黄泉ノ彼岸葬儀店

EP.3Lost Echoes失われたこだま

5

「……え？まじでここ？」  
棺は崖の縁に立ち、眉をひそめる。  

目の前には急な傾斜。  
少し足を踏み出せば、そのまま転がり落ちるような不安定な地形だ。  

「そりゃそうだろ。紅崎はここで足を滑らせたんだから。」  
黄泉は肩をすくめながら、無造作に岩を蹴る。  

棺は渋い顔をしながら、崖下へと視線を落とす。  
木々の隙間から、半ば土に埋もれるようにしてカメラケースが転がっているのが見えた。  

「……遠すぎるって。」  
棺は愚痴っぽく言いながら、慎重に足を踏み出す。  

「行けるだろ？」  
黄泉は軽い調子で言いながら、崖の岩肌を確認する。  
「ほら、あそこの岩にしがみつけば」  

ゴロッ

その瞬間。  

黄泉が踏み込んだ岩が、あっさりと崩れた。  

「っと……！」  
彼は軽くバランスを取るが、その拍子に体が前へ滑る。  

「黄泉！」  
棺は慌てて手を伸ばす。  

ガッ――！  

棺は黄泉の腕を掴んだ。  
しかし、体勢が悪い。  

棺もまた、傾斜の端に足を取られ、前へと傾きかけた。  

「うわっ、ちょっと待っ――！」  

ゴロゴロゴロ

二人は勢いよく転がりながら、崖下へと滑り落ちていく。  
視界が回転し、体が浮遊するような感覚。  

バサッ――！  

棺は何かにぶつかるように止まった。  
息を整えながら、慎重に体を起こす。  

「っ……痛ぇ……。」  
棺は呻きながら、周囲を確認する。  

すると、すぐ近くに黄泉が座り込んでいた。  

「お前、掴むならもっと優しく掴めよなぁ……。」  
黄泉は軽く首を回しながら、苦笑する。  

「んなこと言ってる場合か！」  
棺は息を荒げながら立ち上がった。  

二人は周囲を見回す。  
崖下には散乱した岩と、木々が折れた跡がある。  

そして……その中心に。  

カメラケースが、半ば土に埋もれながら転がっていた。  

棺は一瞬息を止めた。  

「……あった。」  

黄泉は無造作に膝をつき、ケースに手を伸ばす。  
土を払いながら、ゆっくりとそれを持ち上げた。  

「紅崎の、カメラだな。」  
黄泉がぽつりと呟く。  

棺は呼吸を整えながら、それをじっと見つめた。  
「……これで、約束は果たせる？」  

黄泉はカメラを軽く回しながら、目を細める。  
「さて、それは……これからだな。」  

カメラを拾ったその瞬間。  
空気が変わった。  

視界がわずかに歪み、色彩が滲むような感覚が訪れる。  

棺はその異変に気付き、黄泉へと視線を向けた。  
「……黄泉？」  

黄泉は口角を上げながら、カメラを棺に渡す。  

「ようこそ、紅崎の最高の一枚へ。」  

世界が弾けるように変わった。  
空が、光に染まる。