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4章:寵姫 アナベル
寵姫 アナベル 5-1
しおりを挟む「――わたくし、いろいろ知りたいの。特に、王妃サマのことを」
頬に手を添えて、流し目で女性を見る。彼女は「へえ?」と不敵に笑った。
「王妃殿下のことを探ろうっていうのかい。怖いもの知らずな嬢ちゃんだね」
「うふふ。あなただって知りたいと思いませんか? 王妃サマがどんな生活をしているのか――……、どんな、怖いことをしているのか。ねえ、エルミーヌ、さん?」
彼女の名前を告げると、彼女は息を飲んだ。その名を知っているものは限られているからだ。
「……あんた、ミシェルの関係者かい?」
アナベルはただ目元を細めて微笑んだ。それが、答えだった。
「……そう、ミシェル……逝ってしまったのね……」
「ミシェルさん、エルミーヌさんのことを気にしていました。お別れもろくに言えずに王都を飛び出したから、って。……そしていつも、あなたのことを話すときは声が優しかった……」
懐かしむようにアナベルは目を伏せる。もしも王都に行くことがあれば、彼女が元気で暮らしているかを確かめて欲しい、と幼い頃に話していたのを思い出す。
『黄金のりんごは秘密がある』
――それは、ミシェルとエルミーヌがふたりで決めた合言葉。
今では、この娼館の裏の合言葉になっている。
表向きは普通の娼館だが、彼女たちの裏の顔は『何でも屋』だ。
「……そう。つまり、あんたはミシェルから聞いてここに来たってわけね」
「はい。わたくしには護衛が必要です。あの宮殿の中で生き抜くための護衛が。そして、目立たなくてはいけないのです。王妃サマの目を、こちらに向けるために」
紹介の儀でそれは成功したと言える。だが、それだけでは足りない。
「……わたくし、王妃サマと一戦交えるつもりですのよ」
うふふ、と彼女は楽しそうに笑う。そして、挑発するように彼女を見た。――あなたは何もやりませんの? と言外に語る。
「……まさか、王妃殿下に逆らおうとする女性が出て来るとはねぇ……。噂の寵姫は大した肝っ玉だ」
「褒め言葉として受け取りますわね」
にこにこと笑うアナベルと、呆れたような表情を浮かべるエルミーヌ。
「……あたしのことは、ヴィルジニーと呼んでくれ。エルミーヌはとうの昔に捨てた名だ」
「わかりましたわ、ヴィルジニー。それで、承諾いただけますか?」
「金額にもよるね、危険すぎるだろう」
ちらり、とパトリックに視線を向ける。彼はハッとしたように懐から金貨を取り出した。小袋に入っているが、かなりの量が入っていることがわかる。
「……これで、ひとりだけ雇おうって?」
「何人くらい雇えますか?」
「最低三人って感じの金貨の量だよ、まったく……」
パトリックから渡された金貨の小袋を開けて、中に入っているものを確かめると肩をすくめた。
「それと、もうひとつ……お願いがあるのだけれど」
「お願い?」
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