初恋〜夏の残像〜

TERRA

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夏の残像

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 日が傾き始め、空は茜色に染まり始めていた。  
 港町の静けさが徐々に深まり、遠くでカラスの鳴き声が不気味に響く。  

 陸は一人、公衆トイレへと向かっていた。  
 細い道を歩くたびに、足元の砂利が小さく音を立てる。周囲には人影がなく、風が草むらを揺らす音だけが耳に届く。  

 トイレの扉を押し、中に入ると、湿った空気が肌にまとわりついた。  
 薄暗い照明の下、陸は鏡の前で手を洗おうとした。  

 その時。
 背後から、低く掠れた声が響いた。  

 「やっと……みぃ…つけタァァァ。」  

 その声は、まるで底知れぬ闇から這い上がってきたような、不気味な響きを帯びていた。  

 陸は反射的に振り返る。  
 そこには、一人の男が立っていた。  

 くたびれたシャツを着たその男は、濁った目でじっと陸を見つめている。  
 その目には、狂気とも言える光が宿っていた。  

 「……っ!」  
 陸は息を飲み、後ずさる。  

 しかし、男は一歩、また一歩と近づいてくる。  

 男の口元がゆっくりと歪み、不気味な笑みを浮かべる。  

 次の瞬間。
 男が陸に襲いかかった。  

 ドンッ!
 「っ!」  

 陸は体当たりされ、個室の中へと押し込まれる。  

 扉が激しく閉じられ、狭い空間に二人の息遣いが響く。  
 陸は必死に抵抗しようとするが、男の力は圧倒的だった。  

 「やめ…ろ……!」  
 陸は震える声で叫ぶが、男はその声を無視してさらに力を加える。  
 狭い個室の中で、陸は壁に押し付けられ、身動きが取れなくなる。  

 「ちゅぱ……レロォ゙……」
 耳の中に生暖かい不快な感触が広がっていく。
 男の息が荒く、耳元で響く。  

 その音が、陸の恐怖をさらに掻き立てた。  

 「ハァハァ……お嬢…ちゃん……。」  

 男の声が低く、冷たく響く。  
 そしてその手は陸のシャツの内側に侵入していく。

 陸は必死に手を伸ばし、何か掴めるものを探す。  

 そして……。

 手に触れたのは、トイレのタンクの蓋だった。  

 陸は全力でそれを持ち上げ、男の頭に叩きつけた。  

 「っ!」  
 鮮血が飛び散る。
 男は一瞬怯み、陸はその隙を突いて個室から飛び出した。  

 息を切らしながら、陸はトイレの外へと駆け出す。  

 背後では、男の怒声が響いていた。  

 陸は振り返ることなく、ただひたすらに走り続けた。  

 夕闇が迫る中、陸の足音が静かな町に響き渡る。  
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