スパダリは潔癖男子の夢をみる

TERRA

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スパダリは潔癖男子の夢をみる/日常編

男子寮の大掃除

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冬休み目前のある朝。
私立漢義学園の寮は、年の瀬を告げる静けさの中にあった。
吐く息が白く染まる廊下を、長門はゆっくりと歩いていく。
その手には、珍しく掃除道具一式が抱えられていた。

「こんなに寒い朝にやることになるとはな。」

独り言のように呟きながら、長門は桶狭間の部屋の前で足を止める。
ノックをする代わりに、そっとドアを開けると、奥には毛布にくるまった桶狭間の姿があった。
寝息がかすかに聞こえ、朝の淡い光が横顔を照らしている。

「……おい。」

声をかけても、反応はない。
長門は肩をすくめ、少しだけ迷った末、そっと毛布の端を引いた。
冷気が流れ込んできて、桶狭間の睫毛がぴくりと揺れる。

「……長門?」

低く掠れた声。
目を開けた桶狭間は、眠たげな瞳で長門を見上げた。

「今日だろ、大掃除。」
「……ん。」

長門は、そんな様子を見て小さく笑う。
「朝弱いくせに、掃除になると目の色変わるからな。……ほら、起きろ。」

その言葉に押されるように、桶狭間はようやく上体を起こした。
冷たい空気が肌を刺すようで、思わず肩をすくめる。
その様子が、どこか無防備で、長門の胸がふとざわつく。

「……本当に、毎年これが来ると年の瀬だって実感するな。」

桶狭間がぼそりと呟くと、長門は笑いながら頷く。

「ま、どうせお前がいれば今日も完璧に終わる。頼りにしてるからな、副会長。」

「……口だけはうまいんだから。」
それでも、桶狭間の口元はわずかに緩んでいた。


午前中、寮内は静かに、けれど着実に掃除の音が響いていた。
バケツの水の音、窓を磨く布の擦れる音。
長門は時折寮生たちに声をかけながらも、ふと窓際で黙々と作業を進める桶狭間に目を向ける。

細い指が、冷たい窓ガラスの隅々まで丁寧に拭き取っていく。
光が差し込み、その横顔が透明な美しさを増していくようで、長門は思わず立ち止まった。

「夢中になりすぎて凍えるなよ?」
声をかけると、桶狭間は手を止め、ちらりとこちらを見た。

「別に、夢中になってる訳じゃない。」

その冷静な目線が妙に心地よく、長門は肩をすくめた。
「……俺になら、夢中になっていいけどさ。」

その言葉に、桶狭間は少しだけ目を見開き、すぐに窓拭きに戻った。

その背中は、ほんのわずかに耳まで赤くなっているように見えた。


午後、掃除も終盤に差し掛かったころ、寮は見違えるように整っていた。
疲れ切った寮生たちが玄関先に集まると、長門がゆっくりと声を上げた。

「お疲れ。これで気持ちよく年が越せるな。」

冷たい風が吹き抜ける。
桶狭間もその場に立ち、静かに周りを見渡してから、長門の方を向いた。

「お前、思ったより頑張ったじゃないか。」
「だろ?俺だってやるときはやるんだ。」

言いながら長門はいたずらっぽく笑うと、ふと少し真顔になり、桶狭間をじっと見た。

「……来年もさ、お前と一緒なら、何でも乗り越えられる気がする。」

桶狭間は一瞬だけ戸惑い、しかしすぐに視線を外し、小さく頷いた。
「……俺もだ。」

冬の夕暮れ。
静かな空気の中で、二人の間にほんのりとした温かさが滲んでいく。
その瞬間だけは、掃除の疲れも、冷たさも、どこか遠くに消えていくようだった。
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