結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花

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7話

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 馬車に乗って一時間半くらい。どうやら目的地についたようだ。御者にはポーラの家から少し離れたところで止まってもらった。
 お見舞い、と言うことで多少贈り物の準備もしてきたし、さて、どうなることやら……。深呼吸を繰り返してから、私たちは馬車を降りた。降りる時、わざわざフェリシアンさんが手を貸してくれた。紳士ね。
 果物の入った籠を持って、ポーラの家へと近付いて行くと、なにか騒がしい。どうしたのだろうと慌てて駆け寄ると、女性が暴れていた。――この人が、ポーラ?
 暴れるだけの元気はあると言うことなの……? 彼女の手首から血が流れているのを見て、私は「ひっ」と声を漏らした。その声が聞こえたのだろうか、彼女は私たちに気付くと虚ろな瞳を向けて、それからふるふると震え始めた。

「ポーラ、またそんな怪我をして……」
「マハロ……」

 いつの間に来ていたのだろうか、マハロがポーラに近付いてその動きを封じるように手を取った。私たちに顔を向けると、にこやかに笑みを浮かべて、

「ほら、ポーラ。わざわざきみの見舞いに来てくれたんだよ」
「……ぁ……」

 と優しく声を掛ける。マハロのその声に、ポーラはびくっと肩を震わせて、それからなにかに怯えるように言葉をのみ込んだ。

「体調が悪くなるとあんな風に暴れてしまうんだ」
「そ、そうなの……」

 暴れている……? 自分を傷つけながら……?
 マハロとポーラに視線を向けると、マハロは笑顔でポーラの手首の様子を見ている。笑顔なのが逆に怖い。それからポーラの耳元でなにかを囁くと、ポーラはぎゅっと目を閉じて、それから私たちに対して、恐る恐ると言うように頭を下げた。

「ポーラ、ベッドに横になる?」
「い、いいえ……。喉が渇いたわ。お茶が飲みたい。マハロの淹れたお茶が良い」
「お茶……茶葉はある?」

 ふるふると首を横に振るポーラ。マハロは仕方ないな、とばかり眉を下げて、「茶葉を買って来るよ」とポーラの家から出て行ってしまった。マハロが居なくなったのを見計らったように、私に近付いた。
 す、とナタリーが私の前に立つ。ポーラは弱々しく、ナタリーに縋るように手を伸ばして来た。

「……おねがい、助けて……っ」
「え?」
「わたし、わたし……『ポーラ』じゃない……っ!」

 大粒の涙を流しながらそう言うポーラに、私たちは顔を見合わせた。……マハロは確かに彼女のことを『ポーラ』と呼んでいた。けれども、彼女はそれを否定している……どういうことなの……?

「村へ帰してっ、お父さんとお母さんに会いたい……会いたいよ……っ」

 嗚咽を繰り返しながらそう言う彼女に、私は困惑した。彼女がポーラじゃなかったら、この人は一体……なぜ、ポーラと呼ばれているのか……。

「もういや、こんな生活……っ、ここから出ることも許されず、『ポーラ』として生きていくなんていや……っ」

 ……演技をしているようには見えない。私はナタリーの隣に立ち、そっと彼女の肩に触れた。

「あなたは一体……『誰』?」

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