85 / 122
4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 5-2
しおりを挟むアナベルはすっとソファから立ち上がって、ヴィルジニーの元へと近付いて、その耳元でこっそりとこう口にした。
「男性の悦ばせ方を教えて欲しいの」
「……はあっ?」
ぎょっとしたように目を見開くヴィルジニーに、アナベルは頬を赤らめて「切実な願いですのよ?」と唇を尖らせる。まるで少女のような様子に、すっかりとヴィルジニーは警戒心を解いた。
「ちょっとそこの騎士さんや、悪いけれど、部屋から出ていってくれないかい? これから先は、女同士の話だからさ」
「え、しかし……」
「お願いします、パトリック卿」
「……わかりました、扉の前に待機しておりますので、何かあったらすぐに呼んでください」
「ありがとうございます!」
パトリックは小さく頭を下げてから、部屋から出ていった。
ヴィルジニーはアナベルを隣に座らせると、「それで、男の悦ばせ方、だっけ?」と首を傾げる。
「わたくしが踊り子だったことはご存知ですか?」
「ああ、踊り子が寵姫になったって号外に載っていたからね。それが?」
「わたくし、経験がまるっきりありませんの。どうすれば彼が悦ぶのかわからなくて……」
初めて夜を過ごしたときは、エルヴィスにリードされて、アナベルはただ彼に身を任せていた。確かに気持ち良かったし、何よりも彼を感じられる行為だと思った。
「……踊り子なのに、経験がない?」
怪訝そうに眉を寄せられて、アナベルはうなずく。
そして、今までどのようにやり過ごしていたかを話すと、ヴィルジニーは肩を震わせた。
「み、ミシェルらしい……!」
ひぃひぃと腹を抱えて笑い出した彼女に、アナベルは眉を下げる。
「彼女の乙女チックな考えをずーっと守っていたわけだ。なるほどねぇ……。うーん、でもねえ、こればかりは、あたしたちに習うよりは、その『彼』に聞いたほうが良いんじゃない?」
ニヤニヤと笑うヴィルジニーに、アナベルは「なぜ?」と問う。
「あんたは真っ白だから、彼色に染まることが出来るってわけさ」
「……そまる?」
あまりピンと来ない言い方に、ヴィルジニーは少し呆れたように息を吐いた。
「……そうね、言い方を変えましょう。彼好みになるってこと」
「習わなくても?」
「そう。初めての相手ならなおさらだ。どうしてもうまくいかないってなったら、相談しにおいで。だが、まずはそういうのは彼と相談しないとダメだ」
真剣な表情で言われて、アナベルは考え込むように顎に指を掛けて「そんなもの……?」と小声で呟く。
「じゃあ、とりあえず、あんたに負けない美人を呼んでみるかね」
「お願いします。そう言えば、ここは王妃サマの手が回っていないようですわね?」
「ああ、王妃殿下はあたしらのことが大嫌いだからね。どんなに美しくても、娼婦は汚らわしいそうだ」
「……酷い人。理由があって娼館で働いている人も多いでしょうに」
「まあね。まあ、危険な仕事の代わりに、良くしてやっておくれよ。あたしの可愛い子ちゃんたちに」
「もちろんですわ」
ヴィルジニーがそう言って立ち上がる。そして、扉のほうへと歩く。
「あんたはここで待っていて。護衛の騎士と一緒にね」
「ええ、わかりました」
パトリックが中へ入り、アナベルの近くまで来た。それを見てから、ヴィルジニーはアナベルの要望に当てはまる人物を呼びに行くために、娼婦たちのところへと向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
171
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる