恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

文字の大きさ
118 / 153
2章

118話

 コーディになにがあったのかを話していると、宿屋の主人が別の部屋の用意が出来たと顔を出した。わたしはありがたく荷物をまとめて部屋を移った。騒動に気付いたユーニスが、心配そうに顔を出してくれた。
 わたしは安心させるようにひらひらと手を振って笑みを浮かべてみせる。
 部屋へ移り、ベッドに座る。……故意に命を狙われるのは初めてのことだ。一体誰がどんな目的でわたしを狙ったのか……。

「……うう、今頃怖くなってきた」

 わたしを殺そうとした人は、依頼だといっていた。誰が依頼主なのか話してくれるかな……。さっきのことを思い出して身体が震え始めた。自分を抱きしめるようにぎゅっと二の腕を掴む。
 カタカタと震えていると、扉がノックされた。

「……誰……?」
「アクア、俺だ」

 バーナードの声だった。わたしが「どうぞ」と声を掛けると、扉が開いた。バーナードはトレイにカップを乗せてこちらまで来た。カップの中身は温かいのだろう、湯気が見えた。

「ほら、ホットミルク」
「……ありがとう」

 差し出されたカップを受け取って、ちらりとバーナードを見る。

「……わざわざ作ってくれたの?」
「ああ。あんなことが起きた後だからな。眠れないだろうと思って」

 ……なんでこんなにわたしのことに気付くかなぁ……。あ、護衛だから? そんなことを考えながら、震える手をなんとか動かしつつホットミルクを口に運んだ。

「……あまい……」
「特別にはちみつ入りだ」
「特別なの?」
「寝る前だろ。……それに、怖いことがあった時は、心を落ち着かせられる甘いものが一番だ、とフィロメナが言っていた」
「……なるほどね……」

 兄としての経験談かな。ちびちびとホットミルクを飲んでいると、バーナードがとてもどうでもいい世間話をしてくれた。その話を聞いているうちに、段々と瞼が下がる。ホットミルクを飲み終わり、バーナードが手を差し出したからカップを渡す。わたしをベッドに寝かせて、ふわりと毛布を掛けて、優しく頭を撫でて「おやすみ」と口にした。
 わたしも「おやすみ」といいたかったけれど、口に出来たかはわからない。

☆☆☆

 翌朝、日の出と共に起き出したわたしは、気合を入れるために両頬パチンと叩いた。
 ――よし、大丈夫。いつも通りに振る舞える!
 身支度を整えて扉を開けると、わたしの部屋の近くで待機していたディーンとバーナードの姿があった。

「え……」

 思わずびっくりしてそんな声が出た。

「おはよう、眠れた?」
「おはよう……なんとかね。……ところで、ふたりはどうしてここに?」
「念のため」
「そう……」

 どうやらずっとここで見張りをしてくれていたみたいだ。

「寝なくて大丈夫なの?」
「平気だよ」

 そんな話をしていると、バタバタと駆け足で近付いて来る人の姿が見えた。

「た、大変です! 昨日の襲撃者たちが全員――死にました!」

 ――コーディが、そんなことを報告してきた。

「……どういうことだ?」
「昨日、武器は取り上げたし薬も持っていなかったのに……?」
「さらに言えば縄でグルグル巻きにしているので、身動きひとつ出来ないハズだったのですが……」

 襲撃者たちが死んだという話を耳にして、自分の耳を疑った。それはディーンたちも同じのようで、急いでその人たちの元へと向かった。もちろん、わたしも一緒に。
 コーディの案内で罪人を閉じ込める部屋へと辿りついた。暗くて鬱蒼としている場所。その場所に閉じ込めていたらしい。気絶していたから、運び込んだだけらしい。わたしはきょろきょろと辺りを見渡して、神の鎖で縛りつけた人を見つけた。鎖が黒く変色している。……これを使う時、いつも鎖の色は白銀だった。

「……呪術だわ……」
「呪術?」
「恐らく、わたしを殺しても、殺さなくても、口封じのために殺されていたのよ……」

 わたしはそっと目を閉じて両手を胸元で組んだ。

「――神よ、この者たちを導き給え――……」

 ふわり、と白い球体が天へと昇っていく姿が浮かんだ。……呪術で殺されたということは、捨て駒にされたということだ。

「アクア、呪術って?」
「人に呪いを掛けるの。呪われた人が死んだとき、神の鎖は変色するのよ」

 このように、と黒くなった鎖を見せる。ディーンとバーナードはなにもいわずにただその鎖を見つめていた。

「さっきのは祈りか?」
「呪術で殺されると魂が死んだ場所で縛り付けられるからね。その鎖を神にお願いして外してもらったの。縛り付けられた魂はやがてゴースト系の魔物になるって聞いていたし……」
「誰から?」
「神官長」
「……ゴースト系の魔物は、人間の魂だったのか……」

 納得したような、していないようなバーナードの声。ディーンもコーディも考え込んでしまっているようだ。

「ゴースト系の魔物は、人間だけじゃないわ。他の動物や魔物だって、呪術で殺されたら魂の行く場所を奪われちゃうからね……」

 ゴースト系を倒す時には聖なる力を持つ武器じゃないといけないし……。そこで、あれ? と思った。

「……もしかして、知らなかったの?」
「ゴースト系を倒す時は特別な武器じゃないといけない、とは知っていたけれど……」
「どうしてゴースト系の魔物になるかは……知らなかったな」

 ……そうか、倒すのが仕事だったから、そういうことは知らなかったのか……。なるほどね……。

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

婚約破棄の日の夜に

夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。 ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。 そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。