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2話
「ま、待ってくれローラ! 君と離婚するつもりはない!」
「私はあります。この家から出ていきますわ」
泣きそうな表情を浮かべながら私へ縋りつこうとするマハロに、私は冷たい表情と声できっぱりと言い放つ。政略結婚とは言え、頑張って彼を愛そうとした私がバカだった。そもそもこの政略結婚はマハロが申し込んできたものだ。
妻を愛そうと努力することもなく、ただただ不快にさせるだけの夫なんて、居ないほうがマシ。実家に戻るつもりはないから、屋敷を飛び出ようか考えたけれど、それだと離婚に不利になりそうだし……。
「では、ごきげんよう」
「ローラ!」
手を伸ばしてくるマハロ。その手をパシンと振り払って私は寝室へと向かう。寝室まで向かい、纏めていた荷物を取り出して別の部屋に向かった。ここではマハロが既成事実を作ろうとするかもしれないし。私が向かったのは、実家からついて来てくれた侍女の部屋。マハロは彼女の部屋を知らないし(屋敷の仕事はすべて私がしていた)、丁度いいわ。
深夜だと言うのに、彼女の部屋には灯りがついていた。
控えめなノックを立てると、すぐに扉が開いた。そして、私が荷物を持っていることに気付くと、急いで私を部屋に入れて鍵を掛ける。
侍女の名はナタリー。実家に居る時から私のことを気に掛けてくれた、姉のような存在。
「奥様……」
「私、マハロと離婚するわ」
「えっ、ついに決心なさったのですか!」
ぱぁっとナタリーの表情が明るくなる。私はゆっくりと首を縦に振った。ナタリーは私をベッドに座らせると、床に自分が座り私の手を取る。私を見上げるナタリーの目には涙が浮かんでいた。
「旦那様は奥様……いえ、ローラ様を蔑ろにし過ぎです! よく決心してくださいました!」
心底怒っているのがわかる。私のためにこんなに怒ってくれるのは、きっと彼女だけね。私はナタリーの心がとっても嬉しかった。
「ねぇ、ナタリー……、私、実家に戻るのも嫌なの」
「では、ローラ様の気に入る場所を見つける旅に出ましょう。ローラ様はずっと自分を殺して生きていたのですから、自分らしく生きる場所を見つけましょう」
「……一緒に探してくれる?」
「もちろんですわ、私の命はローラ様のものですから」
にこりと微笑むナタリーに、私はこくりとうなずいた。
ナタリーは私が選んだ侍女だ。小さい頃に、『ナタリーじゃないとイヤなの!』とワガママを言ったら、そのまま侍女になってくれた。その頃のナタリーはメイドの中であまり良くない扱いを受けていたみたいで、私たちはある意味運命共同体だ。
伯爵家に生まれた私は、出来の良い兄や姉から疎まれていた。出来が悪いから。兄たちはとても頭が良く、一を聞いて十を知るような人たちだった。私は……そんな伯爵家で育った私は、家族から罵られることが多く、……いや、恐らくはストレスの捌け口になっていたのだ。
「誰も私を知らない場所で、ひっそりと生きていきたい……っ」
目から大粒の涙が零れ落ちる。……ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が落ちていく。ナタリーは私の手を離して、代わりに隣に座るとそっと私を抱きしめてくれた。
マハロから政略結婚を申し込まれた時、私は実家から出られると思い嬉しかった。これからは家族のストレスの捌け口にされなくなると……。そう思っていた。
……確かにストレスの捌け口にはされなくなった。たまに来る愚痴の手紙くらいなら、何とか心は平穏を保てた。……だけど、まさかこの屋敷に来てからこんな扱いを受けるとは思わなかった……。蔑ろにされていた私の人生……、私はもう、誰からもそんな扱いを受けたくない。
涙を流しながらそう訴える私に、ナタリーはただ黙って私を抱きしめ、背中を優しく擦ってくれた。
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