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恋人ごっこ
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放課後、昇降口の前。
低くなった陽が地面に影を長く引いて、壁が朱に染まっている。
靴のかかとを踏んで外に出た不破の隣に、サイコがぴたりと並んできた。
「今日は、どこにも寄らずに帰るの?」
声は静かで、しかし不破の歩幅を追いながら、さりげなく間合いを合わせてくる。
「……寄り道してく?」
理由はなかった。
ただ、陽が沈むまでにもう少し、誰かと時間を過ごしたかった。
コンビニに立ち寄って、無言のままアイスケースをのぞき込む。
俺はチョコミント、サイコはバニラを選ぶ。会計を済ませて、ふたりで歩き出す。
公園に着く頃には、風が少し冷たくなっていた。
ブランコも滑り台も人影はなく、ベンチだけが夕暮れの光に照らされていた。
腰を下ろして、包装を破る。
冷たい甘さが舌をしびれさせる。
サイコは黙って隣に座り、アイスを食べながらときおり空を見上げている。
「寒くない?」
そう言った彼の声は、まるで独り言のようで。
それを聞いた不破は、指先の冷たさを気にしながらも、首を横に振った。
「いや。平気。」
ビルの輪郭が夕陽を受けて、遠くまでやけに綺麗に見えた。
空の色はゆっくりと、淡い橙から群青へとにじんでいく。
アイスをひとくち齧ったサイコが、ぽつりと呟いた。
「将来の夢とか、ある?」
「……ん?別に、ねぇな。」
少しして、聞き返す。
「お前は?」
「……まだ観察中。」
思わず笑いがこぼれた。
「ずるいな、それ。」
「ふふ。」
サイコの横顔は、ふだんよりも少し柔らかく見えた。
空気の澄んだ中で、ふたりの間に流れる沈黙は、どこか静かで心地よかった。
最後の一口を食べ終えたとき、サイコが少しだけ顔をこちらに向けた。
口元に、小さく白いアイスが残っていた。
何も言わずに、指でそれを拭ってやる。
サイコが目を瞬かせる。
それだけで、なんだか胸の奥がきゅっとなった。
「……ついてた。」
そう言って目を逸らすと、サイコは少し頬を赤くして、また空を見上げていた。
たぶん照れている。
声に出すほどではないけれど、それが伝わってくるのがなんだか嬉しかった。
時間がゆっくり過ぎていく気がした。
ベンチに沈む二人の影は、いつのまにかひとつに重なっていた。
(……このまま、時間が止まればいいのに。)
意味もなく、そんなことを考えた。
ただ一緒にいるだけで満たされることがあるなんて、思ってもいなかった。
その夜。
サイコの部屋の机には、いつものノートが開かれていた。
特別って、たぶん、こういう事。
また、同じ景色を見られたらいいな。
低くなった陽が地面に影を長く引いて、壁が朱に染まっている。
靴のかかとを踏んで外に出た不破の隣に、サイコがぴたりと並んできた。
「今日は、どこにも寄らずに帰るの?」
声は静かで、しかし不破の歩幅を追いながら、さりげなく間合いを合わせてくる。
「……寄り道してく?」
理由はなかった。
ただ、陽が沈むまでにもう少し、誰かと時間を過ごしたかった。
コンビニに立ち寄って、無言のままアイスケースをのぞき込む。
俺はチョコミント、サイコはバニラを選ぶ。会計を済ませて、ふたりで歩き出す。
公園に着く頃には、風が少し冷たくなっていた。
ブランコも滑り台も人影はなく、ベンチだけが夕暮れの光に照らされていた。
腰を下ろして、包装を破る。
冷たい甘さが舌をしびれさせる。
サイコは黙って隣に座り、アイスを食べながらときおり空を見上げている。
「寒くない?」
そう言った彼の声は、まるで独り言のようで。
それを聞いた不破は、指先の冷たさを気にしながらも、首を横に振った。
「いや。平気。」
ビルの輪郭が夕陽を受けて、遠くまでやけに綺麗に見えた。
空の色はゆっくりと、淡い橙から群青へとにじんでいく。
アイスをひとくち齧ったサイコが、ぽつりと呟いた。
「将来の夢とか、ある?」
「……ん?別に、ねぇな。」
少しして、聞き返す。
「お前は?」
「……まだ観察中。」
思わず笑いがこぼれた。
「ずるいな、それ。」
「ふふ。」
サイコの横顔は、ふだんよりも少し柔らかく見えた。
空気の澄んだ中で、ふたりの間に流れる沈黙は、どこか静かで心地よかった。
最後の一口を食べ終えたとき、サイコが少しだけ顔をこちらに向けた。
口元に、小さく白いアイスが残っていた。
何も言わずに、指でそれを拭ってやる。
サイコが目を瞬かせる。
それだけで、なんだか胸の奥がきゅっとなった。
「……ついてた。」
そう言って目を逸らすと、サイコは少し頬を赤くして、また空を見上げていた。
たぶん照れている。
声に出すほどではないけれど、それが伝わってくるのがなんだか嬉しかった。
時間がゆっくり過ぎていく気がした。
ベンチに沈む二人の影は、いつのまにかひとつに重なっていた。
(……このまま、時間が止まればいいのに。)
意味もなく、そんなことを考えた。
ただ一緒にいるだけで満たされることがあるなんて、思ってもいなかった。
その夜。
サイコの部屋の机には、いつものノートが開かれていた。
特別って、たぶん、こういう事。
また、同じ景色を見られたらいいな。
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