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BarINC
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バーINCの赤い灯が、最後のグラスを沈黙のうちに照らしていた。
時計の針が深夜二時を告げると、店内の空気が微かに揺れた。
レムは手慣れた仕草でカウンターを拭き、瓶のひとつひとつを静かに棚へと戻していく。
音楽はすでに止まり、ネオンの明滅だけが空間に残響を刻んでいた。
レムはドアに鍵をかけ、雨の街へと姿を消した。
その少し離れたビルの軒下。
黒いコートの影が、音もなく身を縮めていた。
ジャドだ。
雨の音とネオンの脈動に紛れるように、じっと目を凝らしている。
レムが何者かを証明するためには、証拠が要る。
口では語らない男なら、動きを見張るほかない。
レムは傘もささず、濡れることを厭わない様子で歩いていた。
その足取りはゆっくりと、しかし迷いなく。
まるで、雨に濡れるのも彼の演出の一部であるかのようだった。
ジャドは距離を保ちつつ、尾行を続けた。
右手には小型のレコーダー、左手はいつでもホルスターに伸ばせるように緊張している。
この一帯で起こった連続強姦事件。
怪異のような淫魔の存在。
それを掴むために、ジャドは眠気と体温の低下に耐えていた。
路地裏に入ったレムは、ふと立ち止まった。
ジャドも即座に壁に身を寄せ、息を殺す。
濡れたコンクリートの匂いが鼻をつく。
レムは振り返らない。ただ、細い指で濡れた髪を払うだけだ。
(気づいていない……いや、違う。)
ジャドの胸に、直感が灯った。
レムの歩みには、わずかながら「見せている」匂いがある。
わざと、こちらに追わせているのではないか。
その思いが脳裏をかすめた瞬間だった。
風が止んだ。
音が、消えた。
雨は確かに降り続けているはずなのに、ジャドの耳には何も届かなかった。
代わりに、どこか遠くで囁くような声がした。
男とも女ともつかない、甘く湿った響き。
視界が滲む。
ジャドは反射的に身を起こそうとしたが、体が動かない。
脳だけが覚醒し、身体だけが泥の中に沈んでいくような、奇妙な感覚。
「安心して。少しだけ、夢を見るだけです。」
それは、レムの声だった。
けれどバーで聞いた声とはまるで違う。
もっと深く、もっと肌に触れるような声。
気づけば、目の前にレムがいた。
傘も差さず、濡れた髪を額に垂らしたまま、こちらを覗き込んでいる。
紫の瞳が夜の闇を吸い込み、光のない星のように輝いていた。
「夜の一人歩きは危ないですよ?この辺りは、あまり治安が良くないので。」
笑っているのに、瞳は笑っていなかった。
そこには哀れみすらない。
ただ、眠りへ誘う者の慈悲だけがあった。
ジャドの意識が闇に溶け落ちていく中、レムはそっと手を伸ばし、彼の額に触れた。
その手は驚くほどに温かく、血の通った人間のものに思えた。
「おやすみなさい、ジャド刑事。」
そして、ジャドの瞼は閉じた。
雨はまだ、止んでいなかった。
路地裏に響くのは、ふたたび、静かな水音だけだった。
時計の針が深夜二時を告げると、店内の空気が微かに揺れた。
レムは手慣れた仕草でカウンターを拭き、瓶のひとつひとつを静かに棚へと戻していく。
音楽はすでに止まり、ネオンの明滅だけが空間に残響を刻んでいた。
レムはドアに鍵をかけ、雨の街へと姿を消した。
その少し離れたビルの軒下。
黒いコートの影が、音もなく身を縮めていた。
ジャドだ。
雨の音とネオンの脈動に紛れるように、じっと目を凝らしている。
レムが何者かを証明するためには、証拠が要る。
口では語らない男なら、動きを見張るほかない。
レムは傘もささず、濡れることを厭わない様子で歩いていた。
その足取りはゆっくりと、しかし迷いなく。
まるで、雨に濡れるのも彼の演出の一部であるかのようだった。
ジャドは距離を保ちつつ、尾行を続けた。
右手には小型のレコーダー、左手はいつでもホルスターに伸ばせるように緊張している。
この一帯で起こった連続強姦事件。
怪異のような淫魔の存在。
それを掴むために、ジャドは眠気と体温の低下に耐えていた。
路地裏に入ったレムは、ふと立ち止まった。
ジャドも即座に壁に身を寄せ、息を殺す。
濡れたコンクリートの匂いが鼻をつく。
レムは振り返らない。ただ、細い指で濡れた髪を払うだけだ。
(気づいていない……いや、違う。)
ジャドの胸に、直感が灯った。
レムの歩みには、わずかながら「見せている」匂いがある。
わざと、こちらに追わせているのではないか。
その思いが脳裏をかすめた瞬間だった。
風が止んだ。
音が、消えた。
雨は確かに降り続けているはずなのに、ジャドの耳には何も届かなかった。
代わりに、どこか遠くで囁くような声がした。
男とも女ともつかない、甘く湿った響き。
視界が滲む。
ジャドは反射的に身を起こそうとしたが、体が動かない。
脳だけが覚醒し、身体だけが泥の中に沈んでいくような、奇妙な感覚。
「安心して。少しだけ、夢を見るだけです。」
それは、レムの声だった。
けれどバーで聞いた声とはまるで違う。
もっと深く、もっと肌に触れるような声。
気づけば、目の前にレムがいた。
傘も差さず、濡れた髪を額に垂らしたまま、こちらを覗き込んでいる。
紫の瞳が夜の闇を吸い込み、光のない星のように輝いていた。
「夜の一人歩きは危ないですよ?この辺りは、あまり治安が良くないので。」
笑っているのに、瞳は笑っていなかった。
そこには哀れみすらない。
ただ、眠りへ誘う者の慈悲だけがあった。
ジャドの意識が闇に溶け落ちていく中、レムはそっと手を伸ばし、彼の額に触れた。
その手は驚くほどに温かく、血の通った人間のものに思えた。
「おやすみなさい、ジャド刑事。」
そして、ジャドの瞼は閉じた。
雨はまだ、止んでいなかった。
路地裏に響くのは、ふたたび、静かな水音だけだった。
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