恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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3章

147話


 アルマは昨日からずっと緊張していただろうし、ここで少しでも肩の力を抜いて欲しい。

「ええと、わたし専属の侍女になるって話だけど、具体的にはどうする?」
「具体的、ですか?」

 カップに手を添えたままアルマが目を瞬かせる。こくりとうなずいて、わたし自身、自分のことは自分で出来ると口にした。

「ドレスを着るのはひとりじゃ無理だけど……」

 そして出来ればあまりドレスは着たくない。コルセットもハイヒールもまだ苦手なままだから。ああ、でもわたしの誕生日パーティーが開かれる予定だもんね、着なきゃいけないのか……。思わず息を吐いた。

「アクアさまのスタイルには従いたいと思いますが、専属侍女になるためにお母さまからいろいろなことを仕込まれましたので、楽しみにしていてください」

 カップから手を離して、ドンっと自分の胸元を叩くアルマ。アルマのお母さま、一体どんなことをアルマに仕込んだのかしら……。

「それに、シオンも張り切っております」

 名前を呼ばれたシオンは、テーブルの上で軽く跳ねた。

「そういえば、シオンは喋れないんだ?」
「そのようです。とはいえ、私にはなにを言っているのかわかる気がします」
「へえ……」

 コボルトたちは人語を喋ってくれるからコミュニケーションも出来る。でも、スライムであるシオンはどうやってみんなと関わるのだろう? と思いつつも、こうして見ていると喜怒哀楽はわかりそうだな、とも思った。嬉しそうにぴょんぴょん跳ねたり、アルマに擦り寄っているところを見たから。

「アルマは魔物使いテイマーだからわかるのかな?」
「恐らく……。とはいえ、なんとなく、ですけれど」

 少し眉を下げて微笑むアルマに、「そっか」と言葉を返した。シオンはお茶を飲み始めた。……どこが、口なのだろう……。

「シオン、お茶おいしい?」

 深めの小皿から離れてぴょんと小さく跳ねた。……美味しいってことで良いのかな。そっとアルマがシオンを撫でる。

「美味しい、と」
「そっか、良かった」

 コボルトたちも人間の食べ物や飲み物を口にしているから、シオンも飲めるんじゃないかな~と思ってた。

 予想は当たったみたいで嬉しい。そしてまた小皿に近付くシオン。

「おかわりいっぱいあるから、たくさん飲んでね」

 ぴょんっと高く跳ねた。嬉しいみたい。

「ええと……あ、専属侍女の仕事! とりあえず、基本的な一日を説明しておくね」
「はい!」

 シオンを眺めていて、なんの話をしようとしていたのか一瞬忘れてしまった。だって可愛いのだもの。

 わたしは自分の基本的な過ごし方をアルマに説明した。早朝に起きることや、夜は早く休むことなど。それから、今はユーニスが頻繁(ひんぱん)に来ていて、淑女レッスンを受けていることも伝えた。そして、なぜ頻繁なのかも。専属侍女兼護衛……だから、アルマにも参加してもらうことになるだろう。

「……詳しく教えていただきありがとうございます。外出する際にはぜひともご一緒させてください。それに、男性とでは行きづらい場所もあるのではありませんか?」
「まあね。あんまりにも可愛らしすぎる場所とか、女性が多い場所とかね。ディーンもバーナードも顔が良いから目立つし」

 その間に挟まれているわたしは、たぶん普通の顔。大聖女ステラに似ていると言っても、ステラの肖像画のほうが美人だったし……。

 ああ、自分で考えて少し落ち込んだ。そういえばオーレリアン殿下が連れてきていた聖女(?)はすっごく綺麗な人だったよねぇ……。

 美人で聖女ってかなり絵になるけどね。

 ……そういえば神殿の聖女や聖者もその傾向があるような……。

「あ、そうだ」
「アクアさま?」
「わたしの護衛も兼ねるなら、ディーンたちに相談して、訓練受ける?」

 どんな風に訓練しているかは一度しか見ていないから、なんともいえないけれど、ずっとわたしと一緒にいるよりは身体を動かせるほうがアルマも気が楽かな? と思って提案してみた。

「それは、ディーンさまやバーナードさまと……?」
「コボルトたちもいるよ。ササとセセ。コボルトの戦士なんだ」
「それは……興味がありますね。あら、シオンもそうなの?」

 シオンがぷるぷる震えた。コボルトとスライムってどっちが強いのかなぁ。そもそもスライムが戦っている姿を見たことがない。

「シオンもやる気満々ですわ!」
「それは良かった。ところでアルマの武器ってなに? 新調したほうがいい?」

 どんな武器を持って戦うのだろうと首を傾げると、アルマは首を左右に振った。手に馴染んだもののほうがいいみたい。

「私の武器は鞭ですので……」
「鞭? 扱うの難しそうね……」
「そうでもありませんよ。慣れです、慣れ。父は大剣を使っていましたが、私には相性が悪く……」

 ……武器の相性か……。確かに大切ね。

「それに」

 かたんと椅子から立ち上がってドレスを捲り上げるアルマに、びっくりして目を丸くした。すらりと伸びた足は白く、陶器のようになめらかだ。――そして、なんと言っても太ももに装着している鞭に視線が釘付けになる。

 そんなところに装備していたの!? と思うのと同時に、鞭を使うアルマを想像してわぉ、と心の中でつぶやいた。

「ここに隠していれば、なかなか見つかりませんし」

 悪戯っぽく笑うアルマはとても可愛い。可愛いけれど、発想がなかなか独特だ。確かに令嬢のドレスを捲り上げる人なんていないだろう、たぶん。

「でも、使う時に捲り上げないといけないよね、イヤじゃない?」
「ご心配ありがとうございます。平気ですわ」

 きっぱりといわれた。

「ねえ、アルマ、すごく綺麗な足をしているね」
「え? そ、そうですか?」

 ドレスを戻して照れたように頬を赤らめる姿を見て、こくんと首を縦に動かした。

「うん、すっごく綺麗! ……でも、万が一その足に傷が残ってしまったら……」
「大丈夫ですよ。うちは男爵家ですから」

 どういう意味で大丈夫っていっているのか、判断に迷うわ……。

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