俺にだけ見えてる幻ではなかったらしい。と、近藤が安堵していると、たぬきと呼ばれた何かが振り向いた。
「こ、こ、こん」
近藤は動物らしきその物体が言葉を発した事に目を見開いた。
ぬいぐるみ…、何か仕掛けがあるのだろうか。
近藤を見て、椅子に座ってるたぬき…が前足(両手)を胸の前に合わせ、もじもじとしながら何か言おうとする。
「ぼ、ぼぼぼ、ぼく…」
たぬきが俯いたまま数十秒。
そして顔を上げ、近藤を見つめると、半開きの口のまま、フリーズした。
静止画のように見つめ合う一匹と一人。
そしてそれを壊すゲラ野郎の笑い声に、たぬきから一瞬気が逸れた近藤はとりあえず工藤の頭をはたいた。
何で!?とか工藤が言ってるけど気にしないで、説明しろ、と近藤は言った。
「考えるな、感じろ」
工藤が真顔で言うので意味がわからずきいた。
「どういうことだ?」
「だから、見たまんまだよ」
何に見える?と工藤に言われ、毛の生えた動物…と近藤はこたえた。
「そう」
なぜか嬉しそうに自慢げに工藤は頷いた。
……………………。
…何の説明にもなっていないが、コイツにそんな期待をしても無駄だという事に今さら気づいた。
「あのっ、ぼく」
声に反応した二人に見られて、また言葉に詰まった様子のたぬき。
しかし、ぎゅっと両手を握り締めて言った。
「こっ近どうさんの、役に立ちたくて、ここに、来ましたっ」
近藤は思ったことをそのまま言った。
「……どういう意味?」
「なにか、困ってること、ありませんか?」
「……困ってること、特に…ない」
と言うとみるみるたぬきが困ったように、そんな…というので、近藤は困った。
◆
なんで誰もたぬきに反応しないのかという疑問は、少しなれてきた頃にわかった。
近藤がたぬきの頭についた落ち葉に気づき、取ろうとした。
すると、たぬきが、これは駄目です。と頭を押さえて焦ったように言うので、なぜ、と訊くと、この葉っぱを乗せている限り、僕はヒトの姿に見えているんです、と言った。
嘘だろ、と思ったが周りのスルー具合に納得をせざる得ない。
化け狸…。きらりと近藤の目が一瞬かがやいた。
「おれらには見えてないのは、なんで?」
「それは、そういうふうに、しているからです」
たぬきが得意げにいった。
「そもそも、何で工藤といるんだ?」
「それは「しっこしてたから」」
「………」
「ま、まだ、ヒトの生活になれてなくて…たまたま変そうを解いて、その、そとで用を足していると、見つかってしまい…」
ああ…想像つく、スゲーとか言いながら、まじまじ見続ける工藤が。
何か知らない所で色々あったんだな。
デリカシーなくてごめんな、と工藤の代わりにコソッとあやまっといた。
◆
授業が始まる前にじゃあ、ぼくは失礼します。と何処かへ行くたぬきを教室の中から見送る。
「また後でなーー」
手を振る工藤に訊く。
「あいつ、タヌキ?」
首を傾げながら数秒考えて工藤は言った。
「アライグマ…?」
「…は?じゃあ、なんで"たぬき"なんだよ」
「名前がたぬき」
「なまえがたぬき…」
◆
「こ、こんにちは」
たぬきがやって来た、近藤は隣から椅子を引いてうながす。
「よお、こっち座れよ」
「ありがとうございます」
どことなく嬉しそうに椅子に飛び乗ってチラチラと近藤を見ている。
なんか…好かれてる?気の所為でなければ。
なんでだ…
「…………、あのさ」
「はいっ…」
俺おまえに何かしたか?と、近藤がたぬきの隠しきれていない好意的な瞳を受けて訊こうとした。
しかし
突如、教室の窓が乱暴に叩かれた。
その音に驚き目をやると
「植えるぞおーーーー!」
出てこいおまえら。と、なぜか小さな緑の葉が生えた苗をカゴいっぱいに持った麦わら帽子をかぶった工藤がいた。
◆
近藤は今、渡された手袋をはめて工藤が持ってきた苗を植えるのを手伝おうとしている。
なんでだよ…
工藤が担任に頼まれた事を、なぜか近藤たちも巻き込まれ、たぬきを連れて校舎前の玄関まできた。
そこに並べられた鉢に花の苗を植えて、そのあと校舎裏の花壇と畑に水やり……ってどんだけ手伝わす気だ。
「まーまー、お菓子お前らにも分けてやるから。なっ?」
エモっちゃんが後で飲み物持ってくるってよ!
とかのんきに工藤は言っている。
お菓子と飲み物か…
やるか。
腕まくりをして工藤の隣に並んでしゃがむ。
やり取りをしばらく傍観していたらしいたぬきを呼び寄せる。
スコップをもたせ、穴掘りをさせようとしたが、道具なんかなくても、素手があった。
豪快に穴を掘るので、さすがだなと褒めると、掘った穴に鼻先を突っ込んでいた。
しばらくして顔を上げたと思ったら、土まみれだったので、手で払い落としてやった。
どういう習性なんだろうか、たぬきの事がもっと知りたくなった。
◆
近藤は自室のベッドで目を覚ました。
「……、あ歯磨いてねーや」
そう言い、起き上がると読みかけの漫画が身体から滑り落ちた。
ついでに風呂も入ろうと思い立ち入る。
シャワーを浴びていると、何か忘れているような気がした。
「………?」
何だっけ、と思うが思い出せない。
まあ、いいか忘れる程度のことなら、と特に気にせずシャワーを浴びた。
浴室から出て髪を乾かしてまたベッドへ戻った。
さっき眠ったばかりだというのに、またとろとろと眠気がやってきて抗うことなく意識をしずめた。
◆
朝
はよー、と挨拶して教室に入る。
自席へ近づいた時、工藤の席で誰か話し込んでいた。
知らないやつだったのでひとまず席について机から漫画を取り出して読む。
「こ、ここ、こここん」
「……」
ページを捲る音が流れる。
「…近藤さん!!」
「うお何」
ひびったと近藤が身体を揺らした。
だれ?と近藤を呼んだ目の前の人物、眼鏡くんを見た。
そいつが何か言う前に、工藤が眼鏡くんの肩に手を置いて言った。
「近藤、たぬき」
「は?」
「わたぬきです」
よろしくお願いします、と両手を握りしめたそいつがペコリと会釈した。
え、デジャヴ?
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