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2章
118話
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コーディになにがあったのかを話していると、宿屋の主人が別の部屋の用意が出来たと顔を出した。わたしはありがたく荷物をまとめて部屋を移った。騒動に気付いたユーニスが、心配そうに顔を出してくれた。
わたしは安心させるようにひらひらと手を振って笑みを浮かべてみせる。
部屋へ移り、ベッドに座る。……故意に命を狙われるのは初めてのことだ。一体誰がどんな目的でわたしを狙ったのか……。
「……うう、今頃怖くなってきた」
わたしを殺そうとした人は、依頼だといっていた。誰が依頼主なのか話してくれるかな……。さっきのことを思い出して身体が震え始めた。自分を抱きしめるようにぎゅっと二の腕を掴む。
カタカタと震えていると、扉がノックされた。
「……誰……?」
「アクア、俺だ」
バーナードの声だった。わたしが「どうぞ」と声を掛けると、扉が開いた。バーナードはトレイにカップを乗せてこちらまで来た。カップの中身は温かいのだろう、湯気が見えた。
「ほら、ホットミルク」
「……ありがとう」
差し出されたカップを受け取って、ちらりとバーナードを見る。
「……わざわざ作ってくれたの?」
「ああ。あんなことが起きた後だからな。眠れないだろうと思って」
……なんでこんなにわたしのことに気付くかなぁ……。あ、護衛だから? そんなことを考えながら、震える手をなんとか動かしつつホットミルクを口に運んだ。
「……あまい……」
「特別にはちみつ入りだ」
「特別なの?」
「寝る前だろ。……それに、怖いことがあった時は、心を落ち着かせられる甘いものが一番だ、とフィロメナが言っていた」
「……なるほどね……」
兄としての経験談かな。ちびちびとホットミルクを飲んでいると、バーナードがとてもどうでもいい世間話をしてくれた。その話を聞いているうちに、段々と瞼が下がる。ホットミルクを飲み終わり、バーナードが手を差し出したからカップを渡す。わたしをベッドに寝かせて、ふわりと毛布を掛けて、優しく頭を撫でて「おやすみ」と口にした。
わたしも「おやすみ」といいたかったけれど、口に出来たかはわからない。
☆☆☆
翌朝、日の出と共に起き出したわたしは、気合を入れるために両頬パチンと叩いた。
――よし、大丈夫。いつも通りに振る舞える!
身支度を整えて扉を開けると、わたしの部屋の近くで待機していたディーンとバーナードの姿があった。
「え……」
思わずびっくりしてそんな声が出た。
「おはよう、眠れた?」
「おはよう……なんとかね。……ところで、ふたりはどうしてここに?」
「念のため」
「そう……」
どうやらずっとここで見張りをしてくれていたみたいだ。
「寝なくて大丈夫なの?」
「平気だよ」
そんな話をしていると、バタバタと駆け足で近付いて来る人の姿が見えた。
「た、大変です! 昨日の襲撃者たちが全員――死にました!」
――コーディが、そんなことを報告してきた。
「……どういうことだ?」
「昨日、武器は取り上げたし薬も持っていなかったのに……?」
「さらに言えば縄でグルグル巻きにしているので、身動きひとつ出来ないハズだったのですが……」
襲撃者たちが死んだという話を耳にして、自分の耳を疑った。それはディーンたちも同じのようで、急いでその人たちの元へと向かった。もちろん、わたしも一緒に。
コーディの案内で罪人を閉じ込める部屋へと辿りついた。暗くて鬱蒼としている場所。その場所に閉じ込めていたらしい。気絶していたから、運び込んだだけらしい。わたしはきょろきょろと辺りを見渡して、神の鎖で縛りつけた人を見つけた。鎖が黒く変色している。……これを使う時、いつも鎖の色は白銀だった。
「……呪術だわ……」
「呪術?」
「恐らく、わたしを殺しても、殺さなくても、口封じのために殺されていたのよ……」
わたしはそっと目を閉じて両手を胸元で組んだ。
「――神よ、この者たちを導き給え――……」
ふわり、と白い球体が天へと昇っていく姿が浮かんだ。……呪術で殺されたということは、捨て駒にされたということだ。
「アクア、呪術って?」
「人に呪いを掛けるの。呪われた人が死んだとき、神の鎖は変色するのよ」
このように、と黒くなった鎖を見せる。ディーンとバーナードはなにもいわずにただその鎖を見つめていた。
「さっきのは祈りか?」
「呪術で殺されると魂が死んだ場所で縛り付けられるからね。その鎖を神にお願いして外してもらったの。縛り付けられた魂はやがてゴースト系の魔物になるって聞いていたし……」
「誰から?」
「神官長」
「……ゴースト系の魔物は、人間の魂だったのか……」
納得したような、していないようなバーナードの声。ディーンもコーディも考え込んでしまっているようだ。
「ゴースト系の魔物は、人間だけじゃないわ。他の動物や魔物だって、呪術で殺されたら魂の行く場所を奪われちゃうからね……」
ゴースト系を倒す時には聖なる力を持つ武器じゃないといけないし……。そこで、あれ? と思った。
「……もしかして、知らなかったの?」
「ゴースト系を倒す時は特別な武器じゃないといけない、とは知っていたけれど……」
「どうしてゴースト系の魔物になるかは……知らなかったな」
……そうか、倒すのが仕事だったから、そういうことは知らなかったのか……。なるほどね……。
わたしは安心させるようにひらひらと手を振って笑みを浮かべてみせる。
部屋へ移り、ベッドに座る。……故意に命を狙われるのは初めてのことだ。一体誰がどんな目的でわたしを狙ったのか……。
「……うう、今頃怖くなってきた」
わたしを殺そうとした人は、依頼だといっていた。誰が依頼主なのか話してくれるかな……。さっきのことを思い出して身体が震え始めた。自分を抱きしめるようにぎゅっと二の腕を掴む。
カタカタと震えていると、扉がノックされた。
「……誰……?」
「アクア、俺だ」
バーナードの声だった。わたしが「どうぞ」と声を掛けると、扉が開いた。バーナードはトレイにカップを乗せてこちらまで来た。カップの中身は温かいのだろう、湯気が見えた。
「ほら、ホットミルク」
「……ありがとう」
差し出されたカップを受け取って、ちらりとバーナードを見る。
「……わざわざ作ってくれたの?」
「ああ。あんなことが起きた後だからな。眠れないだろうと思って」
……なんでこんなにわたしのことに気付くかなぁ……。あ、護衛だから? そんなことを考えながら、震える手をなんとか動かしつつホットミルクを口に運んだ。
「……あまい……」
「特別にはちみつ入りだ」
「特別なの?」
「寝る前だろ。……それに、怖いことがあった時は、心を落ち着かせられる甘いものが一番だ、とフィロメナが言っていた」
「……なるほどね……」
兄としての経験談かな。ちびちびとホットミルクを飲んでいると、バーナードがとてもどうでもいい世間話をしてくれた。その話を聞いているうちに、段々と瞼が下がる。ホットミルクを飲み終わり、バーナードが手を差し出したからカップを渡す。わたしをベッドに寝かせて、ふわりと毛布を掛けて、優しく頭を撫でて「おやすみ」と口にした。
わたしも「おやすみ」といいたかったけれど、口に出来たかはわからない。
☆☆☆
翌朝、日の出と共に起き出したわたしは、気合を入れるために両頬パチンと叩いた。
――よし、大丈夫。いつも通りに振る舞える!
身支度を整えて扉を開けると、わたしの部屋の近くで待機していたディーンとバーナードの姿があった。
「え……」
思わずびっくりしてそんな声が出た。
「おはよう、眠れた?」
「おはよう……なんとかね。……ところで、ふたりはどうしてここに?」
「念のため」
「そう……」
どうやらずっとここで見張りをしてくれていたみたいだ。
「寝なくて大丈夫なの?」
「平気だよ」
そんな話をしていると、バタバタと駆け足で近付いて来る人の姿が見えた。
「た、大変です! 昨日の襲撃者たちが全員――死にました!」
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「……どういうことだ?」
「昨日、武器は取り上げたし薬も持っていなかったのに……?」
「さらに言えば縄でグルグル巻きにしているので、身動きひとつ出来ないハズだったのですが……」
襲撃者たちが死んだという話を耳にして、自分の耳を疑った。それはディーンたちも同じのようで、急いでその人たちの元へと向かった。もちろん、わたしも一緒に。
コーディの案内で罪人を閉じ込める部屋へと辿りついた。暗くて鬱蒼としている場所。その場所に閉じ込めていたらしい。気絶していたから、運び込んだだけらしい。わたしはきょろきょろと辺りを見渡して、神の鎖で縛りつけた人を見つけた。鎖が黒く変色している。……これを使う時、いつも鎖の色は白銀だった。
「……呪術だわ……」
「呪術?」
「恐らく、わたしを殺しても、殺さなくても、口封じのために殺されていたのよ……」
わたしはそっと目を閉じて両手を胸元で組んだ。
「――神よ、この者たちを導き給え――……」
ふわり、と白い球体が天へと昇っていく姿が浮かんだ。……呪術で殺されたということは、捨て駒にされたということだ。
「アクア、呪術って?」
「人に呪いを掛けるの。呪われた人が死んだとき、神の鎖は変色するのよ」
このように、と黒くなった鎖を見せる。ディーンとバーナードはなにもいわずにただその鎖を見つめていた。
「さっきのは祈りか?」
「呪術で殺されると魂が死んだ場所で縛り付けられるからね。その鎖を神にお願いして外してもらったの。縛り付けられた魂はやがてゴースト系の魔物になるって聞いていたし……」
「誰から?」
「神官長」
「……ゴースト系の魔物は、人間の魂だったのか……」
納得したような、していないようなバーナードの声。ディーンもコーディも考え込んでしまっているようだ。
「ゴースト系の魔物は、人間だけじゃないわ。他の動物や魔物だって、呪術で殺されたら魂の行く場所を奪われちゃうからね……」
ゴースト系を倒す時には聖なる力を持つ武器じゃないといけないし……。そこで、あれ? と思った。
「……もしかして、知らなかったの?」
「ゴースト系を倒す時は特別な武器じゃないといけない、とは知っていたけれど……」
「どうしてゴースト系の魔物になるかは……知らなかったな」
……そうか、倒すのが仕事だったから、そういうことは知らなかったのか……。なるほどね……。
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