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9話
私たちがマハロへと視線を向けていると、当のマハロはおかしげに口元を歪めていた。そして私たちを見つめて、眉を下げて微笑む。
「なにをバカなことを言っているんだ。この栗色の髪も、鳶色の瞳も、『ポーラ』そっくりじゃないか」
すっと『ポーラ』と呼ばれる彼女に、手を近付けて、髪をひと房手に取ると愛しそうに口付け、私たちに見せるように目を大きく見開かせた。彼女はガタガタと震えている。隠れていた首元に、ハッキリとした手の痕を見つけて、私は思わず立ち上がり、彼女を庇うように抱きしめた。
「――マハロ、これはどういうことなの?」
しゅるりと、『ポーラ』の首元に巻かれているスカーフを解く。ハッキリと指の痕が残っていた。それを見たエヴァン司祭が「惨いことを……」と呟く。マハロはそれを不思議そうに見ていた。
「どうしたもこうしたもないだろう? 苦しそうだったから、楽になってもらいたくて気を失わせただけさ」
――この人は、誰?
当たり前のようにそう言うマハロに、私は悪寒が走った。ぎゅっと縋るように私に抱き着く彼女に、私はマハロに対して厳しい視線を向ける。
「あなたの幼馴染は身体が弱くて、いつもあなたを呼んでいたのよね……?」
「そうだよ、ローラ。ポーラは身体が弱いんだ」
「そんな彼女の首を……、どうして。死ねと言っているようなものじゃない!」
私がそう叫ぶと、私を落ち着かせようとしたのか、ナタリーがそっと肩に手を置いた。
「……ローラ様、無駄ですわ……」
「……ナタリー?」
「……彼は、精神異常者なのでしょう」
ナタリーの言葉を聞いたマハロは、目を瞬かせて、それから「面白いことをいうなぁ」と笑った。その表情は……笑っているはずなのに目が笑っていなくて、恐ろしかった。
「悪魔に憑かれたわけでもなく、ただただ五年前に行方不明になった幼馴染を、領民で代用しようとしたのでしょう」
フェリシアンさんが苦々しそうに表情を歪めた。私たちを庇うように前に出て、自分の後ろに居るように声を掛けると、剣を抜いてマハロに向けた。
ナタリーは、私の肩から手を離して一歩前へ出る。
「お聞かせください、『ポーラ』様。あなたは一体、『誰』なのですか?」
「面白いことを聞くなぁ。ポーラはポーラだろう?」
「あなたには聞いていません、マハロ様。――いえ、マハロ」
ナタリーの声が一層低くなった。怒っている。……私はそっと、『ポーラ』を抱きしめた。大丈夫よ、と伝えるために。
「わた、わたしは……マーシー、マーシーよ! 『ポーラ』様じゃない……っ!」
彼女の叫ぶような言葉に、エヴァン司祭が立ち上がる。そして、マーシーに近付いて、安心させるように微笑んだ。
「あなたのご家族から、依頼を受けています。三ヶ月前に行方不明になった娘を見つけて欲しいと……」
「あぁ、ポーラ、どうして……また置いて行ってしまうのかい……?」
マハロが悲痛そうな声を出した。それがまた、恐怖を煽る。……三ヶ月前に行方不明になったのが彼女なら、私が結婚して三年間……彼は……。
「外道にもほどがある……!」
ナタリーが怒りに震えた声を出した。……五年前に居なくなったポーラ。ポーラを求めて、マハロはこんなことをしていたの……? ポーラに似ている女性を、こんな場所に閉じ込めて……、一体、なにをしていたの……?
「きみもポーラになり損なったのなら……、新しいポーラを見つけなくてはね……」
その言葉を聞いて、私は震えた。――狂っている、この人は……マハロは狂っている……!
一体いつから、この人はこんなに狂っていたの――!?
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