黄泉ノ彼岸葬儀店

EP.9沈黙の誓いSilent Oath

5

霧がかった川が静かに流れていた。  

三途の川。
その向こうには、彼岸が広がっている。  
だが、その景色はぼんやりとした霧に包まれ、何もはっきりとは見えなかった。  

鋭田灰二は、川のほとりに立っていた。  
その視線は、霧の向こうをじっと見つめている。  

黄泉が彼の背後に立ち、軽く肩をすくめた。  

「なんだ、迷ってんの？」  

鋭田は振り向かず、低く呟いた。  

「新天地は楽園だと洗脳されるものだよな。」  

黄泉は眉をひそめる。  
「は？」  

鋭田はゆっくりと振り返り、黄泉を一瞥する。  

「お前には聞いていない。」  

その言葉は冷たく、鋭い刃のようだった。  

鋭田の視線は、棺へと向けられる。  

「なぁ、人間。どう思う？」  

棺は一瞬戸惑い、目を見開いた。  

「……えっ？」  

その問いには、答えがあるようでない。  

鋭田は再び川を見つめ、静かに呟いた。  
「渡ったら最後。そう思わないか？」  

棺は何も言えなかった。  
その言葉の重みが、彼の胸に深く沈んでいく。  

鋭田は微かに口角を上げ、短くなった煙草を指先で落とした。  
靴裏でそれを静かに踏み消す。  

次の瞬間。  

鋭田はものすごいスピードで棺に駆け寄った。  

「棺っ！」  

黄泉の声が響く。  

鋭田の手が棺の顔を掴み、アイアンクロウの形で押さえ込む。  
そのまま、二人は霧の中へと飲み込まれていった。