BL短編書き散らかし

智紗人

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八月 2話(閑話)

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「はっちーーー!!!」

朝の通学路、校門入ってすぐの場所で大きな声でハチを呼んだ玄也はまだ振り向いてもいないのに大きく手を振っている。
そんな事を知る由もなく
朝から大声で呼ばれ素知らぬフリをしたくなったハチ。
少しだけ小走りで駆け出した。
すると、玄也の「何で?!待って」という声が背後から聞こえた。
しかし、ハチは追いつかれたくないと意地になって走り続けた。
結局校舎内に駆け込んだと同時に玄也に捕まってしまった。
「何で逃げるのー?」と言う玄也の全く普段と変わらない声を聞きながら、あれ、何でこんなに必死になって走ったんだっけと、息を切らしハチは思った。
朝から元気だねと言われ、それは玄也の方だと思いつつ、息を整えるとハチは「おはようございます」と今更だが挨拶をした。
それにニパッと笑い「おはよっ」と返事をすると、大して汗もかいてなさそうな制服をあおぎハチに言った。
「あーもう喉渇いたー、ジュース買いに行こ?」
玄也に促され自販機のある場所へ方向転換する。
まあ、いつもより早く着いたし…いいか、と思いながら大人しく一緒に向かう事にした。
「どれにしよっかなー」
スポ系かしゅわっと系か甘々系で悩んでいるらしい。

飲み物が落ちる音がして見ると取り出したのは炭酸飲料だった。
それをハイと差し出される。
「え…いいんですか?」
とハチが言うと「うん」と玄也は返事をしながらボタンを押す。
ガコンと音を立てて出て来たミルクティーのフタを開けて口をつける。
「うまー、?はっちー飲まんの、炭酸苦手?」と訊かれて「いえ…頂きます」と言って一口のんだ。
口内に広がる炭酸の刺激が久しぶりで美味しい。
「交換しよー」と言われ玄也の持っていたミルクティーも渡される。
「ぷはーうまい!…このまま交換したい…だめ?」
「いえ、勿論」
(買ったの先輩だし)
やったと言う玄也に、先輩が買ったやつですよとハチは言い、それに…と控えめに続けた。
「あんまり炭酸飲まないんで少しぐらいが、ちょうどいいです。」
「なら良かった、もう一口のむ?」
「聞いてました?」
「?うん」
「…頂きます」(もういいや…)
じっと玄也に見られている事に気づくと「飲みます?」とハチは訊いた。
「飲む!」と元気よく待ってたと言わんばかりの玄也の声にハチはバレないように少し笑った。

水分補給の回
ガバガバ飲む犬っころ


■ ■ □


小ネタ【なんか今なら陸地でも背泳ぎ出来そうな気がする】それはどんな時


 クラスの合同授業で男子はプールだ。
 幼なじみのヒロにつかまったハチは、苦手な背泳ぎの指導を受ける。
もういいと何度も言ったが「コツさえ掴めば八月も出来る」と終わるまでずっと練習は続いた。
スパルタ特訓のあと、帽子を脱いでシャワーを浴びていると、ヒロに「良く頑張ったな」と髪をぐしゃぐしゃにされる。やめろとハチが頭を振ると声を出して笑った。
体力をほぼ使い果たしたハチ。
着替えてヒロと別れ教室に戻る途中、肩をたたかれ振り返ると、同じクラスのまゆこちゃんがいた。
「あの…これさっき家庭科で皆で作ったんだけど…良かったら…」
チェック柄の紙袋を差し出された。
少しの間が空いたあと、ハチはおずおずと手をのばし「いいの?」とお礼を言い受け取る。渡すとまゆこちゃんはすぐ教室へ戻っていった。
中をのぞくと丸いチョコレートがいくつか入っている。…今日バレンタインだったらよかったのに…。
と思いながら浮かれたハチはつい口に出して「なんか今なら陸地でも背泳ぎ出来そうな気がする」と独り言をつぶやく。
「はっちー」
真横から声が聞こえ、どこからともなく現れた玄也に驚きすぎて、今もらったばかりのチョコを落としそうになる。
「いきなり出てくるのはナシですよ」
どこからいたんだろう…ハチは胸に手を当て距離をとる。
何も言わないがハチの持つ紙袋を興味深げに、思い違いでなければきらきらした目でみている。
「…先輩もよかったら、…食べます?」
「いいの?」と言う顔をするのでハチは頷いて訊いた。
「チョコたべれますか?」
一瞬で嬉しそうな表情をした玄也に仕方ない…喜びは分け合おうと紙袋をあけるハチ。
「あ」、と口を開けられても…



■ ■ □



小ネタ
chapped lips



笑った反動でパカッと縦に唇が割れたのがわかった。
咄嗟に口元に手をやる。
口の中に鉄の味が広がり眉を寄せた。


「どした?」
頭の後ろで手を組み隣を歩いていた先輩がこちらを向いて訊いてくる。

「いえ、別に。…くち切ったみたいで、」

口元にあった手を掴まれる。

「…、いたい?」

玄也が悲痛な顔をするので、なんだか笑えてきて、ひび割れた唇の傷がまた痛んだ。
「って…っ痛くないですよ」

「なんで笑うの?うそついたらダメ。あっ」

「?」
「そういえば…はっちー、ステイ」
そう言ってブレザーや制服のポケットを探りながら、どこやったっけとゴソゴソし出す。
後ろのポケットに手を突っ込むと、あったと言いながら出したパッケージに入ったままのそれ。

「じゃーーん、ハイ」
「いや、いいです」

新品のそれに気が引ける。
ハチは横に首を振り大丈夫ですと言った。

0.5秒ぐらいの間のあと、ふんふんと首を縦に振った玄也は、それをパッケージから取り出すと、ハチの前に立ちふさがった。

「はっちー動いたら、負けね」

急に前に来た玄也に驚き腕が上がったが、それを片手でおさえられ、固まる。

「……………」

その間にささっと塗りたくられた。

ちらりと見た玄也の顔は眉が下がっていた。ハチはそれを見てやり場のない視線をまた上へ向けた。

眉を下げみつめられてもなあ…唇が切れただけだ……。

「ハイ…おしまい、いい子ー」
そう言って横に並ぶと自分の口にも塗ってまた歩き出した。

人が居ない道でよかった、ハチがそう思って歩き始めると、玄也がはっちー目とじてーと言ってきた。

今度は何、と笑顔で近寄る玄也にハチはたじろぐ。

「ちょっとさー、目閉じて二秒」

片手を前に突き出しピースサインしてくる玄也。

にびょう……。

二秒という言葉に頷いて目を瞑る。

「あ、口も開けて」

え、とハチは少しだけ躊躇したが、結局言われるままひらく。
サラサラと口に何かが入ってきて、閉じていた目を開き、何入れたんですか、と玄也に訊こうとした。

「ごほうび、美味しー?」
お菓子の袋を目の前で振られる。

瞬間、パチパチと口の中で弾けだした飴に、ハチは何のご褒美ですかと聞きたかったが、口の中のものがパチパチして開けない。

これご褒美っていうか、罰ゲームですよ先輩。と言いたかったが、にこやかな玄也を見て、ただうなずいた。

すると玄也が口元に耳を寄せてきた。

「ぱちぱちいってるー」

近い。

それからハチは、くちびるに塗る用のワセリンを持ち歩くようになった。








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