BUDDY-0-

TERRA

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不完全な世界の中で

19

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刑部は、駅前の古い喫茶店でコーヒーを飲み干すと、懐の手帳を指で叩いた。
白崎裁。
彼の名は、いくつかの失踪事件に関連して浮かび上がってきた。
直接の証拠はない。
だが、その姿は、不自然なほど清潔だった。

午後、彼は白崎の周囲を調べることにした。

「この方ですか?ええ、たまにここのベーカリーに来てくれますよ。」
若い店員が、ふと目を細めた。

「いつもスーツ姿で、背が高くて、姿勢も良くて。礼儀正しくて、声も穏やかで……正直、ちょっと緊張しちゃうくらいの紳士ですね。」
刑部は軽く頷き、他にも何か気づいたことがないか訊ねたが、返ってきたのは「完璧な人」という曖昧な印象だった。

近くのクリーニング店でも同様だった。
「あの人ね、うちの店には毎週ジャケットを預けに来るのよ。いつも綺麗に着てるのに、ちゃんとメンテナンスも怠らないっていうのかしら。話し方も優しくて、いっぺん会っただけで、こう……気を許しそうになるのよね。」
刑部は、目の奥に冷たい光を宿しながら、次の相手のもとへ足を運んだ。

どの証言も、同じように整いすぎていた。
礼儀正しく、穏やかで、仕事もきちんとしていて、誰にも悪印象を与えない。否、むしろ好印象を与えすぎている。
あまりにも完璧に作られた仮面のように。

刑部はふと、白崎の過去に思いを巡らせた。

彼の出自を辿ると、養護施設で育ち、十歳の頃に裕福な老夫婦に引き取られた記録がある。
老夫婦はすでに亡くなっており、白崎には現在、身寄りと呼べる存在はいない。
だが、その養家の財産を背景に、彼は学業で頭角を現し、エリートの道を進んできた。
弁護士としてのキャリアも順風満帆で、行政にも顔が利く。
むしろ、社会的には模範的人物とされている。

だが人の心を知る刑部には、かすかな違和感が残った。
誰もが良い人と口をそろえる裏側に、奇妙な静けさがあった。
白崎を語る声には温度がない。
親しみのこもった言葉のはずなのに、まるで誰も彼の内側を知らないような気配がした。

完全に整った外側に、何かが封じ込められている。
そう、誰もその扉を開けたことがないような。

刑部は手帳を閉じ、つぶやいた。
「お前は……完璧すぎるんだよ、白崎裁。」

この静かな街に、孤独な仮面を被った怪物がいるとすれば、それは人々に最も好かれている、この男かもしれない。
彼の過去に踏み込むには、まだ足りない。
だが確信に近いものが、刑部の胸に、静かに根を張り始めていた。
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