黄泉ノ彼岸葬儀店

EP.9沈黙の誓いSilent Oath

6

ダンッ――！

二人の身体が錆びたガレージの床に叩きつけられた。  

鋭田の手は棺の顔を掴んだまま、アイアンクロウの形で押さえ込んでいる。  
棺は床に打ち付けられ、息を詰まらせながら呻いた。  

「ぐっ……！」  

薄暗いガレージの中、月の光は届かず、空間は冷たい闇に包まれていた。  
散らばる工具が床に響き、鉄骨の影が揺れる。  

鋭田は棺の上にトップマウントの体勢を取り、拳を振り下ろした。  

ゴッ――！

棺は必死に腕を上げてガードするが、鋭田の力は圧倒的だった。  
拳が何度も棺の防御を叩き、嗚咽が漏れる。  

「くそっ……！」  

鋭田は挑発するように口角を上げ、棺の前髪を掴んで引き上げた。  

「立てよ。」  

その声は冷たく、鋭い刃のようだった。  

棺はよろめきながら立ち上がる。  
だが、鋭田はその隙を与えなかった。  

背後に回り込み、棺の首を腕で締め上げる。  
裸締めのような体勢。  

鋭田の身長差が棺を圧倒し、棺の足は床に届かない。  
宙に浮いた状態で、首がどんどん締め上げられていく。  

「ぐっ……！ くっ……！」  

喉を潰されるような声を上げながら、棺は必死にもがく。  
だが、鋭田の力は緩むことはなかった。  

鋭田は棺の耳元に低く囁いた。  

「お前も無になるか？」  

その言葉が棺の胸を突き刺した。  

棺はハッとして背後の鋭田を見た。  
嫌な予感が胸を締め付ける。  

「……引きずり込まれる……！」  

鋭田の脚元が、ゆっくりと消滅し始めていた。  
彼の身体は霧のように薄れ、闇に溶けていく。  

だが、その腕は棺を掴んだままだった。  

鋭田は口角を上げたまま、棺もろとも消えようとしていた。  

「い……やだ……黄泉っ……黄泉ィ！！」  

潰されかけた喉で必死に叫び、前方へ手を伸ばす棺。  

その瞬間、時空の裂け目が現れた。  

ドンッ――！

黄泉が裂け目から着地する。  

「はぁ……ハァ……テメェ……！」  

息を切らしながら、黄泉は鋭田を睨みつけた。  
その目には、見たことのない冷たい怒りが宿っていた。