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不完全な世界の中で
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ガタンッ!
棚の金属音が耳を打った刹那、黒川の呼吸が止まった。
咄嗟に振り返る。
だが、通路には誰もいない。
影が揺れているだけ。
風か、幻か。あるいは意図的な「誘い」か。
全身に粟立つ感覚を抱えたまま、黒川はそっと歩みを戻そうとした。
だが、背後に何かがいた。
「……動くな。」
低く、静かな声だった。
その音が耳に届いた瞬間、背筋が氷のように固まる。
振り向くことができなかった。
声の主が誰なのか、黒川にはわかっていた。
「ここで何を?」
声色に怒気はなかった。
ただ、異様に整っていた。
黒川の肩に冷たい汗がつうっと伝う。
右手のライトを絞るように持ち直す。だが……。
背後から細い何かが伸びた。
黒川はそれに気づく間もなかった。
脇腹に針のような痛み。
瞬間的に振り返ろうとするも、足がもつれた。
視界がぐらつき、ライトが床に転がる。
「っ……な……にを……!」
言葉が舌先で崩れた。
注射……今のは。
「怖がらなくていい。これは神経系に作用する低分子型の鎮静剤です。あなた程度の体格なら、一分も経てば立てなくなる。」
暗闇の中で、白崎の声がやけに明瞭に響く。
黒川は目の前の空間を掴むように手を伸ばすが、指先に力が入らない。
膝が折れた。
全身がぐらぐらと傾き、床に倒れ込む。
視界の隅に、黒いブーツが映る。
その先に立つ人物の顔は、ライトの角度で影に沈んで見えない。
白崎は静かにしゃがみ込み、黒川の顔を覗き込んだ。
薄暗い中で、その瞳だけがわずかに光っていた。
黒川は口を開こうとするも、喉から声が漏れない。
舌が重い。
焦点が合わない。
「安心してください。命までは取りません。」
白崎はスッとポケットからナイロン製の結束バンドを取り出す。
慣れた手つきで黒川の両手首を後ろに回し、音を立てて固定した。
首筋に汗がにじむ。
冷たい床に頬をつけたまま、黒川はなんとか目を動かす。
白崎の指先が、自分の頬を優しくなぞるのがわかる。
その手つきに暴力性はない。
むしろどこか慈悲深くすらあった。
「お休みなさい、黒川さん。」
耳元で囁くその声は、どこまでも冷静だった。
白崎はもう一本の注射器を取り出し、ためらいなく黒川の首筋に差し込む。
黒川の意識は、そこで断ち切られた。
棚の金属音が耳を打った刹那、黒川の呼吸が止まった。
咄嗟に振り返る。
だが、通路には誰もいない。
影が揺れているだけ。
風か、幻か。あるいは意図的な「誘い」か。
全身に粟立つ感覚を抱えたまま、黒川はそっと歩みを戻そうとした。
だが、背後に何かがいた。
「……動くな。」
低く、静かな声だった。
その音が耳に届いた瞬間、背筋が氷のように固まる。
振り向くことができなかった。
声の主が誰なのか、黒川にはわかっていた。
「ここで何を?」
声色に怒気はなかった。
ただ、異様に整っていた。
黒川の肩に冷たい汗がつうっと伝う。
右手のライトを絞るように持ち直す。だが……。
背後から細い何かが伸びた。
黒川はそれに気づく間もなかった。
脇腹に針のような痛み。
瞬間的に振り返ろうとするも、足がもつれた。
視界がぐらつき、ライトが床に転がる。
「っ……な……にを……!」
言葉が舌先で崩れた。
注射……今のは。
「怖がらなくていい。これは神経系に作用する低分子型の鎮静剤です。あなた程度の体格なら、一分も経てば立てなくなる。」
暗闇の中で、白崎の声がやけに明瞭に響く。
黒川は目の前の空間を掴むように手を伸ばすが、指先に力が入らない。
膝が折れた。
全身がぐらぐらと傾き、床に倒れ込む。
視界の隅に、黒いブーツが映る。
その先に立つ人物の顔は、ライトの角度で影に沈んで見えない。
白崎は静かにしゃがみ込み、黒川の顔を覗き込んだ。
薄暗い中で、その瞳だけがわずかに光っていた。
黒川は口を開こうとするも、喉から声が漏れない。
舌が重い。
焦点が合わない。
「安心してください。命までは取りません。」
白崎はスッとポケットからナイロン製の結束バンドを取り出す。
慣れた手つきで黒川の両手首を後ろに回し、音を立てて固定した。
首筋に汗がにじむ。
冷たい床に頬をつけたまま、黒川はなんとか目を動かす。
白崎の指先が、自分の頬を優しくなぞるのがわかる。
その手つきに暴力性はない。
むしろどこか慈悲深くすらあった。
「お休みなさい、黒川さん。」
耳元で囁くその声は、どこまでも冷静だった。
白崎はもう一本の注射器を取り出し、ためらいなく黒川の首筋に差し込む。
黒川の意識は、そこで断ち切られた。
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