86 / 122
4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 6-1
しおりを挟むそれからあまり時間も経たずに、ヴィルジニーは戻ってきた。三人の美女を連れて。
パトリックが眩しそうに目元を細めるのを、「やだ、可愛い」と口にしているのを聞いて、アナベルは小さく口角を上げる。
「あたしたちをご指名って聞いたのだけどぉ、本当に?」
疑うように鋭い視線を向ける娼婦たちに、アナベルは怯んだ様子も見せずにただ微笑んで首を縦に動かした。
「とりあえず、寵姫様の隣に立っても負けないくらいの子たちを選んできたよ。どうだい?」
「ええ、三人ともとても美しいですわ」
満足げなアナベルのように、ヴィルジニーはちらりと娼婦たちに視線を向ける。
「あなたたち、お名前は?」
「えっとぉ、どれが良いかしら~?」
間延びするような話し方に、パトリックは眉間を押えた。
「そうねぇ……、では、わたくしが決めても良いかしら。わたくしの護衛兼、専属メイドになってもらおうと思うの」
「宮殿ってそんなに危険な場所なの?」
「危険な場所になる可能性があるってことですわ。安全は保障できません。ですので、高い報酬をお約束します」
「まあ、いいけど~……。それじゃあ、あなたの呼びたいように呼んでちょうだい」
そんなにあっさり決めて良いのか、とパトリックが驚いていると、ひとりの娼婦と目が合った。そして、彼女がパチンと彼に向かいウインクをすると、パトリックは顔を赤らめた。
扇情的な格好をしている彼女たちに、パトリックは目のやり場に困っているようだった。
「それじゃあ。あなたから、ロクサーヌ、イネス、カミーユと名付けるわ」
アナベルが淡々と娼婦たちの偽名をつけると、彼女たちはうなずいた。
「まだ、準備が必要だから、その準備が終わり次第声を掛けますわね」
「……わかりました」
ロクサーヌ、と名付けられた女性が神妙な顔でうなずく。
アナベルはソファから立ち上がり、パトリックに向かい視線を向ける。彼はまだ視線をどこに向ければ良いのか困っていたようだった。
(本当に初心な方よねぇ……)
女性と接することがあまりなかったのだろうか、と考えてアナベルは「行きましょう、パトリック卿」と声を掛けた。
パトリックはハッと我に返ったように視線をアナベルに向けて、うなずく。
「では、また今度お会いしましょう」
「あ、ちょっと待って。その準備っていつ終わるんだい?」
「そうですね……一週間以内には終わらせるつもりです」
「わかった。それまで彼女たちはここに居るからね」
「ええ」
ぺこりと頭を下げて、アナベルとパトリックは娼館を後にした。帰る頃にはすっかりと日が暮れていて、アナベルは馬車に乗ると宮殿に帰るまでの間、うとうととうたた寝をした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
171
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる