初恋〜夏の残像〜

TERRA

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夏の残像

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 港町の昼は、夏の日差しに包まれながら、どこか懐かしい活気を帯びていた。  

 海沿いの道を歩くと、潮風が吹き抜け、遠くで漁船のエンジン音が響いている。道端の古いベンチには、地元の老人たちが涼を取りながら世間話をしていた。  

 通りには民宿や飲食店が並び、看板にぶら下がる赤提灯が風に揺れている。観光客の姿もちらほら見え、店先からはかき氷の甘い香りや焼き魚の煙が漂っていた。  

 園部海は、この賑わいの中をゆっくりと歩いていた。  

 手にしたスマホの画面には、持ち出し禁止の警察資料から撮影した一枚の似顔絵が映し出されている。  

 彼は、民宿の受付へ向かい、静かに尋ねる。  
 「この男、見たことありますか?」  

 受付の女性は少し首を傾げた後、申し訳なさそうに答えた。  
 「うちのお客さんじゃないけど……」  

 海は淡々と頷き、次の場所へと向かう。  
 別の宿の店主に尋ねると、少し考え込むように視線を向けられた。  

 「コイツ知ってますよ。祭りの時期に何度か見た事あります。挙動不審だったから覚えてるけど……」  

 海は眉をひそめながら、その言葉の続きを待つ。  
 「どこで?」  

 「祭りの準備をしてる連中の近くでウロウロしてたね。じっと何か見てることが多かったな。」  

 さらに聞き込みを続けると、その男が最近このあたりに向かったらしいことが分かった。  
 海はスマホの画面を閉じ、通りの向こうの海を見つめながら静かに歩き出した。  


 夏の午後、海辺では潮風が吹き抜け、砂浜を穏やかに撫でていた。  

 遠くでは波がゆっくりと寄せては返し、水平線の向こうには小さな漁船が浮かんでいる。  

 炭火の音が軽く弾け、香ばしい煙が海風に乗って広がる。  

 「この肉、なかなかいけるな。」  
 颯太が満足げに言いながら、箸を動かす。  

 姉の理央は炭の火を気にしながら笑う。  
 「海も来ればよかったのにね。」  
 「まあ、忙しいんじゃないか?」  

 颯太は静かに答えながら、グラスの水を傾ける。  

 波の音と談笑が混じり、穏やかな時間が流れていた。  

 ふと、陸が立ち上がる。  
 「ちょっと、トイレ行ってくる。」  

 「おーい、迷うなよ?」  
 颯太が冗談めかして言うが、陸は軽く笑って手を振った。  

 砂浜から細い道を抜け、町の外れにある公衆トイレへ向かう。  

 歩くたびに足元の砂がさくさくと音を立て、潮の香りが微かに強まる。  

 防波堤の先には漁村の家々が並び、昼下がりの静けさが広がっていた。  

 ふと、陸は足を止める。  
 背筋に微かな違和感。  

 まるで誰かの視線を感じるような……いや、気のせいか?  

 振り向いたが、そこには波の音だけが響いている。  

 陸は静かに息を整え、再び歩き出す。  

 だが、トイレに入る直前。  
 何か……嫌な気配を感じた。  

 潮風に混じる、微かに湿った匂い。  
 影が、近くにいる。  
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