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5話
しおりを挟む「……離婚するには、まず奥様が『白い結婚』だったと言うことを証明しなくてはいけませんね。何か証拠になるものはございますか?」
ルシアにそう尋ねられて、私は「そうね……」と考えた。
「日記はダメかしら? ……ほぼ毎日『ポーラに会いに行った。夜は一人で寝た』って内容なのだけど……」
「私たちも証人になれると思います。旦那様はいつも、使用人たちに『ポーラの具合が悪くなったから』と伝えてこの屋敷から出ていきますもの」
……そして、全員がハッとしたような顔をした。私が首を傾げると、ハーマンがゆっくりと息を吐いて、使用人たちを見渡した。
「……念のため聞いておくが、『ポーラ様』を見たことのある者は居るか……?」
しん、と部屋の中が静まり返った。……どういうこと? これだけの人が居て、ポーラを知らない……?
すっとルシアが手を上げた。でも、その表情は険しかった。
「五年前に一度だけ。ですが、その時はお元気そうでした」
「……? ポーラは生まれつき病弱ではなかったの?」
マハロは結婚した後すぐに、生まれつき病弱な妹のような幼馴染がいると私に話した。初夜を迎えなかったのはそんな彼女の具合が悪くなり、マハロを呼んだから……。
「旦那様がそうおっしゃったのですか?」
「え、ええ……。結婚式に来なかったのは、大事を取るためだって……」
重々しい空気が、私たちを包み込んだ。
「……私、マハロに聞いてみるわ。そして、ポーラに会ってみる」
「奥様……?」
「だって一度も会ったことがないのよ。三年間、この屋敷で暮らしてきて一度も。一度くらい会ってみても良いと思わない?」
ポーラがどれくらい病弱なのか、そして、本当にマハロと『そういう関係』ではなかったのか、気になるところだわ。もしもこれで関係があったとしたら、マハロにとっては痛い打撃になるでしょうし。
「……とりあえず、全員仕事に戻りましょう。私も仕事をするから、執務室に向かうわ。そして、マハロが帰って来たら教えてちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
それぞれの使用人が持ち場に戻っていくのを見送って、私はナタリーに顔を向けた。ナタリーはにこりと微笑みを浮かべる。
「……ずっと傍に居てくれる?」
「もちろんです、ローラ様。万が一、マハロ様が襲い掛かって来たら、私が退治致します」
「ふふ、心強いわ」
私の不安を払拭するように、どんと自分の胸を叩いてみせるナタリーに、思わず笑みがこぼれた。
それにしても、こんなに退職希望者が居たなんて……。みんな良く働いてくれていたから、辞めたいと思っていたことに気付かなかった。上に立つ者としては失格よね……。と、考えていたら、ルシアが戻って来た。
そして、そっと私に向かい、「退職希望者のことですが……」と言葉を紡ぐ。
「奥様がいらっしゃらなかったら、私たちは既にこの屋敷から出て行っていたと思います。私たちの仕事を見て、良いことは良いと、悪いところはなおすようにと奥様が声を掛けて下さらなかったら、きっとこの屋敷はボロボロになっていたでしょう。最後まで、お仕えできる方に出会えたこと、それを我ら使用人一同、幸福に思っておりますわ」
「ルシア……、ありがとう。あなたからそう言われると、なんだかくすぐったいわね」
三年間、私を支えてくれた屋敷の人たち。マハロがポーラの元へばかり行く時も、みんな気に掛けていてくれた。……そんな優しい人たち。
マハロはもっと、近くの人たちを見るべきだわ。自分を支えてくれる人たちの存在を、その目でしかと見るべきよ。
そんなことを思いながら、私はナタリーと共に執務室へと向かった。最後まで、責務は果たさないとね。
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