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23話
しおりを挟む「――わたくしは、ディラン殿下の婚約者として様々なことを学びました。そのような機会を頂けたことは感謝しております。……一方的に婚約を破棄されるほどのことをしたとは思っておりません。もう一度お尋ねします。何か理由があって、わたくしに婚約破棄を言い渡したのでしょうか? そしてそれは……そちらの見目麗しい女性と関係があるのでしょうか?」
わたくしはちらりと女性へ視線を向けた。……女性はふいと視線を逸らしてしまったけれど。……ディラン殿下はイライラしているように見える。そんなにイライラしても、この状況は変わらないのだけど。
すると、女性の方から意を決したように声を上げた。
「お許しください、ユニコーンの乙女! ほんの出来心だったのです!」
そう言って涙を浮かべる女性。ハンカチを取り出して目元を零れ落ちる涙を拭う。……演技のように見えるのは、わたくしだけかしら。わたくしは小さく息を吐いた。
「……なぜあなたが答えるのでしょうか。わたくしは、ディラン殿下に尋ねているのです」
女性はその美しい顔を歪ませた。それを見ていたリアンが≪うわ~、ボク、あの人きらーい≫と呟いた。思わず笑ってしまいそうになった。
≪人の姿になって良い?≫
「ちょっと待ってね。ランシリル様、リアンが人の姿になりたいそうです」
「でしたら、こちらを」
すっと差し出されたのはリアン用の服だった。ヒューバートとジェレミーがリアンに白い布を被せる。リアンが人の姿に変わり、ランシリル様の差し出した服へ着替えてから、白い布は取られた。ざわざわと会場がざわめく。アリコーンが人型になったのだから、当然と言えば当然かもしれない。
「はー、やっと言葉が通じる!」
「な、な、な……! 化け物だ! 人間になったぞ!」
「化け物って言うのはー、この国のお偉いさんたちじゃないのー?」
リアンを化け物呼ばわりされて、思わず「失礼なことを言わないで!」と声を荒げようとすると、ぐっとリアンに肩を掴まれた。そして、リアンはにっこりと微笑みながらそんなことを口にする。
「な、何を言って……!」
「ねぇ、ディラン? だっけ? ――何人殺したの? すごーく悪いものが見えるよ」
リアンの言葉に、更に会場がざわめく。
「――ほら、ディランの周りにひとり、ふたり、さんにん、よにん……、みーんなディランの子。生まれる前に死んじゃった子」
すぅっと目元を細めてリアンがディラン殿下の周りを指差した。
「な、何をバカなことを……!」
「みーんな怒ってる。自分のことを大切にしてくれないって。せめてお祈りしてあげたら良かったのにね」
「り、リアン、それは……ディラン殿下に子どもが居たってこと……?」
「うん。ああ、ディランだけじゃないよ。あっちの人は召使を奴隷のように扱っていて、こっちの人は人を拷問して楽しんでる」
すっ、すっと指差していく。……それは、この国の公爵と侯爵だった。……お父様の言っていたことって、こういうことだったのかしら……。
「よかったぁ、イザベラがあんな奴と結婚しなくて!」
無邪気な笑顔でそう言われて、わたくしとランシリル様は顔を見合わせて、肩をすくめた。
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