君を守るために、演じ切ってみせよう。

秋月一花

文字の大きさ
1 / 6

1話

しおりを挟む

 とある城で行われた、とあるパーティー。貴族たちが優雅に微笑んで世間話に花を咲かせているその会場で、王太子であるリンジーは自身の婚約者であるシャーロットではなく、男爵令嬢のローズマリーをエスコートして入場した。
 ざわつく会場に冷たい視線を送り、遅れて入って来たシャーロットはリンジーの隣に居るローズマリーに気付くと傷ついたような表情を一瞬浮かべた。

「リンジー殿下、なぜ婚約者であるわたくしではなく、そちらの令嬢をエスコートしたのですか……?」
「それは君が一番良くわかっていることではないか?」

 ローズマリーは勝ち誇ったような表情を浮かべる。それを見て、シャーロットはぎゅっと拳を握った。確かに彼女のことは知っていた。アカデミーでは成績優秀で生徒会にも所属しており、将来を約束された才女であると噂されるほど、彼女は賢く美しい。そしてそれはすべて、彼女が自分で勝ち取ったものだとリンジーも、シャーロットも知っている。

「――シャーロット、君との婚約破棄を宣言する!」
「なぜですか、リンジー殿下!」

 目を大きく見開き、今にも泣きそうなほどの涙を浮かべながら声を荒げるシャーロットに、リンジーは目を伏せてローズマリーの肩を抱いた。それからゆっくりと呼吸をして、シャーロットへと視線を向ける。いや、睨んでいると言っても過言ではない。

「君は南の大陸に行くことになった。今すぐに、この国から出ていきたまえ」

 リンジーの冷たい声が会場内に響き渡る。シャーロットは肩を震わせて耐えきれないとばかりに会場を後にした。シャーロットが会場に到着してから、十分も経っていない。会場から姿を消すシャーロットの姿を、リンジーはただ見つめていた。

「――さて、頭の固い公爵令嬢は会場を後にした! 今宵は時間を忘れて楽しもうではないか!」

 シャーロットが完全に姿を消したのを確認してからリンジーはそう叫んだ。会場内はシャーロットのことなど気にせずに、むしろ一種のパフォーマンスを見たかのように盛り上がった。それを冷めた目で見つつも、リンジーはパーティー会場に最後まで居た。
 パーティーが終わり、別室に居るローズマリーの元へ向かう。扉をノックすると、ローズマリーが「はい」と返事をした。

「失礼するよ、ローズマリー」
「どうぞ、リンジー殿下」

 部屋の中に入るとローズマリーがリンジーを見上げた。そして、痛ましそうに表情を歪ませると、こう尋ねて来た。

「本当に宜しいのですか、殿下」
「ああ。……君も、すぐにこの国から逃げるべきだ。――ご苦労だった、ローズマリー」

 金貨の入った袋を手渡す。ローズマリーは金貨を受け取って、それから頭を下げた。

「殿下のお心遣いに感謝いたします。これだけの金貨があれば、家族ともども逃亡することが出来ます」

 領地を持っていない男爵家だったため、家族と使用人がどこか遠くへ逃げられ、逃げた先で暮らしの基盤を整えられるくらいの金貨をローズマリーに渡したのだ。
 リンジーはふっと微笑みを浮かべて、こくりとうなずいた。
 ――どうか、シャーロットが南の国につくまでは、何も起きませんように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

異世界追放《完結》

アーエル
ファンタジー
召喚された少女は世界の役に立つ。 この世界に残すことで自分たちの役に立つ。 だったら元の世界に戻れないようにすればいい。 神が邪魔をしようと本人が望まなかろうと。 操ってしまえば良い。 ……そんな世界がありました。 他社でも公開

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

婚約破棄された翌日に、薔薇の花束と共にプロポーズされた令嬢の話

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をされた翌日。  その令嬢の視界は、情熱的な赤で埋め尽くされていた。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...