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4章:寵姫 アナベル

寵姫 アナベル 5-2

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 アナベルはすっとソファから立ち上がって、ヴィルジニーの元へと近付いて、その耳元でこっそりとこう口にした。

「男性のよろこばせ方を教えて欲しいの」
「……はあっ?」

 ぎょっとしたように目を見開くヴィルジニーに、アナベルは頬を赤らめて「切実な願いですのよ?」と唇を尖らせる。まるで少女のような様子に、すっかりとヴィルジニーは警戒心を解いた。

「ちょっとそこの騎士さんや、悪いけれど、部屋から出ていってくれないかい? これから先は、女同士の話だからさ」
「え、しかし……」
「お願いします、パトリック卿」
「……わかりました、扉の前に待機しておりますので、何かあったらすぐに呼んでください」
「ありがとうございます!」

 パトリックは小さく頭を下げてから、部屋から出ていった。
 ヴィルジニーはアナベルを隣に座らせると、「それで、男の悦ばせ方、だっけ?」と首を傾げる。

「わたくしが踊り子だったことはご存知ですか?」
「ああ、踊り子が寵姫ちょうきになったって号外に載っていたからね。それが?」
「わたくし、経験がまるっきりありませんの。どうすれば彼が悦ぶのかわからなくて……」

 初めて夜を過ごしたときは、エルヴィスにリードされて、アナベルはただ彼に身を任せていた。確かに気持ち良かったし、何よりも彼を感じられる行為だと思った。

「……踊り子なのに、経験がない?」

 怪訝そうに眉を寄せられて、アナベルはうなずく。
 そして、今までどのようにやり過ごしていたかを話すと、ヴィルジニーは肩を震わせた。

「み、ミシェルらしい……!」

 ひぃひぃと腹を抱えて笑い出した彼女に、アナベルは眉を下げる。

「彼女の乙女チックな考えをずーっと守っていたわけだ。なるほどねぇ……。うーん、でもねえ、こればかりは、あたしたちに習うよりは、その『彼』に聞いたほうが良いんじゃない?」

 ニヤニヤと笑うヴィルジニーに、アナベルは「なぜ?」と問う。

「あんたは真っ白だから、彼色に染まることが出来るってわけさ」
「……そまる?」

 あまりピンと来ない言い方に、ヴィルジニーは少し呆れたように息を吐いた。

「……そうね、言い方を変えましょう。彼好みになるってこと」
「習わなくても?」
「そう。初めての相手ならなおさらだ。どうしてもうまくいかないってなったら、相談しにおいで。だが、まずはそういうのは彼と相談しないとダメだ」

 真剣な表情で言われて、アナベルは考え込むように顎に指を掛けて「そんなもの……?」と小声で呟く。

「じゃあ、とりあえず、あんたに負けない美人を呼んでみるかね」
「お願いします。そう言えば、ここは王妃サマの手が回っていないようですわね?」
「ああ、王妃殿下はあたしらのことが大嫌いだからね。どんなに美しくても、娼婦は汚らわしいそうだ」
「……酷い人。理由があって娼館で働いている人も多いでしょうに」
「まあね。まあ、危険な仕事の代わりに、良くしてやっておくれよ。あたしの可愛い子ちゃんたちに」
「もちろんですわ」

 ヴィルジニーがそう言って立ち上がる。そして、扉のほうへと歩く。

「あんたはここで待っていて。護衛の騎士と一緒にね」
「ええ、わかりました」

 パトリックが中へ入り、アナベルの近くまで来た。それを見てから、ヴィルジニーはアナベルの要望に当てはまる人物を呼びに行くために、娼婦たちのところへと向かった。
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